彼氏と別れて、また別れて、そしてわたしはどうなる

初めて池袋の展望台にのぼった。

展望台はサンシャインシティの一番上にある。60階建ての屋上から見下ろす景色は、さぞ壮観なのだろうと期待していた。だけどものすごい速度でエレベーターがあがるから、耳が詰まってしまって、それは不快だった。

展望台についた。椅子がたくさん置いてあって、ゆっくりくつろぎながら見られる仕様になっていた。照明が薄暗くて、気をつけないと転びそうだった。あと、カップルがたくさんいて、ちょっと勝手に気まずかった。

東京っぽい景色の側は明らかに人が多くて、東京っぽくない景色の側は明らかに人が少なかった。みんな東京の景色が好き、だって輝いてて綺麗だから。でもわたしは人がたくさんいるのは嫌だから、東京っぽくない景色の方に座った。

いつまでも擦るのはださいなぁと思うけど、景色を見ながら思い出すのはひとりだった。高いビルの上に灯る、赤い光が好きなんだと教えてくれた人。あの光がたくさんある東京が好きなんだって教えてくれた人。結局好きなのは東京だって、わたしに教えていなくなった人。

これで終わりにする、と思った。思い出すのはこれで終わりにする。別れて2ヶ月くらいで他の人と付き合って、実にすぐ別れて、そこから別の人と親しくなって、わたしは今から、この景色を見ながら、わたしの横にいる人と付き合うことになるんだろうなと感じていた。今から付き合うだろう人が横にいるのに、別の人のことを、しかも元彼に関することを考えているなんて、失礼にもほどがあるな、とも思った。

わたしの横にいる人が言った。「スカイツリー、なんかシンデレラ城みたいな色してない?」わたしは答えた。「あれスカイツリーじゃなくてドコモタワーだよ、周りに赤い光がある高い建物めっちゃ多いし、スカイツリーだったら周りに高い建物ないじゃん?」

わたしは気づいた。わたしが今言ったことは、元彼から教えてもらったことだ。新宿のあの建物がドコモタワーっていう名前なのも、高い建物には赤い光が灯るっていうのも。元彼のことをまったく好きじゃなくなった今でも、きっとこれからも、わたしは元彼を忘れることなんてできない。思い出すのを最後にすることなんてできない。好きだとか、未練があるとかじゃなくて、今のわたしをつくってるものの一部に、元彼がなってしまっているからだ。

くやしくもない。過去に戻れたとして、元彼と別れないように必死になるつもりもない。ただ、「赤い光がたくさんある東京が好きなんだ」と言ったあなたに、そうだねすてきだねって笑った、あの頃の自分が愛おしいだけ。本当は、高くなくて、平坦で、赤い光がほとんど見えないけど、あたたかいオレンジの光が灯っているような景色が、ずっと好きなのに。わたしが好きな景色を並んで見てくれる人を、ずっとどこかで探していたのに。

それはたとえば、今横にいる人かもしれない。

もうわたしにはわからない。好きで好きでたまらなかった人とは別れるし、自分の素を出せるって思った人とも別れるし、いったい何がベストなのかわからない。裏切られたとかいう気持ちは言い訳でしかなくて、わたし自身にだめな部分があったのは、痛いほどわかっている。

でも、わからないけど、人を信じてみようっていう勇気だけは、失われてないみたいだ。

だから信じさせていただきます。わたしを好きだっていう、その気持ちを。

そして、わたしの言葉や行動が元彼の呪縛から逃れられないのなら、せめて気持ちだけは、横にいるあなたに向けさせていただきます。

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