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【感想87】ボーはおそれている

 ジャパンプレミアムのチケットを手に入れられたので定時で家を飛び出て日比谷に。職場からの方が近いし出社日にすればよかった。
こういう一般販売オンリーのチケットで悠々と取れるのは学生時代の感覚のおかげだと思うといい時間を過ごしたねえ、て思えるのがありがたい。

他人に勧めやすい ★★★☆☆
個人的に好きか  ★★★★☆

簡単な感想(ネタバレなし)

 つまらないとかクソ映画っていうのは間違ってるなって言う感覚はあるけれど、大手を振るって面白いって勧めるのも間違ってるなっていう感じ。
個人的には『ミッドサマー』よりだいぶ好きなんだけれど、根幹にある構造がかなり終盤にならないと明かされないのもあって途中で理解を追いつくのをあきらめた人にとってはかなり渋めな評価になると思う。
監督自身も「2回見て」というのを強調していたので、ここまでの内容を踏まえてどういう意図で言っていたのかを感じ取ってほしい。




ちょっと具体的な感想(ネタバレほぼなし)

 正直『ミッドサマー』よりビジュアル面でのインパクトはないけれど、めちゃくちゃわかりやすい。
かなり終盤の方である種明かしをされた時、この映画がどういう事を主軸として描いているのかを台詞でご丁寧に説明してくれる。その甲斐あって序盤から繰り出されていた奇妙なシーンの数々に合点がいくし、もう一度見てちゃんと整理したいなって思わされた。

 かなり老け込んだおじさんと母親の物語っていうパッケージの時点で一般受けで売り込むのは無理筋だけれど、スリラーとしては一級品なのがズルい。
なぜかアリ・アスターにホラーを要求している人がいるけれど、ジャンプスケアは一切なしでただただボウが過ごしている日々の中で奇妙な雰囲気の出力だけ桁違いで出してくるのはアリ・アスターの特徴というか強みというか、スリラーとして不可欠なものを飛び抜けた切れ味で持ってくるのはこの人しかいないと思う。
雑なたとえをすると、アメコミのパッケージを無くした『ジョーカー』、ていうと4割ぐらいは合ってると思う。

 あと長丁場ということを強調されていたけれど、テンポや真相を込々で考えると割と妥当なものだし個人的にはあまり気にならない長さだったなという印象。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と似た感じ。


 ところどころコメディと言われている通り面白シーンは出てくるけれど、シリアスコメディという見方が一番しっくり来るかも。
そのうえで大衆受けしやすいキャッチーな要素なしで長丁場と全然お勧めできない2大要素が絡んでくるけれど、ホアキン・フェニックスの独壇場はぜひ映画館で見てほしい。




具体的な感想(ネタバレしかない)

 受け身なボウが振り回されていると思いきや、母親から告げられた「ボウは無自覚で受け身であることを演じている」という糾弾から一気に話の構造が見えてくる。
もう一度見ないといけない理由も、今まで見ていたボウに対する奇妙な行動をしてきた人たちは本当にボウは何もしていないのか?ていう疑念をさらに深く考えるための材料が必要になってくるから。一番ひどいのが『市子』とは打って変わって、ボウの視点からでしか物語を見れないから第三者視点で見た時にボウはどういうことをしていたのか?とか、あの人たちは本当にそんなことを言ってたのか?というのが曖昧なままなので実際にはどういうことが起こっていたのか?。2時間強かけてボウ視点で見せられてきた後にこの事実が突き付けられるので、見方によってはちゃぶ台返しを食らう気分になるかもしれない。
母親が毒親なのでは?という視点もあったけれど、最後のシーンでの一部始終でその線もかなり薄いと思う。というかお互いになかなかヤバい内面の親子なんだって話でいいと思う。

 『ヘレディタリー 継承』は読んだ本で起承転結を知って実際にはまだ見れてはいないんだけれど、こっちの方が話の中身としては近いのかなと思った。
『ミッドサマー』では救済とも受け取れるラストではあったけれど、『ボーはおそれている』では全く救済されない、むしろボウにとってはとどめを刺されるようなラストなのでストーリーとしてもウケがいいかどうかは難しい所にはなると思う。
視点改変をしているとはいいつつファンタジーでしかない描写が事実として描かれていたりとかなり線引きが難しい演出が多いのもあって考察大好きな人たちが盛り上がると思うから、そこを数少ない希望としてヒットするのを願うしかないと思う。少なくともクソ映画じゃないのは確か。

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