ヴィツェゴニァ語殺言語事件

 俺の名前はヴィツェゴニァ語という。『俺』を読み書き出来る最後の人間ハルイ=ゴナ=ミソクが凶弾に倒れたことで、死にゆく運命にある哀れな消滅危機言語だ。
 言っておくが、ヴィツェゴニァ語を喋る人間はハルイ以外に存在しない。数年前にハルイの祖母が死んでからは正真正銘の唯一無二だ。誰にも通じない言語を脳味噌に入れてるってどんな気分なんだろうな? まあ、誰しもが物置の隅にスケートボードを寝かしていることを考えれば、ハルイの気持ちも分かるだろうか。
 誰も知らない言語っていうのは死ぬしかない。このままいけば俺は、モララ語やマトー語よりも酷い暗闇に押し込められる。その俺がまだ自我を保っているのは、ちょろっとした偶然に拠るものだ。
「何だ……? 何語だ?」
 そこの男、ハルイを殺した日本人――昏見灯一が、『俺』で書かれたハルイの手帳を拾い上げたのだ。昏見は『ヴィツェゴニァ語』を認識した。だから俺は、まだここに居る。

(ヴィツェゴニァ語、存続)

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