ストイックに孤独
職場にて同僚から「普段どんな暮らしをしているのか?」とプライベートに思いっきし脚を突っ込んだ質問をされた。秘匿がある人物であれば、他人にプライバシーを話すなんてとんでもない。今まで犯してきた罪がバレてしまうではないか、と言って、道祖神が如く頑として硬直し一切の言伝することなく黙秘に徹するだろう。
其の点僕は、秘匿する罪もあるわけないし、いちいち私生活について話すのを固辞する人間ではないので、ぺらぺらぽろぽろとあること無いことをくっちゃべったのである。例えば、エアロバイクを漕ぎながらラブコメ漫画を読んで脳を狂わせていることや、飲酒は二リットルまでと決めて飲み始めたのにもかかわらず知らずの内にワインまで開け始めたとか等等。あることないことと書いたが、大体はあることを話したような気がする。
そんなくっちゃべりを聞いていた同僚は薄く苦笑いを浮かべながら「なんかストイックすぎてキモいです」と言ってきた。ストイックすぎてキモい、せっかく同僚の期待に答えんようとぺらぺら話していたのに見返りがキモいと言葉一つ。見窄らしい事務所の天井にあるシミを見上げて考える。先程の時間は一体何であったのだろうか。
とは言え、ストイックすぎると言われたのにはなにか理由があるだろう。考えてみると、思いつく点は一つだけある。其れは、生活の中に登場する人物が僕だけしか出てこなかったのだ。朝起きても一人だし、仕事が終われば寄り道することなく家に直行、自分のしたいことだけに耽っている。友人や知り合いと交流することや外食することなど一切しないで私室に篭もりっきり。きっと、この姿が同僚には奇妙に見えキモいという着地点に落ち着いたのだと思う。其れにしてキモい。とてつもなく鋭利な言葉である。
しかしながら、自身のことを客観視してみると、いかに孤独なのかが理解できる。いや、自ら孤独に突っ走っていると言っても差し支えがない。このまま路を邁進してゆけば、穴や壁などに突き当たって行き詰まること間違いなし。つまり、今の僕はストイックな姿勢で孤独に向かっている状態なのだ。
そう考えると、今まで無視してきた孤独感が一気に湧き上がってくる。一人で居るという現実がごぅんと音をたてて襲いかかってくる。襲いかかってきた孤独感は一息に僕の中に流れ込んで良くない感情で思考を支配する。辛い、さみしい、泣きたい、死にた…くはない別に。できればもう少しだけ酒を飲みたい。
正負、陰陽で言うところの暗い感情に飲み込まれるべきではないと、いつものグラスに手を伸ばして一息に酒を飲み込もうと中を覗いてみれば既に空。そう言えば、酒を控えるよう言われていたのだったということを思い出し、グラスの底を凝と眺めていた。次回はもう少し派手な嘘をつこうかなと思う。
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