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【感想79】桐島、部活やめるってよ

『正欲』を見に行く前の準備運動として。

他人に勧めやすい ★★★★☆
個人的に好きか  ★☆☆☆☆

元々原作になる小説を先月読んでいて、好きだなっていうところがことごとく薄味だったり感じにくかったりとあんまり好きになれない改変が多かったっていうのが一番きつかった。

桐島という一人の男子がバレー部をやめることになる、この出来事1つで揺れ動く同級生たちの群像劇。
元は章立てで各章のピックされた人物の心情をモノローグでキッチリ描いていくスタイルだけれど、映画では1日の出来事を複数視点で見せて補完し合っていく『デュラララ!!』のダラーズ編みたいな感じ。
あの時何が起こったのかを全体的に把握しやすくなっているし、人物の映し方は原作内の描写を汲み取れるような感じではあったのでこれ1本見るだけでも全然いいと思えるぐらい良さはあったと思う。

どうしても学生時代に鬱屈した日々を過ごしていたような人間じゃないと鮮明に映らない分、今作では映画部でカースト最下位にいるような前田を主人公として映しているような印象があった。
映画部が「普段何してるのかわからないやつら」の象徴としてあるので、どういう視線を浴びてるのか、どういう心境なのか、は見せ方でうまく理解しやすいようにしているなあとは感じた。
例えばカースト上位の女子グループから見た映画部を見せた後に、当の前田たちはどういうリアクションだったのか?をみせたりとか。

逆に原作では実果や小泉といった章の主人公としてフィーチャーされた人物たちは結構薄味気味。
特に実果がどうして小泉に異様に共感していたのか?ていうのは読んだ身としては十分理解できるけれど、映画だけの情報じゃ考察の対象になるぐらい描写はない。ここは若干というか一番フィクション色が強いエピソードだからってのと、先述の通り前田たちを全体的に取り上げる作風なので仕方なし。

ただ映画内の描写だと理解に苦しむ人物になってしまうのがかすみ。
もはやBSSとか脳破壊とか言われてはいるけれど、前田への視線の向き方や一緒にいるグループへの態度だったりとかを辿れば前田に対してはそこまで悪い感情を持ってない(実際原作の中学時代のエピソードを読むと解像度がグッと上がる)のは察しがつくけれど、あるワンシーンの強い印象で覆されているようにも受け取れるし、そのせいで東原かすみに対するイメージが結構変わってくる。


仕草や視線で思っていることを表現しているのは映画しくていいなぁという気はあるけれど、朝井リョウの文章が持っている1から10までキッチリ書ききる性分とはあんまり合わないなとも思うのが正直なところ。
ラストの菊池のシーンも原作・映画ともども大事なシーンではあるんだけれど、映画では前田と入れ替わる形でフィーチャーされる部分が削がれていたおかげもあって菊池の心理描写が野球部の先輩とのやり取りでしかわかりやすく見れる部分がないのでどこまで汲み取れるのか?ていう疑問が出たりと、話を知る分にはいいけれど魅力はかなり削り取られているように受け取った。
映像として見た時の面白さはあるんだけれど、『桐島、部活やめるんだってよ』をじっくり味わうにはこれ一本だけはいただけないなあというのが本音になる。

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