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変化を起こす挑戦者を創る採用・事業開発とは | DoingからBeingへ | Vol.6

自主ゼミ企画「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SOCIAL WORKERS LABを探究する~」は、さまざまな領域で活躍するソーシャルワーカーを招いて、その仕事や生き方について学び、参加者と対話を重ねるオンラインゼミです。2020年秋の開講後、全国の学生・社会人にクチコミで広まった人気ゼミのエッセンスを紹介します。

第6回のゲストはmichinaru株式会社代表取締役の菊池龍之さん。長年、企業の採用支援事業や新規事業創造に取り組んできた菊池さんに、かつての勤め先の後輩である今津新之助(SWLABディレクター)がお話を伺います。

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菊池龍之
michinaru株式会社 代表取締役

1976年滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、日本データビジョンで採用支援事業に従事し、複数の事業立ち上げを経験。2011年株式会社コヨーテ設立。独自の採用メソッドを開発し2千社を越える企業に伝える。2020年「変化を起こす挑戦者を創る」をミッションにmichinaru株式会社を設立。

世界最古の求人広告を知っていますか?

今津:今日は竹端先生はお休みなので、僕から菊池さんをご紹介します。菊池龍之さんは「変化を起こす挑戦者を創る」というミッションをもつmichinaru株式会社の代表取締役です。企業の採用支援や新規事業創造に伴走する事業を行っておられます。

僕の印象としては「オモシロ採用の研究をしているひと」です。同志社大学を卒業した後、日本データビジョンで採用支援の事業に携わって2011年に独立。株式会社コヨーテを創業して採用支援事業を行った後、2020年にmichinaru株式会社を設立…ということであっているでしょうか?

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今津新之助(SWLAB ディレクター)

菊池:michinaru株式会社の菊池です。しんちゃん…えっと、今津くん、紹介をありがとうございます。久しぶりだね!今日はよろしくお願いします。

今津:いつも通り「しんちゃん」でもいいですよ。笑 僕と菊池さんが知り合ったのは20年ほど前ですね。その頃、菊池さんが勤めていた日本データビジョンというベンチャー企業にぼくが内定をもらったことがきっかけです。僕はダメダメ学生だったので就職活動が上手くいかず、大学6年生だったし、とにかく早く働きたかった。必死に就職活動をしていたときにみつけたのが日本データビジョンの採用広告です。とてもユニークだったので「ここや!」と思いましたね。その採用広告の文言がこちらです。

「求む隊員。至難の旅。わずかな報酬。極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る。」

菊池:懐かしいね。この文章は日本データビジョンのオリジナルではなくて、1900年のイギリスの南極探検が出した隊員募集広告です。世界最古の求人広告だと言われています。

今津:今の価値観でみると、やりがい搾取のブラック企業に見えるかもしれないけど、ダイレクトメールでこのメッセージを見たときはビビッと来るものがありました。

菊池:情熱的でロマンをかきたてるメッセージだよね。日本データビジョンは社員9人のベンチャーだったので、この文言にビビッとくる学生を採用したいと思って送りました。京都大学の学生だった今津くんにはビビッときたらしい。笑

ひとが集まる採用活動には仕掛けがある

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菊池:100年以上前の求人広告の話が出ましたが、この話は今日のテーマとも繋がります。このゼミを聞いているのは就職活動を控えた学生さんと、すでに就職して働いている社会人のひとが半々くらいだと聞いています。みなさんは就職先の企業や法人との出会いは偶然だと思いますか?ひとの紹介や偶然の出会いもあるとは思いますが、採用というのは「出会うべくして出会いたいひとに出会う」ための仕掛けが裏側にあります。そして、採用活動の仕掛けや方法は企業によって様々です。

僕が日本データビジョンに勤めていた時、さまざまな企業の採用支援事業に関わりました。会社の数だけ採用活動があります。面白い採用活動をやっている会社に目が留まるようになったので、サラリーマンをしながら「オモシロ採用」を個人ブログで紹介すると、これが、けっこう注目を集めたんです。

今津:菊池さんのブログはユニークな採用戦略をいち早く紹介していました。だから注目を集めたし、テレビ局やマスコミから「オモシロ採用で特集を組みたい」と問い合わせがきていたそうですね。あの頃、ほぼ日さんとか、カヤックさんとかが有名でした。

菊池:個性的な採用活動を紹介していたことが注目された時期もありますが、僕としては採用活動の面白さよりも組織そのものの個性に注目をしていました。

今津:それはどういうことですか?

菊池:採用活動とは「面白くて目立つことをやればひとが集まるだろう!」という単純なものではありません。より本質的に考える必要があります。「うちの会社の考え方、ひとに対する姿勢、組織の特徴を伝えるために最適な手段はなにか?」ということまで考えて採用活動に取り組んだ結果「オモシロ採用」と言われる個性が際立つこともあるでしょう。

会社の在り方が採用活動に出ますし、その個性が働き手やお客さんを呼び込むのでしょう。僕はそういう企業を応援したいと思ったので独立しました。

採用の「なぜ?」を問うことからはじめる

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今津:そのあたりのお話を詳しく聞かせてください。

菊池:いま取り組んでいるのは採用支援のほかに"新事業創出"や"事業開発"の伴走です。いずれにも共通するのは英語でいう「Why(=なぜ)」を捉えているかどうかだと思っています。

採用活動のスタートラインって「なぜやるのか?」が問われることが少ないですよね。「スタッフが辞めたからー」とか「人手が足りてないしー」という理由はよく聞きますが「本当にひとを採用しないといけないのか?」は問われにくい。

「なぜ」を問うことからはじめると「うちはどんな組織になりたいのか」「なにを大事にしているのか」「本当に採用しなきゃいけないのか」という問い直しができます。採用活動の方法やテクニック以前のことです。問い直しができている企業には欲しい人材が集まってくるし、そうでない企業と差が出るのは当然です。

採用担当者のためのワークショップでは「あなたの会社にとって、採用のWhy(なぜ)はなんですか?」ということを伺っています。採用担当だけでなく、社長と一緒に作ってもらうようにもしています。

新事業創造と事業開拓の伴走をする際にも「事業開発のWhy(なぜ)はなんですか?」と聞いています。すると「儲かりそうだから」「業績が下がってるから」など、さまざまな理由があります。「本当にそれでいいんですか?」「会社を継続させる理由は何ですか?」など、さらに問いかけることで意思を明確にしていくのが僕らの仕事です。

採用支援から新規事業創造への展開

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今津:菊池さんが採用領域で活躍していることは知っていましたが、michinaru株式会社が新事業創造や事業開発の支援に取り組んでいることも繋がっているのですね。既存事業ではなく新しい領域を創ることは福祉業界も迫られていることです。領域を拡張してアップデートしていくためにどうすればいいのか。菊池さんが取り組んでいることを聞かせてください。

菊池:ぼくは課題をみつけて解決に向けて取り組む挑戦者が大好きです。笑 そういうひとを増やさないと世の中は変わっていかない。挑戦者を増やしたい。だから、michinaru株式会社では新規事業創造を担う人材育成プログラムに取り組んでいます。

今津:そのプログラムとは?

菊池:白紙の紙に自分で地図を描けるひとを育てるプログラムです。新しい事業を創ることが目的というより、事業を創ろうとする挑戦者を育てることを目的としています。優秀な学生や大手企業には課題解決を得意とするひと、効率的にスマートに進めることができるひとはたくさんいますよね。けど、課題解決ではなく課題を発見できるひとは少ないです。挑戦者を育てるためには、課題を発見して解決に向けて取り組むことができるひとを育てていく必要があります。

福祉の領域にはとても保守的な側面がある一方で、この社会が抱える問題や課題に果敢に飛び込んでいくひともいます。今津くんの紹介で知り合う福祉関係者はネジが1本外れている面白いひとが多いし、世の中に変化を起こすひとなんだと思います。僕はそういう出会いが好きです。

今津:新事業創造と挑戦者の育成は、鶏と卵のようなものですね。事業を創る、挑む、新しいことに取り組むプロセスこそがひとが育つことができるのでしょう。

菊池:の中にたくさんある問題・課題のなかで「このことに取り組みたい!」と心から思うものはなにか。会社の都合とか、儲かるかどうかではなく自分が本当にやりたいかどうかがポイントです。このゼミのテーマのBeing(あなたはどうありたいか)とも重なります。半年ほどのプログラムのなかでワークショップと課題に取り組んでもらいながら、自分が時間を忘れて取り組んでしまう何かを探ってもらいます。課題の中には「自分で考えたアイデアを友達・家族・親など誰でもいいから10人に話して意見をもらってきてください」というものもあります。前人未踏のなにかを見つけるためには必要なことです。

Beingを自覚できていること

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菊池:今津くんは大学を卒業後、内定を辞退して沖縄に行って起業しましたが、そのときはどんなことを考えていたのですか?

今津:ぼくは日本の教育を変えたいと思っていました。20代の最後まではそう思っていたけど、沖縄での出会いを通じて、目の前のひとの関わりの中で変化の兆しが生まれることに気が付いたんです。そこからぼく自身が変わっていきました。ちょっと上手く言えませんが、新たな働きかけをしていくうちに価値を作りに行っている感じ…でしょうか。

菊池:今津くんのいいところはお節介なのと、違和感を放置できないところだと思う。自分の感じた違和感を声に出して伝えたり、違和感を解消するための行動を起こすことができるひと。稀な人ですよ。すごくいいと思います。何か新しいものを創り出すひとって、日常の「おかしいんちゃう?」という違和感を放置しません。これは課題設定力が高いひとに共通しています。

よく見るのは、例えば「モビリティビジネスですっげえ面白いことをやりたい!」というようなタイプ。このゼミで言うDoing(なにをするか)の方に注目しているタイプです。そういうタイプのひとにも「なにがあなたをワクワクさせますか?」「どんな世界を創りたいと思っていますか?」など、キャリアカウンセリングのような話をしています。

事業創造のテクニックだけを伝えて持ち帰ってもらうこともできますが、それだと日常の業務に追われて忘れ去ってしまうでしょう。本質に迫るために「Why(なぜ)」を繰り返し問うのです。

自分のミッションから湧き上がってきたものであれば、DoingではなくBeingを自覚できている状態です。そうすれば長い時間をかけても取り組むひとが育つ可能性があります。私たちが提供しているのは「本当にやりたかったこと」を発見して、自分を羽ばたかせるような何かを掴んでもらうための伴走です。

医療・福祉分野で挑戦者は現れるのか

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今津:ぼくは福祉の現場の人間ではないですが、福祉の採用や人材育成にかかわってきました。人口減少や高齢者人口の増加で、介護や福祉の担い手は減っていくことは明らかです。これからの未来にむけて、我々はどんなことを準備していけばいいのか。菊池さんの考えを聞かせてください。

菊地:ぼくは未来って自分の頭の中で描くことができると思っています。ぼくがセミナーの講師を頼まれたときに「この国や町の20年後を想像してみませんか?」と問いかけることから始めます。そして、人口動向や労働人口の変化などをデータで見てもらいます。

「この町には現在は12000人が暮らしています。しかし、20年後には7000人まで人口が減って、若者人口は半分になる見通しです。どう思いますか?」

数字から未来を想像するのは難しいので、問いかけ方を変えます。

「20年後にそういう状況になったとき、この町でだれがどんな風に困っていると思いますか?」

問いかけ方を変えるといろんな意見が出てきます。「ひとが減ると商売が続かないから商店街の店が減る」「若者は街を出ていくだろう」「空き家が多くなって空き巣が増えるかも」など。未来を想像することで「じゃあ、今から何に取り組むのか?」という具体的な行動に結びつけることができます。

今津:問いかけ方を変えるだけで未来を想像できますね。

菊地:組織や会社や地域の未来を思い描いて、自分なりの課題を探ることから挑戦は始まります。福祉の現場にはさまざまな課題があると思います。自分が「なんとかせなあかん!」「ここを変えよう」と思うものを探してみてください。自分なりのミッションや解決したい課題がみつけられたら、それを実現した時に世の中がどう変わるのかを想像してみてください。そして、自分の言葉で語ってみてください。今津君が語る言葉にたくさんの協力者が集まってSWLABの活動をやっているように「あいつになら力を貸したい」ってひとはきっと現れます。そんな挑戦者で溢れる世の中を僕は創っていきたいです。

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菊池龍之さんには、「つながりつながる連続講座 Vol.2」にもご登壇いただきました。こちらの記事もあわせてご覧ください。

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【自主ゼミ2020】「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SWLABを探究する~」とは

正解なき時代を生きる私たちが他者や世界と向き合っていくために、ソーシャルワーカーとしての生き方・働き方、魅力や可能性をともに探索していく場。狭義のソーシャルワーカーの枠をはみ出したゲストの方々、そして参加者の皆さんと対話・共話を重ねることで、ソーシャルワーカーとは何かを問い直し、深めていく時間です。20年10月から21年3月までの半年間にかけて全10回開催しました。

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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。

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