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緊急事態解除判断どうあるべき?〜数字を出さない官邸と「大阪モデル」〜

1.ワイドショーのグラフという壁紙

私も普段は見ませんが、ワイドショーでは新型コロナ関連では膨大な情報量が垂れ流されています。

累積データと日別等の期間あたり純増減のデータの混同

「累積の」グラフをみて、司会者が大真面目で悲壮な表情で「一向に減る方向がみえません」とか、もはや国語の問題を露呈しているのを見たことは一度や二度ではありません。

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池上彰さんのこのボードも、直近の専門家会議の資料発表された陽性者数①と人工呼吸器②を装着する患者数の2つのグラフを重ねたものだと思いますが、①は日別の純増データ(フロー)、②は累積の装着状態の患者数(ストック)であり重ねても全く意味のわからないものです。

医療崩壊を訴えているように見えますが、陽性患者数は減っており、人工呼吸器装着数も減少に転じた様に見えます。

視聴者が見て意味を理解できるとは思えず、大道具、美術さんが準備した壁紙にしかなってません。

2.吉村知事の明快な「大阪モデル」


Phase ごとの目的と指標に、議論を戻します。

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「Phase IV.長期化/社会正常化」においては感染拡大・医療崩壊防止と共に、これ以上の経済不況を避けるための自粛要請解除の出口の見極めも重要となります。

指標も分析もその目的のために選ばれます。「大阪モデル」では

緊急事態宣言に伴う規制の入口と出口のための独自の「警戒基準指標(案)」は4つ
1つめは、新たに発見された感染経路(リンク)不明陽性者の増加比(前週比1未満)
2つめは、新規陽性者におけるリンク不明数(10人未満)
3つめは、新規PCR検査での陽性率(7%未満)
4つめは、重症の患者を受け入れる病床使用率(60%未満)     (5月4日時点で、1=0.68、2=7.29人、3=4.5%、4=33%とすべて基準値以下)
吉村知事は、「自粛要請の入口と出口を示すことができ、とても分かりやすい指標になった」と評価。府の専門家会議の座長を務める大阪大学の朝野和典教授も、「府民に対し早期に自粛を促せるだけでなく、行政に対しても行動を起こすための指標になり、よく練られた指標」
海外では、感染症が流行している集団で感染者1人が何人に感染させるかを示す「実効再生産数」が、制限緩和の指標として使われることが多い。だが、現状では計算に時間がかかり、リアルタイムでの報告が難しく、さらに、府はわかりやすさを重視してこれを用いなかった。

感染症研究者の論文のためのデータではなく、日々の意思決定者の判断のための指標なので、学術的論理性は必要ありません。

「大阪モデル」は先の全ての点において合目的であり、明快府民と職員にとって具体的な行動の実行が可能です。

シンガポール等も、具体的なKPIを国家として設定し、その進捗を首相がわかりやすく説明し市民に行動の協力を呼びかけています。現地の友人は、それを励みに一刻も早く日常を取り戻すべく、国民一体となって頑張っていると聞きます。

今回の大阪モデルが全国の将来の不安にあえぐ人々にとって希望の光となればと思います。


3.今は残念な官邸機能

一方、政府の専門家会議は、緊急事態宣言を解除する具体的な基準を示していない。4日夜に安倍首相は「新規感染者を100人以下に抑える必要がある」と発言したが、専門家会議の脇田隆字座長は「それがただちに解除の条件になるかは、今後の分析が必要」と慎重だ。 <明快さ求めた「大阪モデル」、感染拡大のリスクぬぐえず - 朝日新聞 (5/6)>

これまで、検査数に制限がある中での新規感染者があまり意味を持たない事を説明してきました。安倍首相の「新規感染者を100人以下に抑える必要がある」と発言にはあまり意味がありません。専門家会議脇田座長も判断を保留(否定?)しています。

PCR検査についても安倍首相がコミットした2万/日の検査体制も全く目処が立っていません

また、安倍首相は、前回の新型コロナウイルスについて⑬:データ分析<中編>指標に関する6つの考え方〜数学、算数の基本的なミスと混乱〜で指摘したように本来は8割の接触削減目標を最低7割と言い換えたり官邸のどこかで実行再生産数の前提を改竄したり、データ分析のセンスに欠けています。


出口の指標と数値基準は本来、国が決めて、自治体に落とす内容です。

首相周辺も「(大阪は)あくまでも休業要請の話。緊急事態についてはこちらで決める」。大阪府の基準が独り歩きすることへの警戒感をにじませた。

緊急事態宣言の発出、休業補償の対象とその意思決定、これまでの国とのやり取りに業を煮やした知事が、今回の延期が出口戦略なく、単なる自粛継続のお願いでは、府政がもたないと判断したのだと思います。

これについては、西村大臣が昨日不快感を示し、吉村知事も謝罪しています。

西村経済再生担当相「大阪モデル」公表を巡る吉村府知事の謝罪に「ウイルスを早く収束させたいとの思いは同じ。連携して取り組みたい」https://www.excite.co.jp/news/article/SportsHochi_20200507_OHT1T50008/

官邸機能が専門家会議メンバーの分析等を正しく理解し、政治判断する本来の機能を早急に取り戻すことを国難に当たって強く望みます。

(注:もはや安倍総理は演説プロンプターを朗読するだけの存在であまり批判しても意味はないので官邸機能とします)

取り急ぎ、今回のタイミングでも指標は検討はしたのでしょうが、「専門家が作成した数値目標は厳しすぎる」「数字が一人歩きする」等の判断から先送りされたと聞きます。

5/14に予定されている西村大臣の自粛解除基準についての報告を待ちます。

最後に:国と地方の役割分担、全国統一基準で行うこと、地方独自で行う事


先のやり取りにもあったとおり、地域の個別事情にあわせた地方自治の原則と緊急時の国と自治体の指揮命令系統が混乱しています。

自治体が個別施策について事情に合わせて判断することと、国家としての戦略分析に必要な統計データの基準を統一することは別の話です。

ウイルス等の危機は、各国の構造的な欠点を露呈させます。
国家統制と地方自治、国民の命の安全か経済成長か、これは実は戦後日本を貫いてきた大きな論点です。

これについては、緊急レポートとしての「新型コロナウイルスについて」シリーズの枠を超えて大きな意味での「構造と文脈」として別途考察したいと思っています。


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