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元千葉ロッテマリーンズの里崎智也が考えるプロ野球界の課題と、ロッテの球団社長になって目指す姿とは

今回、千葉ロッテマリーンズを長年正捕手としてチームを支え、第1回WBCでも大会ベストナインに選出される活躍を見せた里崎智也さんにお話を伺いました。「千葉ロッテマリーンズの社長になりたい」と公言する里崎さんは、プロ野球界の課題をどのように構造化して捉え、解決していこうと考えているか、思考プロセスを解き明かしていきたいと思います。

里崎智也(Tomoya Satozaki)
◎経歴
鳴門工業高校から帝京大学を経て、98年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団。2005年、10年には日本一を経験。2006年のWBCでは正捕手として日本を世界一に導く。2014年に現役引退し、2015年1月より、千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーに就任。

プロスポーツ選手は、人にお願いしたことがない

僕は球団社長になって、野球界を『正しい努力をすれば正しい成果が得られるような世界』に変えていきたいと考えています。プロ野球選手は競技成績によって査定されますが、ユニフォーム組(元選手のフロントスタッフ)のうち、選手以外のコーチや裏方等には仕事に対する明確な評価基準がありません。どうしたら給料が上がるのかわからずに、来年も働き続けられるのかどうかの不安を抱えながら働いている状況です。

普通、そんなリスクの高い業界で、誰も働きたくないですよね。でも現実は、需要より供給が圧倒的に上回っています。なぜだと思いますか? それは、野球選手は基本的に野球しかやってきていないので、その世界でしか生きる道が無いからです。

野球に限らず、プロスポーツ選手にありがちな問題点は、人にお願いしたことがない人生を歩んでいるところだと思っています。「うちの高校に来てください」「うちの球団に入ってください」「うちのメーカーの道具を使ってください」とお願いされるばかりで、自分からお願いをしたことがない。現役引退を迎えると、急にお願いされることがなくなることに気づくんです。

比較的若くして引退した選手は、体力もあるのでまだやり直しがききやすく、セカンドキャリアで成功する人もいます。一方、準レギュラーぐらいである程度の年齢まで頑張っていた選手は、引退後に仕事を見つけようとしても、これまで歩んできた野球界でしか生きる道がありません。僕はそんな人たちも、引退後に正しい努力をすることでしっかりと報われるような世界を作りたいんです。

10万円の定額貯金

「現役中に引退後の準備も進めておけばいい」という意見があるかもしれませんが、プロ野球選手はシーズン中、毎日のように試合があるので、本格的に何かを学ぶことは難しい現実があります。

では、何をすべきか。現役引退後に、大学に行き直したり資格を取ったりするための費用として、しっかりお金をためておくべきと考えています。僕はいつクビになっても、すぐリスタートできるように、入団してから引退までずっと月10万円ずつ貯金してきました。プロ野球選手にとって、月10万円ずつ貯めることは決して不可能なことではありません。ただ、遊びたい盛りの若い子たちが、実際に真似をしようと思ってもなかなかできないというのが実状です。

なぜ、僕が徹底できたかといえば、根がケチだからです。ケチってお金に一番執着するんですね。もちろん外では羽振りよくふるまう時もありますが、家では質素に過ごしています。ブランドもののパンツを履く理由が、ぼくにはわかりません(笑)。

YouTubeという武器

おかげで引退後、当面の生活には困らないだけの貯金があったので、今は好きなことだけに注力することができています。そのわかりやすい例がYouTubeです。そもそも球団オーナーからの依頼がないと、球団社長にはなれません。そのためには、自分の魅力を高めると同時に、常に球団社長をやりたいという意思を発信し続けることで、球団オーナーの頭の片隅に存在し続ける必要があります。そんな時、僕はYouTubeという武器を手に入れました。

YouTubeという発信源を保つことで自分の価値を下げずに、発信し続けることができます。ただ、YouTubeをやる人が増えれば、必然的に誰かがはじかれることになります。テレビは、老若男女にやさしく、簡単でインパクトのあるコメントが求められますが、YouTubeは、コアな人しか見ていないので、わかりやすさとともに詳しくしゃべらなければいけません。そのためには、膨大で正しい情報を常に収集しておく必要があります。正直やることは多く、見えないところでの労力は大変ですが、生き残っていくためには、正しい仕事をしないといけないのです。

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人気上昇の理由

プロ野球の人気は、確実に上がっていると実感しています。僕の現役自体は天気が悪ければ観客が10,000人を割ることも珍しくなかったのですが、今はマリン(注:ZOZOマリンスタジアム)でも観客数が20,000人を切ることはあまりありません。

考えられる1つの要因として、メジャーリーグに倣い、球場でシャツや人形等を配布してリピーターを増やしていく等、欧米のスポーツビジネスに関するノウハウが溜まってきていることがあります。また、DAZN等でスマホで手軽に試合を見られるようになり、プロ野球が日常に入り込んできていることも大きな理由だと思います。

もちろん、プロ野球が既に日本の文化として生活に根付いている点も忘れてはいけません。シーズン中に限らず、ストーブリーグになれば、契約更改の話題で盛り上がり、年が明けたら新人自主トレ。2月になるとキャンプ、そして新シーズンに入っていくというように、1年中情報が提供されています。プロ野球のニュースで、季節感を感じる人も多いのではないでしょうか。

野球人口が減少することのメリットとデメリット

一方、野球をする子供が減っているという話も耳にします。野球の競技人口が減るということは、プレーヤーの視点から考えるとメリットだらけです。なぜなら、ライバルが少ない分、練習する時間や試合に出られる時間が増えて、成長する機会が増えるからです。僕の時代には、小学校の野球チームに各学年10人から15人は絶対いたんですよ。Aチームで試合に出られるのは早くても5年生ぐらいで、低学年の頃なんて、ほぼ遊びに行っているだけでした(笑)。

一方、マーケットという視点から考えると、スポーツやその他の娯楽が多様化していく中、興味が分散していくのは自然だと思います。ただ、だからといって指を加えてジッとしているわけにはいきません。アメリカのスポーツは、ロンドンやメキシコで試合を開催する等、国外の市場拡大に積極的ですよね。日本ももっとアジアマーケットを拡大していった方がいい。シンガポールや台湾等で、巨人対阪神戦を開催して、市場拡大につなげていっても面白いのではないでしょうか。

さいごに

僕が球団社長になるのは、宝くじを10枚買って1等が当たるぐらいの限りなく低い確率だと思っています。なれない前提の話ですから。なれたらヤバいですよ(笑)。

ただ、自分の知識の中では、球団社長になるしか僕がやりたいことを叶えられないと思っているのでそう言っているだけで、もしかしたら発信し続けるうちに違った形で実現できる道が見えてくるかもしれません。

プロ野球に携わる全ての人々が、常に自分の仕事に誇りを持ち、他人からうらやましがられるような存在でなければいけないと思っています。それは、プロ野球こそが日本プロスポーツ界の最高峰であるという自負と、ずっと野球と共に生きてきた僕自身のプライドです。いつか千葉ロッテマリーンズを、そんな真のプロフェッショナルの集団にしたいと思っています。

(取材・構成:SXLP 2期/木原丈詞)

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