見出し画像

【感想44】わたしの見ている世界が全て

 両親の他界をきっかけに4兄妹が実家の売却を巡って自身が抱えていた過去と折り合いをつけていく群像劇。に見せかけた新自由主義に対するアンチテーゼかもしれない。
写実的な映像でドラマティックな展開も演出もないけれど、映画の題名に沿う問いかけに対する良い着地が見れたのが心地よかった。


 冒頭シーンで主人公として描かれる次女の性根がわかる会社でのエピソードでキツイと感じる人は苦労するかもしれない。
部下の育成としてタイマンでの打ち合わせを行うけれど、ちゃんとパワハラ。でも間違ったことは言っていないというのが質が悪くて、注意されようが本人は反省の色は一切ない。
しかも実家を売る理由が「立ち上げる会社の頭金にするため」なので、私情のためにほか3兄妹をうまく言い包めてしまおう、というのがこの映画で描かれる一部始終となる。

 次女の一方的な働きによって売却に断固反対していた長男は付き合っている彼女の実家の農業を継ぐことに、長女は心残りだった娘との会話をきっかけに離婚した家庭と踏ん切りをつけて、次男は一度味わされた悔しさを元に再起を決意する…というよさそうな空気にはなるけれど、3人とも再起するというよりは諦めた末にやむなしの再スタートを切った結果としての結末になっている。

 次女の自分本位な振り回しの末に当人としては正しいと決定づけた結末に持ち込みはした。けれどそんな新自由主義的な次女にもしっかり痛い目というより気づきが与えられる。
度々パワハラチックな言葉を次女から向けられているので精神的に追い込まれた果てなのか、一緒に起業し再スタートを図った部下が行方不明になる。これも序盤の次女からは微妙に考えづらいぐらい狼狽えるけれど、長男の彼女との農作業を通じて自分の主義が絶対的だという考えが和らいだのか、次男を騙した商材セミナー君が次女の鏡の存在のようになる形で自身の言動を見つめなおすような描写が入ってくる。

 自身の信条が絶対的に正しいという考えのもとで兄妹を動かしていた次女だけれども、その考えに沿った結末を迎えた兄妹の表情は晴れていないのは肝になってくると思う。
こういった半強制的な介入がないと大きな舵取りができないのは性ではあるので良いことではあるんだけれど、当の次女 遥風はメンタルケアの会社を立ち上げてる身でありながら一切他人の心情を見ない言動を続けていた。終盤にそれを顧みた結果、ラストシーンのセリフが出てくる。


 白黒つけない答え合わせにはなるけれど、こういった主義主張に対してハッキリと答えを出してしまうのは監督の自我の押し付けになるのでこれぐらいがちょうどいいな。
農作業を手伝う部分からの心境変化は微妙に腑に落ち切らないけれど、重た過ぎず余韻が良い残り方をするし描いていることもストレートなのですごく好きな映画だった。
久々にこういう映画発掘して見に行ったけれど、まぁ楽しいし早く転職決めて優雅な日々を過ごしたいなと燃料投下されたのでそろそろ始動するかと思い始めた。とりあえずは最低でも9月までには。


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,047件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?