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マイ・ブロークン・マリコ【感想16】

 だいぶ前に悪臭醜顔専用雑貨店(アニメイトの事です)の新刊コーナーで見て以来、ずっと頭の隅にはありつつも読まずにいたし、実写で映画をやると知った時もコミックスでいいかと買いもしないのに自分を納得させていた。
あんまりこういった実写化は好きじゃなかったけれど、永野芽郁が異様に熱を持ってる感じがあったのでとりあえず見に行ってきた。




 基本的には主人公のシイノがマリコの遺骨を抱えながらの道中が映るので、永野芽郁の演技で引っ張っていくことになる。独白をガッツリ独り言として描写しているので人によってはキツイかもしれないけれど、遺骨といるのもあってシイノがマリコと問答しているような見え方もしてくるので案外いいなと思った。

 こういった独白が抱えている遺骨になったマリコとの問答に見えたり、キャラクター自体が実写として映像にするためにところどころうまく味付けを変えられている部分があったりと、ただの「映像化した漫画」ではなくしっかりと映像化するためにチューニングされた作品っていうのが85分間余すことなく伝わってくる。

 時間としては85分と昨今の映画の中ではかなり短めだけれど、作りとしては原作に肉付けをする形で情報の出し方を変えていたり、シイノ自身の自問自答する間がリアルな時間を持たせていたりとかなり原作に忠実。さっき書いたけれど、かなり制作側がこの漫画に入れ込んでいるのでノイズになるような演出は特にないし、変な方向から入れた解釈とかもないので元々の作品が好きな人だけじゃなく、アニメ漫画が好きな人たちにもかなり受けがいいようになってる。

 食事シーンや喫煙シーンなんかの所作もかなりガサツな空気を作り上げているし、マリコのDV男を寄せ付けそうな雰囲気、どっちも子供時代の役者含めてかなり出来上がってる。シイノと永野芽郁のイメージが結びつかない感じはしたけれど、実際に見た感じでは永野芽郁だから良くて、ヒコロヒーなんかのキャライメージありきでのキャスティングじゃないのがかえって作品全体の雰囲気をブラッシュアップしてる感じがした。一個一個の記号としてのキャラクター性を安易に結び付けてたらできないよな、と思う。


 漫画の実写化はポリコレに並ぶアレルギーに近い拒絶反応を示す人が多いけれど、この映画はそういう色眼鏡を抜きにしてみてほしい一本。
見終わった後に漫画を買って読んだけど、邦画らしい雰囲気や間の作りが本当に相性良く溶け込んでいるので個人的に映画のほうを勧めるぐらいにはマッチしてる。

 唯一難しいのは男が見ても共感や理解がしづらいところ。
実際見ていてもどこか他人事みたいな感覚が抜けずにいたのは本当で、女性でかなり体重が乗った感想が多いのも本当です。

 こういうシスターフッドの話の落としどころとしてもかなり好みなので、邦画でお勧めする映画として、ここ10数年は真夏の方程式に並べて擦り続けるぐらいにはいい一本です。漫画一本をオタクを総結集させて密度を上げたようなもんで、その影響でさらに余白が生じるという快作になってます。

 こういう感じでルックバックやさよなら絵梨なんかの藤本タツキの読み切りも映画化してほしいなと思い始めた。ミニシアター系の雰囲気なら絶対に行ける。アイドルの排除で最低限作品のファンが心地いいラインには持っていけるだろっていうのはこの映画で実感した。

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