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『わたしは最悪。』は最高って話【感想5】

 リコリスピザは好みや性癖が当てはまる女の子を紹介されてンホォ~~って舞い上がるような映画だったけど、わたしは最悪。に関しては特に好みじゃない見た目だけど会話の波長が合う一生モノの女友達を見つけたような、そんな感じ。

 大雑把な概要としては「自由に生きてきた20代最後を迎えた主人公と、関わりある男性陣が生々しい人生を見せていく」という感じ。これは主人公含め、誰かしらに共感を持たないと見続けられない話なので評判がいいとはいえ、合わない人は2時間弱ずっとイライラさせられるような体験にはなります。例として主人公のユリヤは若さで無双してきただろうパパ活女宜しくやりたい放題しているので特にチー牛思考のオタクは嫌ってそう。ただ作中で30歳の誕生日を迎えて、中盤終盤と時間が経つごとにしっかり痛い目を見ていくのを眺めるスカッとジャパン式で楽しむのも一興かもしれません。

 映画自体、14個に章立てされている(プロローグエピローグ+12章の話)と提示されるので、見ている最中でも今どれぐらい話が進んでいるのかわかりやすくしている親切設計になります。
各章にも副題は設定されているのでどういう話をやるのか、この辺りも親切に説明してくれます。
淡々と現代社会での20~40代の現実を厳しい側面として映し出すだけではなく、ヘッダー設定の画像の場面みたいな映像としても魅力的なシーンが時折入るので見ていて楽しい映画だとは思います。



ネタバレが入る話

 一番印象深いシーンとしてはユリヤが家系の回想をしているシーン。
作中で30歳の誕生日を迎えるわけだけど、同じ年に母親はシングルマザーとしてユリヤを育てることになる、祖母は子供を産んでいてさらに曾祖母はしぶしぶだけど結婚をしていてさらにその母親は……と、全員結婚を経由して子供を産んで、漏れなく自分本位に生きられるステージからは逸脱した人生へ移っているわけです。ユリヤ自身は子供はイラン、と豪語している真っ最中だし結婚する気配もなし。現代人らしいっちゃらしいけど、そういう選択をした確固たる理由や意味はなく、ただフワフワと目の前の快楽を追いながら生きていた結果としてなった状態なわけです。
自由に自分の意志で決められたレールを辿らなくていいと世論では言われているけど、宙ぶらりんな歩き方をしてきた人たちにとっては一番酷な環境です。

 最初に恋人として出てくる漫画家のアクセルはホモソーシャルを体現すると同時に、ユリヤより1手先のライフステージに対する価値観保有者としておかれている(気がするなぁってぐらいの)感じがします。
40代というのもあって、ライフステージを移すことを前提に付き合う相手について慎重になっています。現にユリヤに対して最初のほうに年代が違うことで起きる価値観の齟齬を恐れている旨を伝えています。さすがにお遊び気分ではなく結婚視野に入れとかないと子供は残せないって自覚はあるわけです。
ある意味面白いところとしては、テレビでフェミニストとアクセルがバリバリにレスバトルをする様子が描かれています。子供が欲しいとか好きな表現を世に出していきたいとか、前時代的な男性という属性の立場として描かれているわけです。
ここは本当にTwitterのチー牛VSフェミニストかよと言わんばかりの討論で爆笑してしまいますが、構図としても女性側は過激な描写はやめろという命令としての意見を出して、アクセルは表現としてはこれぐらいは勘弁してくれという交渉としての意見を出しています。命令と交渉じゃモノが違うわけで、多様性とかの話は平行線を辿るしかないというテクストも含まれているような気はします。

 ユリヤの浮気相手になるアイヴィンは職がドトール店員みたいなもんで、性格としてもアクセルとは逆サイドにいる、モラトリアムで居続けたいタイプの男になります。なのでユリヤと話が合って「浮気ではないこと(放尿の見せあい、煙草の煙の口移し等の激・エッチシーン)」をするし、お互いの恋人を捨てて同棲にはたどり着きます。
が、終盤無責任生膣内出し生活を続けた結果、ご懐妊します。この妊娠が発覚するチャプターを機に3人の隠していたり逃げていた弱さを目の当たりにして、話の終着点へと到達するわけです。

 

 今作は特に時世というか、同年代の人たちが共感しやすいキャラ配置を懇切丁寧にされているのが受賞やミニシアターでの受けがいいといった評判に繋がっていると思います。
女性目線ではもちろん、男目線でも2人分の真逆なタイプを配置されているので案外どっちかには理解しやすい性格していると思います。ただアイヴィンは最終的にほかの女と子供を持つダブスタ発動してるんで根っこは同じかもしれないですが。
トップガンのようなこういうのでいいんだよ。感300%のお子様ランチもいいですが、こういう暗喩や遠回しな表現で人間模様を描いているドラマ映画も洋画では本当に面白いジャンルの一つなのでいろんな人に見てもらいたいです。

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