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【感想52】ソフト/クワイエット

見に行く直前まで渋るぐらいにはきつそうな雰囲気あったけれど、見てよかった~~って人に薦められるぐらい良かった。

 全編ワンカットのスリラー。怖さで言えば『エスター』と同じような怖さなので、ホラーを期待していくと難しいかもしれない。
ただほかのスリラーとは一線を画する恐怖が指数関数的に襲ってくるし、それが他人事とは思えないものなので余計に怖い。


 白人至上主義の会合という名目で集まった女性たちが差別心から始まるアジア系姉妹に対するエスカレートした行為の一部始終を描いている。

 まず主軸の人物となるエミリーはキンダーガーデンの先生をしているにも関わらず、生徒である5歳の男の子に「ちゃんと強く言える男の子になるんだよ」という名目でアジア系の清掃員の女性に対するクレームを自分の代わりに言わせに行くシーンが初っ端からある。
この通り、ゴリゴリの白人至上主義かつ他責人間。自身の外見もその思想に拍車をかける一因になっている。
不妊治療中で兄はレイプの罪で収監中というのもあり、自身の人種としてのアイデンティティが他人よりアドバンテージを得られるステータスと確信できるのもあって、そこに唯一無二の希望を見出している節がある。

 そんな彼女を筆頭に集まって開かれた会合が”アーリア人団結をめざす娘たち”。要は白人至上主義、現代で掲げられている反差別とは真逆の思想の人たち。
集まった6人はそれぞれ「どうして私はこんなに可哀そうな目に合うの?こいつらは優遇されているのに」という不満を唱えていく。良くも悪くも主観100%で世界を見ているし、私益の事しか頭にないような雰囲気。
そんな危うい思想を抱えている人間が複数人も集まっているため格下、今回で言えばアジア系に対してはより悪意を向けるし、登場したアジア系姉妹はエミリーの兄が収監されるきっかけになった人物でもあるのでエミリーたちにとっては「あいつらには何をしても許される、それだけのことをしたんだから」という雰囲気に歯止めがかからない。

 当然手を下してしまうわけだけれど、ワンカットの性質も相まって緩やかにアジア系姉妹に対するリンチがエスカレートしていく様子は気持ち悪さと恐怖心が混ざる不思議な感覚だった。
ジャンプスケアのような、強制的に観客に「あ、これ怖いって思ってほしいんだな」ていうわかりやすい起点はない。描写の中でヒントとして所々エミリー含めた実行犯4人のコンプレックスを匂わせているのと、怒りや妬みが蓄積していく様子を削ることなく丸ごと見せられているおかげで絶妙な生々しさが醸し出される。
しかもワンカットということで時間の跳躍がない分、登場人物と全く同じ時間を経て変貌していく様を見せられるのがより心をざわつかせる要因になっている


 言ってしまえば6人のノリはTwitterやひと昔前のヤフコメのように、誹謗中傷と差別ネタを臆することなく言えてしまう人たちと全く一緒。
なぜそんなに攻撃的になれるのか?というのをこの作品を通してより理解できるかもしれない。
他人事のような感覚で見ている人たちは、”アーリア人団結をめざす娘たち”に相応しい人たちだなあとも思う。


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