福祉とまちづくりの交差するところ
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福祉とまちづくりの交差するところ

SOCIAL WORKERS LAB

福祉の可能性を考えるうえで、重要なテーマのひとつである「まちづくり」。今回は、福祉というフィールドから「地域でともに生きる」取り組みをしている久保田翠さん(NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表)と櫛田啓さん(社会福祉法人みねやま福祉会理事)をゲストにお迎えし、SWLABディレクター今津と3人でクロストークを行いました。

久保田 翠
認定NPO法人 クリエイティブサポートレッツ 代表理事

東京芸術大学大学院 美術研究科修了後、環境デザインの仕事に従事。重度の障害のある長男の誕生を機に2000年クリエイティブサポートレッツ設立。2010年に障害福祉施設アルス・ノヴァ、2014年にのヴぁ公民館を設立。2016年より個人の生活文化を支援する「表現未満、」プロジェクトを開始。2018年浜松市中心市街地に重度の障害のある人を核とした文化創造発信拠点「たけし文化センター連尺町」完成。2019年ヘルパー事業所ULTRA開設。2020年「浜松ちまた会議」発足。2017年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

櫛田 啓
社会福祉法人 みねやま福祉会 理事

“ごちゃまぜ”で支え合いの社会をつくる。「Jリーガー」を夢見てサッカーに明け暮れた学生時代。しかし、恩師の一言から「福祉」の道を志すことに。大阪や福岡での生活を経て、10年振りに帰郷し故郷の衰退を目の当たりにした時、自らの運命を受け止める覚悟を決めた。現在は、疾患・障がいの有無や世代・年齢に関わらず、地域の中で人と人の支え合いを大切にする「ごちゃまぜ」の社会づくりを通じて、人々のこころ豊で安心・安全な暮らしへ貢献する。社会福祉の変革に取り組む職員の想いを社会に届けるイベント「社会福祉HERO’S TOKYO 2018」初代ベストヒーロー賞受賞。

「まちなか」でできること
よそもの同士で「まちなか」に集まり、コミュニティをつくる

今津:久保田さんと櫛田さんは、それぞれ「地域でともに生きる」というビジョンを掲げながらも、その活動はとても対照的ですね。人口80万規模の政令指定都市・浜松で福祉を軸にまちづくりをされている久保田さん。かたや京都府最北端の京丹後市で地域の課題に向き合う櫛田さん。今日はおふたりの活動から、それぞれの違いと共通する部分が見えたらおもしろいだろうなと思っています。

久保田さん:そうですね、今日はよろしくお願いします。私たちクリエイティブサポートレッツは、文化事業と生活介護事業を行っているNPO法人です。今日のテーマが「まちづくり」なので、まず浜松駅の近くにある「たけし文化センター連尺町」について少しお話しします。

ここは1階と2階が生活介護の事業所になっていますが、文化センターなので誰が来てもいいんですね。生活介護の事業所は、重度の知的障害の方が活動する場所ですが、何か作業するということはしていません。まちへ遊びに行くひともいれば、1日中ぴょんぴょん飛び跳ねるなど自分の決めたルーティンをする人もいる。3階では、一般のひとも泊まれるゲストハウスとシェアハウスを運営している。なかなか不思議な場をまちのまんなかにつくっています。ほかにもいろんな活動を行っていますが、「まちなか」に共生社会をなんとか埋め込めないかと、そんな想いで実践中です。

 今津:「まちなか」で活動するいいところ・難しいところはなんでしょうか?

 久保田:私も夫も浜松の出身ではありません。ならずもの、といいますか。だから生まれたときからあるコミュニティを持っていないから、自分でつくるしかなかったんですよね。コミュニティにはひとが必要なので、ひとと出会うには、人がたくさんいる中心部の都市へ行くしかない。とにかく知っている人を増やさないと利用者さんのコミュニティも広がらないから、ほぼ毎日スタッフと一緒に外に行ってもらうんですよ。そうすると、たとえば近所のスーパーでも、ならんでる商品をうちの利用者さんが動かして遊んで、申し訳ないからと買って帰るんですけど、そのうち店員さんに「ここまでなら買ってもらわなくても大丈夫」と言ってもらえたりとか。そういう関係ができてくるんですよね。そして、そういう出会いをつくれるのが、私にとっては「まちなか」だったんです。

 「いなか」でできること
地域に関わり続けることで、困りごとのニーズをキャッチする

 櫛田さん:みねやま福祉会は、久保田さんが活動されている「まちなか」とは対照的で、海のきれいな「いなか」にあります。

私の祖父が設立した社会福祉法人を受け継ぎ、理事を務めています。人口減少と少子高齢化にともない増えている空き家を福祉事業に活用して再生し、そこから新たなコミュニティをつくりだす、といった地方特有ともいえる事業も行っています。

たとえば、かつて地域のシンボルだった丹後ちりめんの工場跡地を、高齢者の小規模多機能の住居に再生したり、耕作放棄地も出るからその農地で野菜をつくり農福連携の取り組みをしたり。地域の人が困っていることに対してアプローチしていくのが、昔も今も変わらないうちの法人の特長です。そのためには、地域の方々とできるだけ近い距離でいることが大切。そうでないと困りごとのニーズはキャッチできませんし、何かアクションする際には地域の方々から新しいご縁をいただけることにもつながります。私自身も青年会議所に入っており、住民のひとりとして暮らしています。

 久保田:地域と関係を築きながら福祉に取り組んでいくことは、まちづくりにつながっていく。まちづくりを考えると福祉にたどりつく。

櫛田さんも、まちづくりと福祉を地続きのものとして考えておられて、みねやま福祉会のような施設が増えると、地域が変わっていくんだろうなと思いました。

 今津:地域と関係を構築していくこと、それ自体が福祉であり、まちづくりなんだと。

櫛田:ただ、社会福祉法人というのは“制度にあてはめる正しさ”を求められるものでもあるんですよね。制度の狭間で困っているひとを助けたら、「制度にあてはまっていないじゃないか」と厳しく指摘されたりね(笑)こういう本質を欠いた課題を解決できる仕組みも、社会福祉法人が主体となって考えていかなければなりません。そして、久保田さんがされてるような、強いインパクトをもって社会の考え方や価値観を変えていく取り組みを、社会福祉法人としてもチャレンジしていかなければと、あらためて強く思っています。

 久保田:私たちは法人の歴史も浅く、地域の中で何百年も根付いているわけではないので、ある意味逸脱したようなこともやりやすい状況ではあると思います。それにしても、もともと私が福祉を少し疑ったところを入り口にしていることもあるのか、福祉施設に行ってすごく不思議に思うのは、なんかピッカピカじゃないですか?(笑)お掃除がものすごくいきとどいている。病院ならわかるんだけど、なんでここまで?「誰が掃除しているんですか」と聞くと「職員です」って。掃除もしなきゃいけない、ケアもしなきゃいけない。なんでもしなきゃいけないのはあまりにも大変じゃないですか?それに、もっと生活感があるほうが自然だと思う。なぜなら施設は利用者さんの家なんだから。そんなことより職員は、利用者さんとどれだけ楽しい時間をつくれるか、です。お互いに「生きてるっていいね!」って実感できるのが、この仕事の醍醐味。だからスタッフが大変になることを、あえてする必要はないんじゃないかと考えています。

 地域との関係性のつくり方
専門家でも当事者でもないひとたちと、ただ一緒にいるだけでいい

 今津:「地域で共に生きる」取り組みをされているお二人の共通項は、ひととの関係性を再構築することなんだと感じました。そこで、地域のみなさんと関わり、つながりをつくっていくことに、どのようなことを大切にしているのか、お聞かせいただけますか。

 久保田:私たちは、障害のあるひとを「知ってください」とは言うけど、「わかってください」とは言いません。というか、わかるわけがないんです。私だってわからない(笑)そんなことではなくて、大切なのは、専門家でも当事者でもないひとたちがただそこにいて、一緒に時間をともにすること。そういうひとが増えると、地域ってやさしくなるんじゃないかな?だってそれは、誰でも認めるということじゃないですか。自分と明らかに違うひとを認めるためには、わかろうとするんじゃなくて、一緒にいることが大事なんだと思っています。

 今津:櫛田さんは、地域のみなさんとどのように関係をつくっておられますか?

 櫛田:まず、現在のみねやま福祉会は、地域の困りごとを解決してきたらこうなったという結果なんです。

先代である祖父のところには、絶えずひとが集まってきていました。流行に敏感で、地域で最初にコーヒーを豆から挽いて、地域のひとにふるまったりね。とにかく毎日関わりつづけてきたんです。それで信頼を得て、困ったときはみねやま福祉会に相談しようとなった、っていうのはあります。地域と関わりつづけることは、私もとても大切にしています。

 今津:地域での関わりを自らつくりだすことで、信頼を得てきた結果なんですね。

櫛田:そうですね。そのうえで「これは大事だよ」とスタッフにも伝えていることが、「多様性はノイズ」だということ。ひととの違いというものは、ともすれば違和感や不快なものかもしれないけれど、それが面白いと思えるようになりたいよね、と。「このひとはなんでこんなことするんだ!?」と面白がれたら、世界の捉え方も面白いほうへ変わっていきますから。

まちづくりってなんだ?
まちをつくることは、ひととの関係をつくること

 今津:繰り返しになるかもしれませんが、おふたりが考える「まちづくり」ってなんでしょうか?

 久保田:「まちづくり」とは、そもそも建築用語だと私は思っています。長い間、モノやコトをつくりすぎちゃった。だけど、一番大切なのは「ひと」です。ひとがいないと、ものごとは何も動かない。だから、ひととの関係をつくっていくことからはじめないとコミュニティもできないし、まちづくりもできないんだとつくづく感じています。

 櫛田:これからやっていく私たちのアプローチとして、やはりひととひとの支え合いの仕組みをもういちど再構築していく必要があると考えています。そのためには、地域の中での関係性を取り戻していくことが大切。あくまで無理矢理じゃなく、自然にね。誰でも来れる場所をつくり、私たちが手を出しすぎないことが大事だと思っています。なんで子どもが虐待をうけるのかと突き詰めていくと、「親の孤立」があげられることが多いんです。地域の中で人との関係性がつくれていない。この閉ざされた世界を、いかに福祉の力でひらいていけるか、そんなチャレンジをしていきたいですね。

問い直す力は面白がる力になる

今津:最後に、参加者からの質問にお答えいただけますか。

Q. それぞれ違うひと同士で、どうやって関係性をいつくっていけばいいのでしょうか?

久保田:知的障害のひとっていろんなことをやるんですね。たとえば、1日中水を浴びているとか。とにかくビチャビチャっていうね。多くの人はその行為を非常識だと言って、どうしてもやめさせようとするんですね。でも本ひとに「やめろ」と言ってもやめるわけがないんです。にもかかわらず、福祉系のひとって、完全にやめさせる方向で動くときがあるんですよ。その理由は、風邪ひいちゃうとか、危ないとか。そこを一回考えなおすことに、ヒントがあると思っています。なんで、彼はそんなに水が好きなのか。なんで、私たちは好きなものを奪わなければいけないのか。奪う必要があるのか。やめさせるのは簡単です。でも、そうじゃない方向を鍛錬していくと、変なことをした人に対して、さっき櫛田さんもおっしゃいましたが「おもしろい!」っていう気持ちになれるんですよね。そういうひとが増えてくれるといいなって思いますけどね。関係性をつくるには、問い直す力を持つことなんじゃないでしょうか。

櫛田:ほんとうにそうですよね。福祉施設の現場にいると、数えきれないエピソードがありますよ。知的障害の人が不登校の子の人生を救うこともあった。最近思うのは、大きなコミュニティをめざそうとしない、ということが大切だと思っていて。イベントでもなんでも、何千人来たから成功!といったまちづくりイベントじゃなくて、超スモールなコミュニティをつくっていけばいいんじゃないかと。たとえば、「映画好き集まれ」とか。そしてその中でも、「タイタニック好きな人集まれ」とか(笑)要するに、ひとってそんなにたくさんのひとと付き合いたいと思ってないでしょう?おしつけがましく関係性をつくれって言われても難しいじゃないですか。それより、アイツと話したら面白いとか、この話するの大好きとか、そんな小さな仕掛けを考えることもいいと思いますね。

今津:福祉の当事者だけでなく、関わるすべての共事者として一緒にいること。それがまちづくりにつながっていく。本日も盛りだくさんのお話、ありがとうございました!


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