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日々の暮らしをやさしく面白くする未来会議|イベントレポート

2022年3月10日、晴天。SOCIAL WORKERS LAB(以下、SWLAB)の新しい試み「日々の暮らしをやさしく面白くする未来会議」を開催しました。

学生50名、京都府内にある4つの社会福祉法人、既存の枠組みをこえて活動するソーシャルワーカーたちが集まり、フラットな関係で対話し、どうすればもっと一人ひとりが日々の暮らしを、やさしくし、面白がり、たのしんでいけるのかを考えました。「日々の暮らしをやさしく面白くするときに立場なんて関係ない。誰もが取り組んでいけることだから、ここでの出会いをきっかけに何かを持ち帰ってください」。そんなSWLABディレクター今津の掛け声のもと、13時〜18時までの長丁場にもかかわらず、その熱気は最後まで衰えることなく、活気に満ちた場となりました。

会場、KYOCA 京果会館

さて、そもそも「日々の暮らしをやさしく面白くする未来会議」(以下、未来会議)とは一体何なのか?まずはこのまったく新しいタイプのイベントの、企画の趣旨やねらいを紹介したいと思います。

「日々の暮らしをやさしく面白くする未来会議」とは?

「未来会議」開催の経緯

SWLABは、これまで、さまざまな社会問題に危機感や疑問を覚え、その解決に向けて真剣な若者に数多く出会ってきました。そういった学生たちと、ともに生きていくための地域づくり・まちづくりに奮闘する福祉法人の職員たちが出会い、これからの社会をよりよくするため、オンラインで対話する機会をつくってきました。対話によって生まれた、「こんなことをしてみたい」といった意欲的なエネルギーを、まちづくりの実践へとつなげていくために、直接会って話すことを通じて、出会いがアクションにつながっていくような場を模索していました。京都は学生も多く集まる地であり、協働する4つの福祉法人が拠点を置く場所です。京都にて、多様なひとたちが互いに出会い、ともに考えを交わし、実践へとつなげる機会として、本企画の企画・開催に至りました。

当日は80名もの人が会場に

「未来会議」の趣旨・ねらい

今回のイベントは、大きくわけてふたつの個性的な顔を持っています。ひとつは、学生のみなさんに向けて。地域に関わることで、よりよい暮らしを自分自身の手でつくることができるかも!という可能性を、就職活動でもインターンでも大学の実習でもないこの場所で感じられるまたとない機会です。もうひとつは、共催する福祉法人のみなさんに向けて。就職活動ではない場での学生との出会いを通じて、若い感性と出会い、その考え方を取り入れ、これからの時代に必要な地域社会をともにつくっていくきっかけにしていただきたい、というもの。

未来会議について、共催する社会福祉法人である南山城学園の岩田さんはこう語ります。「本来の福祉というのは、人と人がそれぞれの足りないところを補いあいながら、ともに生きていける社会をつくっていくこと。しかし、そういう本来的な福祉の姿が、福祉職の現場では抜け落ちてしまっているように感じるんです。福祉サービスだけを提供するのではなく、社会を見渡せばあらゆるところにある、やるべき福祉活動に目を向けていかなければ。そのために、福祉法人と学生とソーシャルワーカーが交差する機会がほしいなと思っていました」。

南山城学園・岩田さん(写真右)

SWLABは、未来や社会に対して前向きに働きかける人たちのことを広く「ソーシャルワーカー」と呼んでいます。それは、一人ひとりの幸せのために、枠にとらわれず活動している人たち、ともいえます。そして、本来の福祉とは、社会課題解決であり、まちづくりであり、日々の暮らしづくりであり、未来をつくる営みであるはず。未来会議は、場につどう一人ひとりが日々や未来のつくり手である感覚を共有していく時間でした。

【第一部】先駆的な実践者によるクロストーク

「未来会議」はまず、先駆的な取り組みをしているゲストによるクロストークからスタート。記念すべき第一回目の未来会議には、以下4名のゲストにお越しいただきました。


ゲストのプロフィール

  • 田中 元子さん
    株式会社グランドレベル 代表取締役社長
    「1 階づくりはまちづくり」をモットーに、「喫茶ランドリー」「TOKYO BENCH PROJECT」など多様な住⺠が能動的に集う公共空間を創造する。

  • 金井 浩一さん
    一般社団法人ライフラボ/相談支援事業所しぽふぁーれ所⻑
    多領域が協働する地域ケア体制づくりをめざす独立型相談支援事業所として、アウトリーチ性の高い相談支援に日々奔走中。「地域の小さな遊び場づくり」にも取り組む。

  • 松浦 千恵さん
    BazaarCafe メンバー/社会福祉士/精神保健福祉士
    アルコール・薬物依存、その他の精神疾患や引きこもり等の困難を抱えている人とともに生きながら、多様性を編みこめる居場所づくりを実践している。

  • 村井 琢哉さん
    NPO 法人山科醍醐こどものひろば 理事⻑/関⻄学院大学人間福祉学部 助教
    子どもがより良く育つ環境づくりのため、同じ地域で暮らす大人・子どもがあるがままに関われる場づくりに取り組む。共著「子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち」


それぞれのゲストのプレゼン後に、お互いの活動についての感想などを語り合うところから、クロストークが展開されていきました。その内容を部分的に抜粋します。

第一部の様子

趣旨を明確にしない。言葉で場をしばらない。

福祉業界の人々自身が「福祉」という壁をつくってしまっていると指摘する金井さんは、松浦さんと村井さんの活動を、いい意味で「ぼんやりした活動」と表現します。

金井さん

それはお二人が「福祉」という壁をつくらず、枠組みをこえて社会や地域にリアルに存在する人と向き合っているから。松浦さん自身も「バザールカフェを説明するのは難しい」とおっしゃっていました。松浦さんは、カフェの中でさまざまな背景のある人たちが出会い、多様な人たちの居場所となるために、カフェの運営目的を明確な言葉で表現することを、あえてしていないのです。逆に言えば、バザールカフェは「多様」という状態を受け入れているだけであり、本来の社会の姿の縮図のようにも思えてきます。

松浦さん

福祉の専門用語。福祉の専門家。

「専門用語がイメージを狭めてしまう」とも指摘する松浦さん。たしかに「ソーシャルワーカー」という言葉も、専門的なものとして捉える方も少なからずいます。「アウトリーチ」という言葉も、単純に「見に行った」と言ったほうがわかりやすい。ここで言う「わかりやすさ」というのは、専門用語のせいで「私にはできない」と思わせないこと。

また、「専門家は、たとえば病気になったとき、治療するときにいてくれたらそれでよくて、必要な専門家がどこにいるのかさえわかっていれば、日常生活そのものには不要」と村井さん。困っている状態を改善してほしいというリクエストがあるとき、使える専門性と戦略は持っておきながら、もっと気軽にいろんな人と出会い続けられる状態を維持したほうがいい。そういう関係性づくりも、ひとつの専門性と言えるのではないかと。

村井さん

場の設計は、デートで行きたいかどうかが重要。

 「一階づくりはまちづくり」をテーマに、一階をつくることがまちをつくることだと言いきり、世界平和に1mmでも近づく活動をしている田中元子さん。「建物の壁の向こう側でどんないいことが起きていても、外に出て誰にも会えないまちってどうなの?」と続けます。一階は誰だってうっかり見てしまう。そこに人気(ひとけ)があり、そこをよりよい状態にすれば、いつか世界平和につながっていくというのが田中さんの信念です。

田中さん

田中さんの活動の中で、まちの通りにベンチを置く、というものがあります。まちにベンチを置くとどうなるか。みんな座ります。そして、多様な過ごし方をしはじめます。

京都には鴨川が流れています。鴨川には等間隔でカップルが座っていたり、学生たちが話していたり、自然と思い思いに過ごせる状態ができていますよね。田中さんは「鴨川をいかに設計できるか」ということを意識しているとのこと。デートに使いたくないコミュニティーなんて魅力的なの?と問いかけます。

第一部では、福祉的な専門用語、専門家とそうでない人、地域やまちづくりなど、さまざまな話題が飛び交い、ハッとさせられる言葉がいくつも生まれ、とても有意義なクロストークとなりました。

【第二部】まちをやさしく、面白くする未来会議

 いよいよここからは、学生・福祉法人・ゲストを交えての未来会議セッションです。第一部を経て、屋内にもかかわらず日のあたる公園のような居心地のいい環境になってきた会場は、言うまでもなく参加者全員でつくりあげている、ここにしかない心地いい空気感でした。第二部では、未来会議に参画していただいた福祉法人と学生、ゲストが出会い、語る時間。4法人それぞれが話し合いたいテーマを発表し、4グループにわかれた学生たちが自分の「シマ」につき、知ってる人も、知らない人も、東京から来た人も、北海道から来た人も、ニューヨークから来た人も、学生も、ゲストも、福祉法人の職員も、同じ目線で、まちをやさしく、面白くするために、どんどん言葉を交差させていきました。

車座をつくり4グループで対話

話している内容をイラストで記録するグラフィックレコーダーのみなさんが、ヒートアップした頭を整理してくれます。まだまとまらない言葉がありつつも付箋に書いたひとつの思いは、自分のこれからをひらくための種のようなもの。もっと話したい!そう思うほど、あっという間に時間が過ぎていきました。

グラレコ

〈4法人のセッション〉

南山城学園 「地域共生社会に向けて、自分にできること」

それぞれ違う人が地域でいっしょに幸せに暮らしていくミライをつくるために、枠を、フクシをこえていくことを展望に掲げる南山城学園。ますます重層的・複雑化する地域の課題は、行政・自治体・民間企業・社会福祉法人、そして、地域住民といっしょに協働する取り組みが必要です。今ある制度やサービスにないものは、さまざまな職種と連携しながら新しくつくらなければなりません。異なる分野や職種と化学反応を起こし、いろんなことにチャレンジしていきたい。セッションのテーマは、「地域共生社会に向けて、どんなことができるか」。それぞれに学んできたことや、想い、取り組みとかけあわせることで、新しいチャレンジの予感が感じられるセッションでした。

グループリガーレ 「日常を豊かにするためにはどうすれば?」

グループリガーレは、京都・滋賀エリアを中心に高齢者介護を行う社会福祉法人です。社会福祉法人として、地域の中に入り、活動をしてきたからこそ求められる役割が見えてきます。地域の中、まちの中で暮らしていた人が、そのまま居場所を変えることなく介護を受けながら生活するサポートをすることも、私たちの大切な役割の一つです。つまり、施設一択じゃない暮らし。社会福祉法人が伴走をとりながら、商店街の一員として暮らしを考えていく。地域の特性にあわせて高齢者を支える。自分たちが豊かに安心して暮らすにはどうしたらいいか、をテーマに、日常を豊かにする視点が広がるセッションでした。

みねやま福祉会 「未来のやさしいまちとは?未来のたのしいまちとは?」

法人が目指すのは「福祉をアップデートし続けること」。その時代、そこに住んでいる人が求めていることにしっかり応えていく社会福祉法人でありたいと考えています。拠点は、京都の最北端の京丹後市。児童・高齢・障がいの3部門で「ごちゃまぜの福祉」を実践しています。そうすることで、高齢・児童・障がいの垣根を越えて、新しい関係性が生まれます。みねやま福祉会も、地域の一員として深く地域に関わることで、耕作放棄地を使った農副連携への展開など、地域に入るからこそ実現できたことが多くあります。そんなみねやまならではの視点を活かしながら、「未来のやさしいまちとは」と「未来のたのしいまちとは」という大きなテーマが少しクリアになるようなセッションでした。

くらしのハーモニー 「くらしとは何か?」

「ともに生き、ともに学び、ともに支えあう」という理念で活動しています。1980年代からご利用者の方のご自宅を訪問し、サービスを届ける市民活動からスタートした福祉法人です。介護を中心に、宇治と伏見でそれぞれの地域課題と向き合いながら事業所を運営しています。ハーモニーが今回掲げたテーマは「みなさんにとってくらしってなんだろう?」。まず、くらしというものを問う。買い物に行きにくいまち。雪が降るまち。シャッター街のまち。このままじゃ家の中に閉じこもってしまいそうなまち。社会福祉法人は専門介護をする役割になっていますが、地域で助け合う仕組みをつくることも大切。多様な課題に直面したとき、どうすればよりよくくらしていけるのか?多様な立場からの意見が交わされるセッションでした。

多様な意見、対話をとおして生まれる考え


【第三部】クロージングセッション

興奮冷めやらぬまま、イベントは終盤へ。自分が関わることで、望ましい未来ができていくかもしれない。そんな感触を得た人も少なからずおられたのではないでしょうか?余韻に浸りつつ、まだまだ話し足りない熱気も感じつつ、懇親会も大いに盛り上がりました。

話の尽きない懇親会

SWLABは、今後はさらに地域中で深く関わり、多様で、自由で、寛容で、やさしいまちづくりに向かう「ひらかれた対話・協働の場」をつくっていきたいと思います。またお会いできる日を楽しみにしています!


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