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『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』に毒されてるだけな気もするが、階層社会の到来を感じる今日この頃。

相変わらずどうでもいいことを真面目に、真面目なことを適当に語りたいだけの性分でお送りしている note だが、本日も漏れなくそういう話である。

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今年2024年は、映画やドラマや音楽シーンの盛り上げりがイマイチ…と思っている人も多いかもしれないが、実はその裏で海外アニメがアツい。個人的には、今年いち激アツホットなカルチャーは海外アニメだと思っている。

代表格は無論、遂にそのベールを脱いだ『ハズビン・ホテル』のAmazonプライム独占配信だ。

『ハズビン・ホテルへようこそ』


若き女性アニメーター ヴィヴィアン・メドラーノが手掛けるこの"アダルト・アニメ"。

2019年にYouTube上で公開されたパイロット版から待つこと5年。
遂にあのA24スタジオを引っ提げ、大傑作のシリーズ全8話がAmazonプライムに登場したことで、今年は世界中のオタク共が大歓喜している。

オープニングのロゴが毎回かわいいのよ。


既に長期のシーズン化も決定し、『ハズビン・ホテル』のスピンオフ作品としてYouTube上に存在する『ヘルヴァ・ボス』も異例の再生回数を叩きだし、着実にそのファンを増やしている様子が見て取れる。

『ヘルヴァ・ボス』
無料で観て良いんですか!?というハイクオリティアニメ。


わたしも遅ればせながら、この夏を通じて『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』の全エピソードを(それぞれ2巡ずつ…笑)完走し、すっかりその沼に落ちた者のひとりなのだが。

見れば見るほど面白い両アニメの魅力は、ひとえに現代社会の実態を投影した際どさ、妙な「階層社会」のリアリズムを感じられるからだと思っている。
その他、さまざまなセクシュアリティの取り上げ方や、メディアの在り方、家族や親類関係の複雑さも両アニメの魅力であるが、今回の記事では割愛しておこう。

決して万人におすすめできるアニメではないのだが、モノ好きな方はぜひ一緒にこの『ハズビン』『ヘルヴァ』沼に落ちましょう、という誘い文句を添えつつ、今日も今日とてぜひわたしのくだらな考察に付き合ってくれたら幸いだ。

(なお毎度のことですが、わたしの記事はあくまでエンタメです。今日は珍しく社会だの格差だの言うてますが、陰謀論とか政治的な意図は何もありません。娯楽を楽しむためのいち視点でしかないので悪しからず。)



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『ハズビン』『ヘルヴァ』の世界


と、いきなり何の説明もなしに本題に入るのは不親切であろうということで、まずはこのアニメの概要を簡単に伝えておこう。


『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』は…地獄を舞台に、そこで抱える諸問題を解決(?)していくシチュエーションブラックコメディである。

独特なキャラクターデザインだよね。


『ハズビン・ホテル』は、地獄の人口過密に対する天界からの虐殺を止めるべく、悪魔になった罪人を更生させる施設「ハズビン・ホテル」を経営していくという物語で、
『ヘルヴァ・ボス』は、地獄で生まれ育った最底辺の悪魔インプによる暗殺専門企業「I.M.P」の暗殺家業と、それに関わる悪魔たちのドタバタ物語となっている。

おそらくこの説明をしたところで「なるほど、分からん」状態かと思うが、とにかく両作品の世界は「地獄」というものを舞台に据え、その地獄で生きる悪魔たちのどうしようもない奮闘ぶりを描いていく、というアニメなのだ。

物語にはまだまだ明かされていない部分も数多く、その"設定"には考察の余地しかないのだが、特筆して面白いのは、地獄に各"階層"が存在していて、その世界にも権力を持った者と持っていない者、またそれらを結び付ける"契約""色情"が複雑に絡み合っているところにある。

『ハズビン・ホテル』の人気キャラ エンジェル・ダスト。
まさかの"男娼"というキャラクターです。


死んでもなおそんな人間臭いことやってんの…?と思う人もいるかもしれないが、お察しの通り本アニメは「地獄」を描く物語というより、「現代」の写し鏡として「地獄」という舞台を採用したアニメとして見るのが適切だ。

殺人、暴力、セックス、麻薬、パワハラ、セクハラ、モラハラオンパレードの倫理観ぶっ壊れアニメであり、それの何が面白いの?と顔をしかめる人もいて然るべきだが、どっぷりとこの世界に浸かれば浸かるほど、あれ?これって地獄?なんなら今この瞬間の現実をただデフォルメしただけじゃない?という錯覚に陥ってしまう、まったく巧妙なブラックコメディとして出来上がっている。

まずはこの『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』の世界の"面白さ"を共有できたら幸いだ。


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"二極化"じゃなくて"階層"


さて、両アニメの世界をざっくりと認識してもらったところで、早速本題に入っていきたいのだが…

皆さんはこれからの世の中が、一体どんな姿になっていくと想像しているだろう。

『ヘルヴァ・ボス』のキャラ ストラス。
地上にアクセスできる魔術書を持っています。
妻子持ちの貴族でバイセクシャルです(情報量)


昨今の社会情勢を見ていると、よく「これからの世の中はもっと貧富の差が大きくなって、どんどん二極化していく」という人がいるが、わたしはその意見に100%は賛成できない。社会は基本的にクズだけど、決してアホではないゆえに、単純な二極化にとどまらず、もう少しその格差構造を有耶無耶にする策が採用される気がしているからだ。

そこで考えられるのが、"二極化"ではなく"階層社会"の到来である。
大衆を何段階かの階層に分けて、一定の生活水準を設ける構造が間もなく到来する(もしくはもうしている)のではないかと、わたしは感じている。

実はこの"階層社会"、『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』ではかなり重要な概念として、物語の舞台設定に敷かれている。

本アニメで描かれる地獄は7段階ほどの階層に分かれ、その階層の違いが絶妙な服従関係を表していたり、個人的な感情の複雑さを表現していたりして、つまるところこの構造理解が、そっくりそのままキャラクターへの感情移入に繋がったりする、というわけなのだ。

階層はそれぞれ…
「傲慢の世界」
「憤怒の世界」
「暴食の世界」
「強欲の世界」
「色欲の世界」
「嫉妬(?)の世界」
「怠惰の世界」

…とされ、アニメでは虹のような7色に分かれて描かれている。

急にメルヘンな色分けにしてるあたり結構な皮肉だよね。
好き。


なお現在公開されている『ハズビン・ホテル』シーズン1は、主に「傲慢の世界」が舞台で、7つの階層社会がより詳細に描かれているのは『ヘルヴァ・ボス』の方である。

アニメ内の考察としては、それぞれの階層にそれぞれの7大君主、つまりは7つの大罪をシンボルとした絶対的な悪魔神がいるようで、それらの関わり合いを探るのが、ひとつの面白さであるわけなのだが、現実にそうした君主はいないにせよ、この階層構造は非常にリアルさを帯びていると感じられる。

『ハズビン・ホテル』のキャラ アラスター。
別名はラジオデーモン。
この世で多くの命を奪うのは武器ではなくメディアであるという最高の皮肉が効いたベストキャラクター。


おそらくこれを読んでいる皆さんも肌で感じていることと思うが、どのような場所で、どのような時間を過ごし、どのようなモノを、いつどこで買うかといった消費者行動を振り返るだけでも、ここで言わんとしている階層の差は歴然と見えてくるだろう。

そんなの今に始まったことではない…と言えばそれまでだが。
今の時代にこうした"大人向けアニメ"が、目に見えて分かる色付けを持って世界中に発信されている事実はあるわけで、単なるエログロ地獄のコメディアニメとして、第三者的に笑って観ているだけでいいのか?と考えさせられるわけだ。


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とはいえ二極化もあるわけで・・・


とはいってみたものの。
そもそも論として、この世は古来より何事も二極化してきた世界なのである。

人類の根本は「男と女」という二極であるわけだし、「生かす者と生かされる者」の見えない二極化は良くも悪くも常に存在し続けている。

『ヘルヴァ・ボス』のメインキャラ ブリッツとその部下たち。暗殺企業「I.M.P」の様子です。
地獄でも雇う側と雇わられる側の構図があるわけですね。


本アニメの概要も、前段では「地獄」の内部だけにフォーカスしてしまったが、もっと俯瞰してみると、そもそも「天国と地獄」という二極化された世界が大前提として存在し、その上で細分化された社会が「階層」になっているわけなのだ。

つまり、視点がいくらマクロ的になろうがミクロ的になろうが、結局「強者と弱者」を作る実態(または作らざるを得ない運命)は横たわっているわけで、それに対する抗いではなく、その世界の可笑しみを感じ取るという見方もできるはずなのである。

加えてこれは、決して「正義と悪」を決定付けるものではなく、互いに「持ちつ持たれつ」の関係性であることを印象付けているのが、このアニメの味わい深いポイントだ。

ことごとく皮肉が効いた『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』の真骨頂ともいえるのは、本日のトピックである"階層構造"にしろ、それを成り立たせる"二極化"の前提条件にしろ、それらが非常に柔軟で、互いに干渉し合えることに、ある種の豊かさを見出していることだ。

『ハズビン・ホテル』のメインキャラ チャーリーとヴァギー。
ホテル経営をするふたりは素敵なパートナーです。


『ハズビン・ホテル』の主人公であるチャーリーを見ても、『ヘルヴァ・ボス』の主人公(?)であるブリッツを見ても、地獄を抜け出したい・地獄を無くしたいという意識があるわけではないと見て取れる。

あくまで"二極化"され"階層"が作られた世界(地獄)は自然なこととして受け入れた上で、「地獄と天国」「地獄と人間界」「地獄の中の各階層」といったように別の世界同士において、それぞれに「干渉」ができないことに対し、異を唱えたり行動を起こしたりしている
その様子が実に"現代的"で"現実的"ではないかと、わたしは思うのだ。

先にも述べたが、おそらくこの世の"階層社会"はもう到来しているのである。

これだけ世の中のものを数値化して見える化させた上で、その"データ"を用いた"階層"なるものが出来上がっていなかったらむしろ不思議に思えるからだ。

"階層"というと聞こえが悪いかもしれないが、"ラベリング"、"ネーミング"、"適材適所"といえばもっともその実態が分かりやすく見えてくるかもしれない。

問題は"二極化"したり"階層社会"になることでなく、それによって生まれる"断絶"ではないか。それを防ぐことが、これからを生きる者の努めなのではないかと、本アニメから考えることができるのである。



しかしこれは『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』だけに見る特徴ではない。近年盛り上がりを見せたあらゆるカルチャーは、わたしが思うにどれも"断絶"を許さないというメッセージが込められていると思う。

○○ファーストとか個人主義とかが叫ばれる一方で、個(孤立)を許さない作品もたくさんあるよね。


その上で、5年の月日を経て、ようやく日の目を浴びた『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』は、その最たる例ではないかと感じるのだ。

本アニメは実に様々な角度から考察する余地があるが、わたしはここに、階層の悪ではなく、断絶の悪として視聴する見方を置いておきたいと思う。

貴族のストラスと、インプのブリッツ。
階層・出自・セクシュアリティ、すべての違いに、すべて強行突破していく切り口が凄まじい。


それもこれも、ただ『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』に毒されているだけな気もするが、階層社会の到来を感じる今日この頃、こんな地獄のような日々をどれだけ豊かに生きることができるか、その皮肉めいたヒントをこのアニメは伝えているように思えてならない。

『ヘルヴァ・ボス』の注釈を借りるならば、もちろん視聴の際は自己責任で見てね♡というところなのだが…こういうアニメを起爆剤として、ぜひたくさんの大人な意見を聞いてみたいと、わたしは思う。

いや、そんな真面目ぶった言い方は気持ち悪い。
単純に、こういうアニメを楽しめる大人とわいわい盛り上がりたいというだけだ。

人間以外の悪魔に変な性癖が芽生えた…とかいう類の"大人"な感想でも構わないから、『ハズビン・ホテル』と『ヘルヴァ・ボス』のファンをこれからも増やしていきたいものである。

ハズビン・ホテルへようこそ!


気になる方は、ぜひ。

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