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「東京ディズニーリゾートに片道500円以内で行けるところに住まなきゃいけないんです。」

アホかと思われても仕方がないが、高校3年生のとき、進路指導室で担当教員にわたしはそう言った。

わたしにはどうしても上京する理由があった。
それは、東京ディズニーリゾートに片道500円以内で行けるところに住む必要があったから、である。

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わたしの出身は北関東の田舎。
東京までは約3時間ほどで行き来でき、物理的に考えても決して到達不可能な場所ではなかった。しかしこの「行こうと思えば行ける」に隠された見えない壁の歯がゆさたるや、微妙な地方出身者の多くが共感してくれることだろう。

中でもわたしは東京への憧れが明確だった。
それは他でもない「東京ディズニーリゾート」という存在によるものだ。
厳密には千葉である、というマジレスは置いといて、幼少期の頃からわたしは「東京ディズニーリゾートで働くこと」がいちばんの夢だった。東京に住んで、片道500円で、東京ディズニーリゾートに働きに行く、いつ誰がどこでそんなロールモデルを刷り込んだのかは分からないが、わたしはこの暮らしぶりを実現させるために、どうしても上京する必要があったのだ。

我が家の家庭方針上、上京と大学入学はワンセットだった。
したがって高校時代の大学選びといえば、地図上の「東京ディズニーリゾート」を中心に、片道500円以内で辿り着ける距離を取って円を書き、その半径内に位置する学校に行く、という不純すぎる決め方だった。
もはや、大学 < ディズニー であることは歴然。高校の先生は「頑張る原動力はなんでもいいよ」と、半ば呆れた様子でわたしの志望校を承認したが、そのおかげで今から約7年前、わたしは東京ディズニーリゾートを目指して「上京」を果たしたのだ。

しかし、その後の生活がバラ色だったかと問われると、決してそうではない。
念願の東京ディズニーリゾートで働く生活も、上京後まもなく叶えることができたが、慣れない東京暮らしと、多忙を極めたテーマパークでの仕事、月曜の朝イチから土曜の昼間までみっちり詰められた大学の時間割とが重なって、わたしの身体は一気に疲弊し、完全に病んだ。

あまりの忙しさに昼間はカロリーメイトといろはす1本、夜は半額になった西友のお弁当を買って帰る生活が続き、半年も過ぎたところで何かがプツンと切れ始める音がした。この時の出来事を「忙しさを言い訳に逃げた」と、そう言われたらそうかもしれないが、大学1年生が終わる頃には身も心も限界に達し、わたしは憧れのディズニーリゾートを退職、大学に顔を出すことも激減した挙句、6畳の狭いアパートで壁を見つめるだけの生活に落ちぶれた。今思えば、我ながらあまりに真面目過ぎたのだと思う。情報が多すぎる大都会で肩の力を抜くことを知らず、はち切れんばかりに自分の想いを詰め込んだ結果、情けなくも制御不能に陥っていた。この時、わがままとも言えるほど無邪気に自分の気持ちを放つ他人が異様に美しく見え、自分もこれくらい好きにしていいんだと思い焦がれたことがあったけれど、それはまた別のお話。

兎にも角にも、すべての願いを叶えたと同時に、すべてを無に帰した上京後の1年間。わたしの東京暮らしは完全に失敗したと、その当時は思い切り落ち込んだことを今でも鮮明に覚えている。


***


さて、そんなどん底と思えた18歳当時の上京。
あれから7年、わたしは今でも東京で暮らしている。
東京ディズニーリゾートに片道500円以内で行けるところで暮らしている。

わたしにとっての東京は、ふらっと東京ディズニーリゾートに足を運べること、これが何にも勝る魅力で、そのためにここでの暮らしにこだわっていると言っても過言ではないのだ。

憧れ続けたディズニーリゾートでの仕事に挫折して、上京したことで狂わされた自分の人生に腹が立って、東京にいることに全くもって意味を見出せなくなった時期もあったけれど、思えばわたしの原点は何も変わっておらず、たった1つの「好き」を原動力にどうにでも頑張れるんだよなと、再認識できるようになった。皮肉な話だが、それが上京して分かったことだった。

いま東京に暮らしているのは、なにも自分だけの力とは思っていない。まず間違いなく努力はしたけれど、それ以上に周囲の協力があってこそだ。だが、仕事帰りにふらっと東京ディズニーリゾートを訪れ、あの夢の場所から眺める東京のビル群の美しさは、わたしだけが知っている。

特別なことは何もないし、悩んだり落ち込んだりすることばかりだし、未だに東京タワーやレインボーブリッジにときめいてしまう日々だけれど、そんな恥ずかしさを超えた先に、この罪深きも夢に溢れた魅力が、東京にはある。
わたしはまだまだ、この生活を謳歌したい。


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上京組に刺さるであろう応援ソング置いておくね。
(May the force be with you ~!)

#上京のはなし

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