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コロナ禍をPhaseごとに必要なデータで捉える〜PCR検査は何故増えないか〜

1.正しいデータを数学的に正しく分析することについて

ウイルスは国境を超えて老若男女、富めるものも貧しきものも一様に
攻撃してきます。

但し、ウイルスは生物ではなく人間からはそのようにみえても攻撃しているわけではなく論理的にアルゴリズムの生化学反応しているだけです。

また、人間社会の経済活動も、マクロに見ると分析可能なロジックと数値で分析することが可能なはずです。

状況が長期化し複雑化した今こそ、正しいデータ分析が必要であり「構造と文脈と正しく理解し、行動すること」が大切です。

2.正しいデータ分析とは


①データ分析は、「戦略」「目的」によって異なる

「戦略」「目的」が変われば、見るべき「指標」とその「数値」の見るべきポイントも異なる

③ウイルス感染は、時々刻々状況が変化しており、それぞれの「Phase」においてそれらの見方を柔軟に変えていくべきである

ということです。

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なぜコロナウイルスの感染者数に一喜一憂しても意味がないのか

ビッグデータ分析により金融市場、天候、政治(選挙)、プロスポーツ様々領域で「予測」が可能なことを証明した「シグナル&ノイズ」 という本があります。

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私も愛読していますが、その著者で、アメリカでは著名なデータサイエンティスト、ネイト・シルバーが、なぜコロナウイルスの感染者数のデータは意味がないのかについて、データサイエンティストの視点から記しています。
Kan Nishida さんのブログで日本語に訳されわかりやすくまとめられています)

これは私も、noteで当初から指摘していたことですが、希少なPCR検査資源
(その理由はたくさんあり、しかも何故検査能力を増やせなかったについては別途後述)を有効に活用するために、日本は独自のルールで検査対象を絞り込んで行ってきました。(平熱37.5度以上が4日間続いた上に...のあれです)

世界中の医療機関は限られたデータを使って現在の状況を把握しようと努めています。彼らの検査の目的は限られた医療資源を最もそれを必要とする人に提供できるようにすることです。感染症の研究者と統計学者が分析するために十分なデータセットを作ることではないのです。(ネイト・シルバー)
例えば他に比べてたくさんの検査をしているために感染者数が増えている国は実は感染の拡大をコントロールできているのかもしれません。逆に、新規の感染者数が減少している国は、単純に検査をするためのシステムが崩壊していたり、PRのために検査の数を減らしているのかもしれず、実際には状況は悪化しているのかもしれません。(同上)
それぞれの国の検査に関する戦略を理解することなしに、国や州どうしを比べるということには意味がありません。(同上)

これまでも感染者数が少なくみえたのは、最近特に話題になっているPCR検査数の圧倒的不足によるものです。感染者数が過去最高の200人に達したといっても、市民にとっては検査体制が追いついてきたGood Newsかもしれず、医療崩壊を恐れる病院経営者にとってはBad Newsかもしれず、あまり意味のない数値であったのです。

3.これまでの日本のPhase ごとの戦略/目的とその達成状況を図るための指標

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Phase IIまでは「限られたPCR検査体制と医療資源のなかで「新型コロナ感染死者数」を最大限押さえる」という目的とそれに向けたクラスター潰し戦略が明確な中で、有効な実績の指標の管理を行っていました。

この時期Phase II に意味があった指標は、クラスター対策戦略がこのまま有効かについての判断する指標でした。
つまり、孤発例の発生数と、その感染経路不明の割合と数です。

残念ながら卒業旅行や春休み等での欧米旅行者の帰国した2週間後、3/25辺りから、都市圏を中心に感染者数は50から100近くに伸び始め、孤発例と感染経路不明数も共に伸び始め危機的状況はその時から始まります

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感染経路不明な孤発例が数10に上り、保健所が疫学調査でフォローし潰しこむ限界を超え、この戦略だけでの封じ込めは不可能となります

余談:アメリカは、有事に臨時の資金と物量を投入し実施していたようですが、日本はそれを平時の保健所ネットワークの「気合と根性」で実施していました。

「追跡調査をして感染者を見つけたら、隔離する。クオモ氏はこれが途方もない仕事量になることを強調する。そして、こんな大規模な検査・追跡調査・隔離という仕事は、いままでに一度も行われたことがないと」「驚いたことに、NY市長を三期勤めた、そしてトランプの再選を阻止すると言って民主党候補になるべく立候補した、あのマイケル・ブルームバーグが、「検査・追跡調査・隔離」プログラムの設計から、人員確保、実施監督まで全てやると申し出た。もちろんお金も10億円ほど持ってきたらしい。」
「SUNY(ニューヨーク州立大学)とCUNY(ニューヨーク市立大学)から、35,000人の医学関係の学生が追跡調査団に参加する。」

4.PCR検査能力は海外のように何故増えないのか?

「PhaseIII.緊急事態宣言自粛」の状態になって、医療崩壊を招く市中感染の広がりが懸念されPCR検査数の少なさが大きな課題として浮上してきました。

自民党の塩崎恭久元厚労相は「2月ごろから民間の検査機関を活用すべきだとの声は医療現場などにあった。政府がクラスター(感染者集団)潰しを重視しすぎて検査体制の強化が後手に回った」と指摘している。


山梨大のPCR検査体制の評価レポートに途上国レベルの日本の実態と、国と地方の衛生研の検査独占状態にメスが入ってこなかった背景など含めて詳細が記述されています。

https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/6bf1e59badd192ea0597a659e94a9d59.pdf
https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/5c04721b4f353bbb76148d1e0ffd630f.pdf

クラスター対策に専念しすぎて、PCR検査体制の拡充を怠ったと批判されている専門家会議ですが、実は、2月からPCR検査の拡充を要望していたが、様々な要因で進まなかったと振り返り、重篤化防止からこれまでの検査実施基準の見直しにも着手しています。


PCR検査の相談目安変更へ 「37.5度」削除も検討

専門家会議は、クラスター対策だけを行っていれば良いとは、決して言ってません。クラスター対策で時間を稼いでいる間に、万一に備えて同時に早めの大幅な接触削減自粛や、PCR検査体制の拡充も政府に求めていたというのが実態のようです。

危機管理の要諦として最悪の状況も想定して、プランBでのドライブスルー方式等の積極的検討、必要な防護服や試薬の調達等、を実施していてもらえたらと悔やまれます。

逆に、それほど一旦は、日本独自の「Phase II クラスター潰し込み」による封じ込めが成功するかに見えたのだと思います。(正常化バイアス)

橋下徹氏 PCR検査増えない理由は安倍政権の失敗「色んな課題あったのに一切放置」(5/5 ヤフーニュース)

PCR検査は、海外に比べて大幅に遅れています。とにかくキャッチアップして欲しい点です。

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LA 希望者に無料でPCR検査、全米主要都市で初の大規模検査(5/6)


5. 「Phase III.緊急事態宣言自粛」段階での接触削減率とPCR検査陽性率

そして「Phase III緊急事態宣言自粛」で、接触8割減を目標とする、不要不急の外出自粛と休業要請が始まります。
ここでは、「自粛要請による行動変容(接触削減)を達成」と「都市部の感染者数と地方への感染拡大を押さえる事」が目的となり、GPSデータなどに基づく接触削減率の推移と、PCR検査が十分できない状況下での市中感染状況の推定をするための、類似指標としてのPCR検査陽性率の推移がポイントになります。

そして、さらに現在「断腸の思い(総理)」の緊急事態宣言の延期です。
多くの国民にとっては、法的強制力のない自粛要請が3月から続いている状況は変わりなく、今更お詫びされても、、というものです。

それよりも出口についてのKPIとマイルストーンがなく、情緒的な「いつもの演説」に終わった事に多くの国民は失望を覚えています。

次は、後半「Phase III緊急事態宣言自粛」から「Phase IV長期化/社会正常化」に向かう今、どういう戦略に基づいて、どの指標が重要なのか?についてです。

その前に、その準備段階としてCOMEMOに今回投稿した

新型コロナウイルスに関するデータ分析のポイント〜あまりに多い数学、算数の基本的なミスと混乱〜をまず読んで頂ければ幸いです。

専門家会議やそれを伝えるマスコミの報道を理解するために前提となる「データ分析指標についての6つの考え方」を個別事例を使って整理しています。

その上で後編の

新型コロナウイルスについて⑬:データ分析<後編>数字を出さない官邸と大阪モデル〜数値目標なしに出口戦略は見えない〜

を読んで頂けたら思います。




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