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日本全都道府県に行ってきた(東京での忘れられない夜)

これまでの流れはこのマガジンからどうぞ。

11月15日

さて、東京で開かれる大事なイベントというのは、スーパープロフェッショナルなホテルコンシェルジュ集団である(勝手に盛ってしまったが、実際そうなのだ)、レ・クレドールジャパンの創立25周年パーティーである。

僕もオーストラリアでレ・クレドールのメンバーとなっている。

この団体は世界各国に支部(チャプター)があって、通常は毎年どこかの都市で世界大会が開かれている。それを通じて僕は日本のメンバーに会うことができ、以降日本に帰るたびにキャッチアップをしてもらっている。

今回も日本に帰るにあたり、僕が参加できるようなイベントは何かありますか?と聞いたところ、この25周年パーティーに招かれ、なんて素晴らしいタイミング!と小躍りした。

特に2020年から2022年までは、パンデミックのためにその世界大会が開かれず、メンバーの皆さんと会うのは久々ということで、とても楽しみにしていた。

しかも、元オーストラリアのメンバーで今はロンドンのホテルで働いている友だちもたまたま日本に一時帰国をしていたので、一緒に出席することになった。

またまた、元オーストラリアのメンバーで、つい最近までシンガポールのホテルで働いていた友だちも、今回東京のホテルのコンシェルジュになったので彼も参加。

東京でオーストラリアのメンバーの同窓会(?)が起きてしまうような感じになってしまった。

パーティーは、都内某ホテルの宴会場で、とても華やかに始まった。3年ぶりに会うメンバー、初めて会うメンバーとも歓談し、時間が足りないったらなかった。

そうこうしていると、一人のカッコいい若者に紹介された。彼は、東京の大きなホテルでコンシェルジュをしていると自己紹介し、

「あの、僕はあなたに一度会ってるんですよ」と言った。

うむむ、思い出せない。

まあ、こういう事はよくある。僕は人の顔と名前を一致させるのがわりあい苦手だ。

接客業、しかもその最高峰とも言われるコンシェルジュのくせに!と思われるかもしれないが、事実だからしょうがない。しかも、最近は加齢も加わってそれが酷くなっている気がする。

こういう場合は正直に白状したほうが良いので、

「あ、ごめんなさい、ちょっと覚えてないんだけど…いつどこでだっけ?」と聞くと、彼はこう言った。

「学生時代にシドニーに行った時、ホテル見学に行ったんですよ。その時行ったホテルにあなたがいらっしゃって、丁寧に案内していただいて…。それがきっかけで、コンシェルジュになろうと思ったんですよね」

あ、思い出してきた!

そういえば、3年ほど前のことだったか…。

以前働いていたホテルで、同僚に「なんか日本人がホテル見学に来てるから、あんた日本人だし、案内してあげてよ」と言われて行ってみたら、確かに日本人の若い男性がいた。

普通に客室やら宴会場やらをお見せして、たぶんその合間に僕の仕事内容とか、どうしてシドニーで働いているのか、といった雑談もしたのだろう。

館内案内という業務は時折やるものだから、その一つ一つを覚えているわけではないし、その時の彼の顔を覚えているわけでもなかった。でも、爽やかな気分のいい人だったなあ…という記憶は蘇ってきた。

え、でもさ、「オレの対応が素晴らしかったからコンシェルジュになろうと思った…」ってどゆこと?そんなに特別なことをした記憶が無いのだが…。

嬉しさと照れくささが混じってしまい、

「いやあ、だったらこんな道に迷わせてしまってごめんね!」と冗談っぽく返した。

彼はお世辞も半分入れて僕にそう言ったのかもしれないけど、それはそれは有り難い言葉だった。

「ホテルの玄関をくぐってきた人に対しては、どんな外見であっても同じようにプロフェッショナルに接しなくてはならない」

というのはホテルマンとしての鉄則だけど、現実問題としてはそうも言ってられない。

正直、ホテルの売上に響くような大きな団体を代表している人がちゃんとアポイントを取って来た場合と、若い男の子がアポ無しで来た場合とでは、館内案内をするといっても、やはり対応が違ってしまう。

実際に、ホテルが満室で見せる部屋がほとんどない、という時もあるし、どうしても時間が割けずに「すみません、今忙しいので案内できないんですよ」と言ってお断りするケースもある。

また、案内できたとしても、時間の都合などで必要最低限しか見せられない場合だってもちろんある。

僕が彼に案内をしたその時は、おそらくホテルもそれほど忙しくなくて、僕の方も時間、気持ち両方余裕があったので丁寧に案内できたのかなあ、と思うし、彼が熱心に色々質問したり、聞き入ってくれたのでこちらも身が入ったのだと思う。

それにしても、日々の業務に埋もれてしまうような一コマのエピソードが、それほどまでに誰かの将来に影響を与えてしまうなんて、少し恐ろしさも感じた。

いや、恐ろしさ、というのとはちょっと違うかな。やはり接客業って予測不可能な結果を生み出すことがあるのだな、と襟を正す思いになった…と言うべきか。

そして、つくづく、

「やっぱり、この仕事をしてきてよかった」

と思った。

そんな意味では、この晩の出来事は僕にとっては忘れられないものとなった。

(つづく)