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【三猫物語】 <その 15>「ナメコ」大脱走!

そうして、ときどき保護猫の預かりなどもしつつ、「そら」と「ナメコ」と、平和なネコライフが続くものと思われた。その矢先に、事件は起こった。

この当時のわが家の玄関は、すりガラスの引き戸になっていた。黒田さんから、猫が外へ出ないように気をつけなさいと注意はされていた。それで、引き戸の内側にワイヤーネットを設置した。

「そら」も「ナメコ」も玄関へ降りてくることはあったけれど、ワイヤーネットを越えることはなかったから、まあこれで大丈夫だろうと高をくくっていたのだ。

ある日の暮れ方、相方が仕事先から帰ってきて、なにげに玄関を開けたとき、足元でサッと影が動いた。あっと思う間もなく、「ナメコ」が走り出た。ぎゃ!と言ったが、もうおそい。「ナメコ」は、声に驚いて、さらに遠くへ走ってしまった。

ぼくは、まだ会社にいたが、「たいへん!ナメコが逃げた!」と電話があった。

さて、どうしたものか?とはいうものの、まあ、でも、そのうち自分で戻るんじゃないかな?などと、やや呑気に考えた。が、相方の悲壮感は半端ではないので、「うん、すぐ、帰るから」と。

一時間ほどかけて、家へ帰ってみると、まだ「ナメコ」は戻らない。相方は、かなり動転している。ちょうど、近所の中上さんと、話していた。中上さんの家にも猫がいるので、どうしたものかと、相談していたらしい。なんだか、ご近所さんまで巻き込んで、大騒ぎになってるようだ。

「ナメコは?」と聞くと、「あそこ!」と指さす方を見る。わが家の3軒向こうの家の裏にあるブロック塀にちょこんと乗っている。そう遠くへは行かないんだな。

とはいえ、薄闇にキラッと目が光って、もう野生に戻っている。近づくと逃げるに決まっている。逃げる猫を素手様子がで捕まえるのは不可能だ。

なにせ「ナメコ」は、生まれて数か月は、外で暮らしていたし、屋外に恐怖感はないかもしれない。どうにか、食べ物でおびき寄せるしかないだろう。

匂いが立つようにウェットフードを皿に入れて、見えるところへ置いてみる。ふだんなら、すぐ飛びつくように食べるけれど、さすがに、そうはいかない。しばらく膠着状態がつづく。

「ナメコ」本人も、さて、どうしたものかと、戸惑っている、迷っている、考えている、そんなふうにも見える。


こんな格好を見ていると、まさか脱走するとは思えないが・・



たぶん、外へ出たくて脱走したのではない。たまたまワイヤーネットと引き戸の隙間に入り込んでいて、いきなり戸が開いたので、自然と外へ走り出したのだろう。

時間は刻々とすぎてゆく。ぼくは荷物をもったままだったので、いったん家へ入った。

しばらくすると、外で叫び声があがった。

玄関へ行ってみると、ちょうど、「ナメコ」が走り込んできた。

「きゃ!やったァ!!」と相方。

ウェットを食べに来たから、もう必死でつかまえて、夢中で玄関へ追い込んだんだと、興奮している。

やれやれ。
まあ、よかった。

家へ入ると、「ナメコ」は、またいつもの「ナメコ」に戻った。

「いや、もうこんなことはコリゴリだ」
「もし戻ってこなかったら、どうしよう?」
「考えるだけで、ゾッとする!」
「脱走は、もう絶対にイヤ!」
・・・延々と、相方は、ぼやいている。

さて、とりあえずは、一件落着。

「じゃ、メシでも食うか」

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翌日、中上さんのところへ、お菓子をもってお礼に行った。
この事件で、わが家の脱走対策は、根本的に練り直し!

そして、万全に。

・・・猫を甘く見てはいけない。
いくら人間に馴染んでいたって、やっぱり、猫は猫です・・・からね。



以来、玄関は高さ1.5m程度の衝立で脱走防止!

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