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「やさしいふつう」をつくる、これからの働き方 村木厚子さん・櫻本真理さん・安斎勇樹さん・大原裕介さん

目に見えないウィルスが、世界中の社会や経済、ひとびとの心の風景を様変わりさせている今。SOCIAL WORKERS LABは、改めて"ソーシャルワーク"の意味や役割を見つめています。

当たり前とされてきた「経済成長」の先行きがますます見えにくくなり、これまでの正解が通用しなくなった世界にあっても、ひとびとが暮らす社会という場をよりよくしていきたい。「そのために何ができるのか」という問いの答えを、福祉の世界にすでにある「ソーシャルワーク」という働きに着目し、価値や定義を捉え直すことで、探求していきたい。

そこで今日は、トークイベント「SOCIAL WORKERS TALK」からピックアップした、ソーシャルワーカーというあり方 = これからの社会をよくする働き方のヒントのお届けします。

やさしい社会の仕組みをつくった国だけが成長している

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元厚生労働事務次官の村木厚子さんは、2014年に開催されたG20雇用労働大臣会合で語られた「包摂的成長」という言葉をご紹介くださいました。

「ホスト国だったオーストラリアのプレゼンテーションに、わたしはすごく感激しました。『リーマンショックのあと、多くの国が自分の国の経済を立て直そうと努力した。そのなかで、女性も、障害がある人も、長く失業している若者も、いろんな人が社会の支え手になれる、人にやさしい社会のしくみをつくっていった国だけが、成長が長続きした。先進国は、リーマンショックからこのことを学んだ』と語られていたんです。この時、わたしだけじゃなく多くの国の人が納得したんだと思う。以来ずっと、国際社会では包摂的成長がとても大事なテーマになっています。」

翻って日本政府は、「仕事を通じた一人ひとりの成長と社会全体の好循環」というビジョンを掲げ、多様な人が活躍できる社会を目指しています。人口が減り、人口構成が変わり、働き手が減りながら、高齢者はしばらく増え続けるこれからの日本社会。この環境下で包摂的成長を実現するには、いろいろな人が自分に合った働き方を選べて、自分に合ったところで活躍することが望ましいのです。

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雇用政策研究会報告書

「いろいろな人というのは、とりわけ女性や障害のある人。それから、ひきこもりの若者や高齢者、刑務所から出た人などです。でも、日本て同じものを平等に扱うのはすごく得意なんだけど、違っているものを違うように扱ってなおかつフェアに公平に処遇するというのがすごく苦手。でも必要だよね、ということで働き方改革にチャレンジしています。」

真の働き方改革は、異なるものとつながる力を育てること

日本がこの苦手を克服し、違っているひとりひとりが自分に合った働き方を選びながら公平な環境で活躍するためには、どんなことが必要なのでしょうか?村木さんは、OECDの調査をひいて日本の、日本人の成長の余白、これからを生きる私たちに求められる意識を示されました。

「日本人は『異なるものとつながる力』が平均を下回っており、平均を大きく上回っている『技術力』や『人のスキル』と対照的です。一方で、AIに代替されない読解力や数的思考力は日本はナンバーワン。自分が能力を発揮するだけじゃなく、いろいろな誰かとつながってものごとを生み出す。その力があったら、もっと前向きの社会を作れる。世界的に見て劣等生の『生産性』や『生活水準』も上向くということかなと思います」

「わたしは福祉の専門家ではありませんが、福祉の本質は『つながりの再構築』だと思っています。国や自治体がお金をかけて制度をつくり、そこに従事している人は仕事として支援をしている。ところが、支援のプロの方たちがものすごく努力をして『この人は立ち直った』と思っても、戻ってきてしまうことがある。その人が人に何かしてあげられることで尊厳や自立を感じられて、なおかつ、家族や友達、近所や職場の同僚とかの"つながり"がしっかりできたときに、初めてその人は、支援が必要な状態に後戻りをせずにすむんですね。ここにすごく、学ばなきゃいけないことがあると思う。」

SOCIAL WOKERS LABは、ソーシャルワークを「目の前のひとりに関心を持ち、人と人のつながりの力で社会をアップデートする仕事」と定義しています。村木さんのお話から、これからの社会における異なる人の間の公平さとつながり、ソーシャルワークの重要性をひしひしと感じることができました。

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異なる衝動を持つ人どうしの対話が、新しい価値を生む

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株式会社ミミクリデザイン代表取締役CEOの安斎勇樹さんは、村木さんが必要性を示された「異なるものとつながる力」を、「創造性の土壌を耕す」ことで育んでいます。

安斎さんは、東京大学大学院情報学環で「人の学びをどう促すか」「気づきやコミュニケーション、学習の力を使ってどのように変化を生み出すか」を探求する研究者。ワークショップデザインやファシリテーションについて専門的に研究し、ナレッジを本や論文にまとめながら企業の課題解決に活用しています。

安斎さんの最新著書 。
「メンバーを本気にさせ、チームの成果を引き出すワークショップの極意
商品開発・組織変革・学校教育・地域活性の現場を変える戦略&スキル」

働き方改革をはじめ、学校教育や企業の新商品開発、地域づくりなど、さまざまな文脈でイノベーションが求められる今、外から与えられたメソッドの踏襲だけでなく、社員や関わる人の中から沸き起こる「何かをつくりたい、生み出したい」という衝動こそが源泉になる。これが、安斎さんが根本に持つ考えです。

「一方で、ひとりひとりの創造的衝動が解放されていたら、社会として創造的な状態なのだろうか、というところも考えておきたい。異なる衝動が結びついて、チームや集団や組織、人が集まったところから何か新しいものが生まれてこそ創造的でありイノベーションだと思うんです。だから、僕は『対話』が大事だと思っています。コミュニケーションを通して、ひとりひとりの衝動がからまって何か新しいエネルギーがうまれていく。その状態をつくることを『創造性の土壌を耕す』という言葉にして、ミミクリデザインの存在目的にしています」

多様な個人の衝動が活かされていること。
集団の対話から新しい意味が生まれてくること。

このふたつが相補的に両立した社会像を描く安斎さんは、SOCIAL WOKERS LABが提示したいソーシャルワーカーの"あり方"を体現した働き方を創造・実践されています。

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環境に押しつぶされず「わたしは誰なのか」から始める生き方・働き方

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安斎さんが、哲学者ジョン・デューイの言葉を引いて語った「創造的衝動」を事業創造に昇華させているのが、株式会社cotree/株式会社coached 代表取締役の櫻本真理さんです。櫻本さんは、外資系金融会社で働いていた時に経験した心の不調から、オンラインカウンセリングサービスを立ち上げた物語をお話しくださいました。

「証券会社にいたころ、わりと馬車馬のように自分を殺して働いていました。そこへリーマンショックがやってきて、すごく会社の雰囲気が悪くなったんですね。どんどん人が減って行く。寂しい雰囲気になるなかで、それまでは勢いよくイケてる仕事をしている気持ちだったところから、『私はこの仕事を本当にやりたかったんだろうか』と思うようになっていきました。
この頃、夜眠れず、朝も早く目覚めてしまうようになり、メンタルクリニックにいきました。行くと、1時間半待たされて、2、3分話を聞いてもらって、『軽いうつ状態だと思うので、薬を3種類出しておきます、また2週間後に来てください』という話をされました。『これっていったいなんなんだろう』と思ったんですね。メンタルに不調をかかえているときって、そもそも生き方に不調をきたしているときで、生き方に向き合って行くべき時なのに、薬でなんとかなる話なのだろうか、と。そこで、わたしは会社を辞めたあとに、何かできることはないのだろうかと、オンライン上でいつでもどこでも誰にも知られずに相談できるカウンセリングサービス『cotree』を始めました。」

cotreeを始めてみたところ、長い間高い頻度で利用する相談者に、経営者が多いことがわかりました。そこで櫻本さんは、ビジネスリーダーを対象に、主だった悩みである「対人関係」をよくするための学びを提供することに。そうして、「coached(コーチェット)」という新しいサービスと会社を立ち上げました。3ヶ月の間、毎週1回、80分のクラスをうけて、人を育てられるようになる。チームビルディングなどのスキルを身につけて、3ヶ月後にはチームを育てるリーダーになることを目指したサービスです。

主催側が依頼した「自分の物語をよりよく生きる」というテーマに沿って、ご自身の生き方・働き方・事業創造の物語をお話くださった櫻本さんは、会場の大学生にこんな言葉を投げかけました。

「自分のものがたりって、みなさんどのくらい語れますか?」

人口が減り技術が発達していく中で、働き方の選択肢は増えていく。多様になっていくなかで、自分が「何が好き」で「何が得意」で「何を目指したいのか」。どうなれたら嬉しく、どうありたいのか、ということに向き合う必要性が出てきている。それがわからずに仕事をしていると、環境に押しつぶされて鬱になってしまったり、強いリーダーや上司に対して主張ができなくてつぶされてしまうことになる。

「そこで、やってみてほしいと思うのは、自分自身のことを理解するためにも、どんな環境だったら幸せに働けそうか、ということを言葉に出してみてほしいんです。言葉にしてみると、自分からもまわりからも何かしら反応が返ってきて、『ああ本当にそうだな』とか『やっぱり違うな』って思ったり、なにか手応えがあるものです。自分は誰なのか、どんな生き方をしたいのか、正しくなくてもいいので言葉にしてみて、それを自分で聞いて、あらためて考え直すことを繰り返す中で精緻化していく。そうして少しずつ、自分の輪郭をはっきりさせていくことができると思います。」

ソーシャルワークは、目の前のひとりに関心を持つことから始まります。その「ひとり」とは、ほかでもない「自分」なのかもしれません。そして、「自分」を「誰に」「何に」つなげるかを考えることが、自分も社会をよくする働き方や、働く場所を考えることである。櫻本さんのお話から、そんな考え方を受け取ることができました。

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ひとりひとりが自分自身や目の前のひとりに関心を持ち、湧き上がる創造的衝動を解放しながら、異なる他者と対話によってつながることで、私たちは新しい意味や価値、事業を創造していける。また、異なる他者とつながる力を育むことで、日本社会を「異なるものを異なったまま公平に処遇することが苦手」な状態から、「誰もが自分に合った場所で活躍し社会・経済に貢献できる状態」へと脱皮させることができ、それができれば、包摂的成長という果実を得られる。

お三方のお話から、自分や他者、社会に対してどんな認識を持つことが社会をよくするのか、これからの日本をつくる大切なマインドセットを学ばせていただいたように思います。

こうしたマインドセットで生き方・働き方を考えていった先に、はたしてどのような仕事があるのか。先駆者として紹介したいのが、社会福祉法人ゆうゆう代表取締役の大原裕介さんです。

大原さんの物語は、以下の記事で詳しくお読みいただけます。ぜひ続けてお読みください。

SOCIAL WORKERS LABの次号は、村木さん、安斎さん、櫻本さん、大原さんによるクロストークのもようをお届けする予定です。どうぞお楽しみに!

                            構成 : 浅倉彩






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ソーシャルワーカーズラボは、これからの社会をつくろうとするソーシャルワーカーどうしが出会い、関わり合い、問い、学び合う社会実験プロジェクトです。noteでは、人口減少社会を生きるわたしたちに必要な社会観や働き方の先駆的な探求と実践についての記事を掲載しています。
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