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Let's do Lunch

友達と食事をするのはすばらしい。そして、その食事が超絶的においしければなおさらだ。

「ランチしよう!」

わりと唐突に、女友達のYさんからメッセージが来た。

彼女がセレクトした面子は、食のプロモーションをしている彼女、和食レストラン料理長のKさん、初対面でイタリアンレストランで働いているというTさん、と私。

「せっかくシェフがいるんだからさ、フィッシュマーケット行って美味しいお魚買って、Kさんのレストランが定休日の日にお店を借りて、皆で何か作ろうよ」
てきぱき、というかやや強引に話を持って行くところはさすがYさんだ。


美味しい食べ物、そしてそれに伴うであろう美味しいお酒にありつけるのなら、もちろん異議はない。

全員にとって都合のいい、月曜の午前10時に街で集合。みな、これから始まるイベントに対する期待が顔からにじんでいる。

っていうか、単なる食いしん坊の集まりなんだけど。

フィッシュマーケットまでは、徒歩で15分ほど。冬のシドニーは意外と雨が多く、その前日までは不安定な天気だったが、この日はキレイに晴れた空に真っ白い雲がチラチラと浮かんでいる。

観光客のいないフィッシュマーケットはそれほど忙しくなく、ディスプレイされた色々な魚の顔をつらつらと眺めることができる。

まだ脚を動かしているカニ、青みがかった色が光っているサバ、イワシ…近所のスーパーマーケットでは見られない種類の魚介類が、果てしなく連なっている。魚の目、目...。

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魚屋の片隅では、いい感じに年を重ねたおじいさんが水道を流しっぱなしにしながら、無言で次々とカキの殻を開けている。

料理人のKさんは、商売用の魚も買い求め、顔なじみの魚屋さんと色々話をしている。

さて、われわれの獲物はどこにある。Yさんが、かなり大きなキンメダイに引き付けられている。
「これ、お刺身にしたら絶対美味い!」

確かに、お肌もつやつやしていて、鮮やかな赤い胴体がピカピカと光っている。

「だね、これはおいしそうだ」と、割合構わない感じのTさんと私はうなずく。

そして、目の前には、ヒラマサも並んでいた。全長1メートルを超えている、かなり良い体格の魚。

「これも、買っちゃう?」

え、ちょっと待て待て、4人しかいないんだけど…。

「いやいや、量が多すぎかなあ…」と皆で迷ったが、折角だし、あまりにも美味しそうだし、という言い訳と食い意地が勝ち、計2匹を購入。ついでに生ガキも買ってお会計、お願いします。

ずしりと重い袋が手に食い込んだ。

フィッシュマーケットを出て、Kさんのレストランへ向かう。Yさんは誰かと電話でお話し中、残った男性3名で魚の袋を分けて持ち、てくてく歩く。

「こうして見ていると、女王様に付き従う家来みたいだね」とKさん。

私は、「いや、どちらかっていうと奴隷かも」と自虐的な回答をする。

でも、重い袋の中には絶対美味しいであろうお魚さんが入っている。文句を言う気にもならない。

荷物を持って歩いていると、汗ばむほどの陽気である。

30分ほど歩いてKさんのレストランに着き、戦利品を袋から出す。うーむ、これは期待できる!

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せっかく腕利きのシェフがいるので、魚屋でおろしてもらわずに、ここで解体作業に入った。

ぶきっちょな私は真っ先に辞退し、Yさんがとりかかる。

…が、余りの大きな魚にプレッシャーを感じたのか、それともキンメダイの目に見つめられて罪悪感を感じたのか、途中で続行不可能、と宣告。

「あれだけ食べたい、って言ってたのにね~」などと冗談を言いながら、手先の器用そうなTさんがピンチヒッターとなる。

Tさんは、魚をさばくのは初めてということだが、シェフKさんの指導により、なかなか手際よくキンメダイ、そしてヒラマサが頭を取られ、三枚におろされた。

それにしても、魚のえらというのはものすごい異形だなあ、と普段は切り身としか魚と付き合わない私は感慨にふけっていた。

大きな魚なので、カマは塩焼き、アラは煮物、一番いい部位はもちろん刺身、となる。

Kさんが手際よく焼き物、煮物の準備をし、残った3人はアシスタントとなってお手伝い。

一番スキルの無い私は、地道に煮物の灰汁をひたすら取っていた。後から後から発生する灰汁をすくうのは、単純極まりない作業だが、この作業が美味しい煮魚につながると思うと、それなりの達成感もある。

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その間、Kさんは刺身用の切り身からキレイに皮を引き、ちょっと余った切り身をぽんぽんと贅沢に、私が灰汁を取っている煮物の鍋に放り込む。

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他の人が適当に選んだ形の違うお皿に、違った形で刺身を盛りつける。やっぱりプロは違うぜ。

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焼き物も、煮物も完成したのでテーブルセッティング。これは、壮観だった。

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そろってお酒がいける口なので、何を飲むかでやや迷ったが、やはり新鮮な魚にはこれだろう、と日本酒をもちだす。しかも一升瓶。

待ちに待った乾杯をし、食べ物に手を付ける。

味については、ここでは触れない。文字では書けないほどおいしかったので。

尽きない話をしながら食べて飲む。いくら食べても肴が尽きないので、ついでに二本目の一升瓶も開ける。

みな、自分の意志で日本を離れ、自分の仕事をやっているせいか、多少のことがあってもヘタらない芯の強さがある。

そんなリスペクトできる友達と美味しいものを食べて、酒を酌み交わす。

これが充実していなくて、なんというのだろうか。

私たちはいくら食べてもなくならない刺身をそれでもテンポよく食べ、お酒を注ぎかわしながら午後の日差しが柔らかく射し込むだだっぴろいレストランでの午後をすごした。

追記:その後結局深夜まで飲み過ごし、翌日ひどい二日酔いで一日棒に振ったことは、一応記録としてとどめておく。

写真を撮ってくれたのは、このイベント(?)の首謀者(?)Yさんでした。ありがとう!