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【感想86】市子

 ゼロの秘宝をモリモリやるために取った有給だったけど、予定入れたついでに見に行ってきた。
ま、久々に大ダメージ食らう大傑作だったし後で見たポールプリンセスも大満足だったしいい1日だったわ。

他人に勧めやすい ★★★★☆
個人的に好きか  ★★★★★

 この映画の明確にヤバいところが、コンテクストの含み方。
ミステリーのような序盤から打って変わって、ある事実が判明した後は今まで示唆するような含みある言葉の数々が想起されていく展開と、ラストはいくつか提示される要素から断定しきれない結末をこちらに委ねてくる構図。
そもそも中心人物となる川辺市子を市子自身からの視点で提示されるものが1割あるかないかぐらいと、川辺市子という人物を明確に表せる何かが欠けている状態が続くので作品内の余白があることがうれしい人にとっては大好物になる映画。

 同棲している長谷川からプロポーズを受けた翌日に失踪した市子。長谷川は市子を探すために過去に市子に関わった人物に尋ね続けていくうちに川辺市子の過去を知っていく、という話。

 まず杉咲花が演じる川辺市子、ていう存在が魅せる求心力が凄まじい。
あ、この人なら他人の人生を知らないところで狂わせるな。ていう雰囲気が作品内の説得力にブーストをかけている。本人視点での内面を表に出すこともほとんどないのもあって、受け手によって市子という存在自体の解釈も大きく左右されるところもあるし、そのせいか評価も二手に分かれやすい作品になっているかもしれない。

 そんな中で展開される話自体はミステリーとしての面白さもあるし、区切りをつけた後の異質な空気感も近年では唯一無二になっている。
突如失踪した人、という第一印象通りに小学の同級生・高校時代の彼氏から描かれる彼女は平均とは違う倫理観や背景がある事を伺えるけれど、深くまでは踏み込めないままフェードアウトしていく。
高校からその後の市子のルームメイトの話も含めると、市子がどういう心境で・どういう立場で生きていたのかが分かった後に効いてくるセリフや描写がところどころ出てくる。

 そういう部分も含めて、川辺市子がどういう人間なのかを明確に決められるところがほとんど提示されないのが一番いいところだと思ってるし一番好きな所。
ラストの展開もそういう余白と呼べる部分が多いだけあって、観客も長谷川と同じ視点から追いつつどういう人物なのかを個々人で噛み砕いていくことができる。そこが難解さに拍車をかけていたりエンタメとして享受されるだけを求めている人にとっては真逆の趣向にはなるのが難しいところかもしれない。


 今年で言えば『aftersun / アフターサン』に近い、日本舞台で馴染み深い代わりにかなり暗いので安易にとっかかりになる要素が削ぎ落されているようなイメージ。
それでも好きな人が見ていい評価を多く貰っているのを見ていると、いいものはいいものとして見られる機会がそれだけ多くなるのは確実なんだっていうのは実感できていいな。


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