賢愚経巻十二 鳥聞比丘法生天品第五十二

 このように聞いた。
 仏が在舎衛国の祇樹給孤独園にいた時のこと。林の中で一人の比丘が坐禅の修行をしていた。 食後の経行(きんひん/一定の場所を往復すること)をしつつ読経した。声は清らかで雅びにして素晴しいものだった。
 一羽の鳥がその声を愛し、樹上に飛びきたって聞き入った。 そこに猟師が来てその鳥を射殺してしまった。鳥は善心を抱いたために第二忉利天に生れかわった。 父母の膝の上ですきぐに大きくなり八歳児ほどになった。顔は端正で異相かがやき、並ぶ者がなかった。 そこで思った。〈何の福よって自分はこの天に生れるという幸福な果報を得たのだろう〉
 そこで宿命通によって前世を見てみると、元は鳥だった。かの比丘が誦経したおかげで、福報を得て生れかわったのだ。そこで天華を持ち、閻浮提世界に行き、その比丘に礼をし敬って挨拶し、天の華香をその上に散らした。
比丘「あなたは何の神ですか」
「私はもとは鳥である。尊音の声を愛し経を聴いた所で猟師に殺された。このときの善心によって忉利天に生れたのだ」
 比丘は歓喜し、坐るように言い、種々の妙善を説法した。天人は理解し、須陀洹(初)果を得、 歓喜踊躍して天上に還っていった。
 仏は阿難に告げた。「如来の世に出て利益をめぐらすことはなはだ多い。説いた諸法は実に深くてよいものである。そこで飛ぶ鳥すら縁あって法の声を愛し、獲られた福は無限である。信心堅固にして受持する人は言うまでもない。獲られる果報は鳥とは比べがたいほどだ」
 この時、阿難と会衆は、仏の説くことを喜んでうけたまわったのだった。

 賢愚経巻第十二、おしまい。


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