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登記手続き(絶望、そして歓喜の涙)③


登記手続きの要・遺産相続綴り
をお借りするため、
いよいよ
元所有者・Mさんを訪問するところから

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Mさん宅に着くとまず豪邸ぶりに驚きました。

古民家も昔の大地主の持ち物だったと近所の人から聞いてましたし、庭や古民家の佇まいからもその時代では立派なものであったろう、と思っていましたがさすが大地主の家系は違うようです。

そして初めてご挨拶したMさんは足を悪くして片足を引き摺っている、80代のおじいちゃんでした。

ご挨拶もそこそこにMさんに遺産相続綴りを見せてもらうと、何か違う。
司法書士Nさんに聞いていた遺産相続綴りは行方不明だった親族も含め色んな手続きを踏んだ結果、本のように分厚い一冊になっている、と聞いていましたが
ずいぶん薄い冊子です。

表題をよく見るとMさんの亡くなった奥さんの遺産相続綴りでした。

「これは奥さん側の書類のようです。Nさんから聞いていた亡くなったお義母様の遺産相続綴りはかなり分厚い冊子のようですが、お心当たりはありませんか?」

「えぇ⁉︎ 知らないなぁ…」

Mさんも心当たりがないようで顔色が曇ります。

「お店を始めるための登記手続きに遺産相続綴りがあると本当に助かるのですが、他の場所にあったりお子さんがお持ちだったりする可能性はありませんか?(事前に息子さんと同居してると聞いていた)」
「息子は持ってないよ、絶対にそれはない」

Mさんはそう言いながら足の悪い片足を引き摺って、リビングテーブル横の4つ引き出しのあるチェストを探してくれました。
足が悪く力が入らないので、一番下の引き出しを開けるのも大変そうでした。
それを手伝いながら引き出しの中を一緒に探しましたがありませんでした。
そしてリビングの中が雑然としていたらその中のどこかに…と一緒に片付ける可能性も考えていましたが、部屋は整頓されて散らかっていませんでした。

「書類はこの4つの引き出しのどこかにいつも入れてるんだよ。
だからここにないってことはないよ」
「そうですか…」

でもそう言われても見つかるまで引き下がるわけにはいきません。

私はとりあえず上申書にMさんの実印を押してもらい、印鑑証明証を発行するために印鑑登録カードを借りて先に町役場で手続きしてきます、とMさん宅を出ました。

町役場で手続きを待ちながら、どうしよう?と手を考えてぐるぐるしていました。

そしてMさんに手土産を買うのを忘れていたので(100%言い訳ですが、来る途中で買うつもりがお店が見つからず約束時間になってしまった💦)、町役場の近くの菓子店であんみつや水羊羹、ゼリーを包んでもらいました。

まず司法書士のNさんに相談してみようと電話しました。

「Nさん、Mさんが例の遺産相談綴りが自宅にないと言っているのですが…」

「えー⁉︎ 私、ちゃんとご自宅に届けたけどなあ。あれ本当に手続きが大変だったんだよ」

「もしこのまま遺産相続綴りが見つからなかったら登記はできませんか?」

「いや、なくても今現在誰の土地建物であるか証明できたら、過去の所有者のことは置いといてできると思うんだけどね。
所有者証明書を作成して例えば近所の人や、今工事に入っている業者、親族から印鑑を押したのを3通ぐらい集めたらいけるんじゃないかなあ」

「そうですか」

また証明書を作成して印鑑をもらったりという時間はかかるけど、そういう手もあるのか…と思いました。


再度Mさん宅に戻り、アタックしてみました。

「司法書士のNさんはご自宅に書類を届けたと言っていましたが、ご記憶にありませんか。
分厚い冊子で封筒に入っているそうです」
「いや覚えてないよ。Nさんの思い違いじゃないの⁉︎」

無い物を何度も聞かれるためかMさんの態度も硬化してきました。
あまり押しすぎてもよくないかも、と思い

「わかりました。もし書類が見つかったらご連絡いただけますか」

とお礼とともに伝えてMさん宅を出ました。

遺産相続綴りを紛失した可能性があることを、近くの駐車場で法務局審査担当のOさんにも伝えました。

「Oさん、すみません。Mさんが遺産相続綴りを失くしてしまったようなんですが…」

その時Oさんの空気がスッと冷たくなったのがわかりました。(こういうのが電話越しでも敏感になる私😱)

「いいですか。私は審査担当で本来このようにアドバイスをする立場ではないんです。
これから先は受け取る書類にYESかNOかでしかお応えできません」

「あの、でも司法書士のNさんは今現在土地建物が誰のものかであることを証明する証明書が3通あれば登記できるのではないかと言っていました。
それについてはどうですか?」

「今まで町役場で出てきた書類から整合性を取るためには、遺産相続綴りしかないというお話しになったはずです。
もう持ってこられた書類に対して合否でしかお応えできません」

立場上これ以上アドバイスする関係が長引くとよくない、と思ったのか思いっきり線を引かれてしまいました。

「ただ遺産相続綴りの作成は昨年ですよね。
紛失されるにはまだ日が浅いんじゃないですか」

最後にOさんはそう言って電話を切りました。

審査担当のOさんがそう言うなら、例え遺産相続綴りの代わりに所有者証明書を持って行っても登記できない可能性もある。

もう一度Nさんに連絡しました。

「Nさん、何度もすみません。
法務局の審査担当の人は所有者証明書でなく遺産相続綴りを、という雰囲気です。
もうここまでなったらNさんに依頼としてお願いした方がいいのでしょうか?
Nさんなら所有者証明書でも登記が出来そうですか?」

「えぇ⁉︎ ここまで来ると私やりたくないなぁ(笑)」

昨年の遺産相続綴り地獄を思い出してか、Nさんには思い切り断られました。

「所有者証明書でも登記できると思うんだけどなぁ。雛形は送ってあげるから作成してみたらどうか」

私は途方に暮れてだんなに電話して経緯を説明しました。

「どうすればいいと思う?」

「そうなんだ……
それはもう一度遺産相続綴りがないか、Mさんに聞くしかないかもね……
大変な思いさせてごめんね」

だんなにそう言われて、最後にもう一度だけMさんにアタックするしかないと思いました。
日を置くとさらにお願いしにくくなるので、やるとしたら今戻るしかありません。
なので本日3度目、Mさん宅のチャイムを押しました。

「Mさん、何度もすみません。
目の届く範囲でけっこうですので、一緒に遺産相続綴りを探させてもらえないでしょうか。
書類がないと本当に困るんです」

「そんなこと言ったってないものはないよ。
本当に記憶にないんだから」

「万が一息子さんは持っているということはいないですか」

「いやそれは絶対ない」

「そうですか…」

「………」
「………」

Mさんと私の間に流れる沈黙。
Mさんはかなりムッとしています。

これ以上ここに居てもいい展開にはならないと思いました。

「わかりました。度々ご迷惑を掛けてごめんなさい。
よかったらこれゼリーなんですけど食べてください」(さっき渡し忘れてた😱)

「いや、いいよ。いらないよ」

「でもご迷惑掛けたので、よかったらデザートにでも」

押し付けた形で渡すと「まぁ探せたら探さんでもないけど」とボソッと言ってMさんは奥へ歩いて行ってしまいました。


帰り道の車の中で私は絶望的な気持ちでした。

選択肢としてはNさんではない別の司法書士に依頼してみる、
もしくはダメ元で所有者証明書を作成して持って行ってみる

希望を断たれたわけではないから動いてみるしかない気持ち。
でも絶望感はありました。

古民家で何かをするってすごくパワーを使うなあ…

と思いました。

他の場所でやるなら、別の形だったらここまでパワーを使わないかもしれない。

でもあの古民家でやるイメージがここまで来てどうしても捨てれなかった。
道がないわけではないなら、一つ一つやるしかないと思いました。

その時、Mさんから着信がありました。

「あった、あったよーーーー!!」

「あっだんですが!!!」



Mさんの嬉しそうな声を聞いた瞬間、色んな思いで反射的に涙が出ました。


「いや、とんでもないとこにあったわ!!」

「ずぐ戻りまず!!!」

私は嬉しさで号泣しながら来た道を戻り(超危険)、4度目のMさん宅のチャイムを押しました。

私に会うとMさんは興奮した様子で

「いや、ここ、ここにあったんだよ!!!」

と教えてくれました。
それはリビングのダイニングテーブルの側にあるクローゼットの中で、棚に色んな書類が置かれていた中のさらに電話機の下になっていたのでした。

足の悪いMさんにとって探し物は相当大変なはずです。
想像ですが私が帰った後「なんだぁ?ないってのに…。でもここでもちょっと開けて見てみるか」と少し動いてくれたのでしょう。

その一押しの動作がなければ本当に見つからなかったと思います。

それを想像してさらに泣けました。

私がボロボロに泣いているのでMさんもそんなに大事なものだったのか…と実感された様子で

「この書類はもう要らないから持っていきなさい!返さなくていいから」

と言っていました。
さすがにそれはできないので「いえ、審査が終わりましたら原本をお返しにきます」と伝えました。


「Mさん、本当に探してくれてありがとうございました。
おかげでお店が開けます。
運命の分かれ道でした」

泣きながらMさんと握手し、Mさんも思いが伝わったのか一緒に喜んでくれました。

自分でもまるで急転直下すぎてドラマみたいだな…と思いました。


その後すぐOさんに書類を持って行くと

「さっき電話で紛失されたと言っていたのに早かったですね!」

と驚き、「よかったですね」と書類を受理してくれました。
司法書士のNさんにもお礼を伝え、よかったですねと言ってもらえました。

無事波瀾万丈だった登記手続きは終わりました。

長々とした文章でしたが最後まで読んでくれたあなたはいい人です😂

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