マガジンのカバー画像

言語学者だからって外国語が得意なわけじゃない。

34
Thun 湖と牛が大好きな、スイスラボ所属の言語学者による、言語学小咄。 日々の雑感を、言語学に(むりやり)絡めながら綴る予定です。
運営しているクリエイター

#ヨーロッパ在住

言語学者は語学が得意なのか?問題

こんにちは。 お久しぶりになりましたが、 スイスラボの言語学者 Yamayoyamです。 言語学をやっていると言うと、よく「何か国語喋れるの?」と聞かれます。 何か国語も堪能な人をポリグロットと言ったりしますけれど、 ポリグロットな言語学者の方や、ポリグロットほどでなくとも語学が得意な言語学者はもちろんたくさんいらっしゃいます。 ところが、Yamayoyamは言語学徒ですが、マガジン名「言語学者だからって外国語が得意なわけじゃない。」にもある通り、あまり語学が得意なほうでは

Evidentiality について思うこと

みなさん、こんにちは。 Yamayoyamです。 世の中はこのところ、一難去らないうちにまた一難がやってきてしまった様相を呈していますね。みなさんも色々と思うところがあることと思います。が、この言語学マガジンではどんな時も、言語についてのよしなしごとを綴っていこうと決心いたしました。今回もいつも通り、言葉のあれこれについての記事です。 ストックホルム大学で博士論文を書いていたとき、シチリア出身の友人と知り合いました。実家(義実家だったかも)にオリーブ畑とぶどう畑があって、

「第二次子音推移を探せ」ごっこ

Yamayoyam はアメリカ、スウェーデン、スイスと三つのゲルマン語圏に居住歴があります。というわけで、三つのゲルマン語の音対応を体感できる瞬間が折に触れてあります。歴史言語学徒垂涎の瞬間です! 前回のブログ記事(↓)で取り上げたゲルマン語の「第二次子音推移」は、そんな音対応を確認するのにうってつけな音韻変化です。 もちろん言語学の教科書で第二次子音推移のことは読んだし、例もいくつか目を通したものの、やっぱり日々の生活で目にすると格段に楽しいものですよね。 電車やトラ

「オランダ語と英語がちょっと似て聞こえる」んですか??

こんにちは、 Yamayoyam です。 新年が明けたのがつい昨日のことのように感じられますが、 もう二月も末。 時が経つのは早いものです。 もう二ヶ月近く前になるでしょうか。 ベルンに住む日本人のお知り合い数人と小さな新年会をしたときのこと。 Yamayoyam が言語学を勉強していることを話題にしていただきました。 そこでベルンドイツ語の貴重なお話や、 日々様々な言語に触れてちょっと疑問に思ったことなどを 聞かせていただきました。 その中の一つに、面白いなと思うと同時

にんじん古今西北

みなさん、こんにちは。 Yamayoyamです。 あちこちの記事で「ストックホルム大学のバルト語学科で勉強した」と書き散らしてきたので、もうおなじみかも。Yamayoyam はかつてスウェーデンのストックホルムに住んでいました。 スウェーデンはバルト海をはさんでリトアニアのお隣さん。ですから、スウェーデン語は北ゲルマン語、リトアニア語はバルト語で語派は違いますけど、昔から交流が盛んでした。 そのせいなのか、ストックホルムのスーパーで買い物中に「おや?」と思うことがたまにあり

ベルンドイツ語の丁寧表現、よく考えたら不思議じゃないかも?

こんにちは。 スイスラボの言語学者 Yamayoyam です。 今日は、私が今住んでるベルン州のドイツ語方言、ベルンドイツ語の小咄をしたいと思います。今回は、軽い気持ちで調べ始めたらヤヤコシくなっちゃったパターンです。これも研究あるある。 標準ドイツ語では、いわゆる「丁寧形」で話したいとき、相手に Sie(ズィー)で呼びかけます。Sie は3人称複数形の人称代名詞に由来し(というか、ほぼまんまですけど)、それに合わせて定動詞も3人称複数形をとります。 みたいに。チューリ

お茶のはなしの続き~リトアニア語ではお茶はなぜか arbata

みなさん、こんにちは。 Yamayoyamです。 前回のブログで、私のお茶の思い出をしました。私の思い出話にお付き合いくださった方々、ありがとうございました。未だという方、こちらにて↓お付き合いいただけると Yamayoyam 的に嬉しゅうございます。 その思い出話の最後のほうで、「リトアニア語では『お茶』は何故か arbataっていうんだよね」とちょっとボヤきました。 今回は、このボヤキを拾って膨らませていきたいと思います。 前回の記事でも見た通り、お茶はもともと中

お茶のはなし

こんにちは。 Yamayoyamです。 今回は、大好きなお茶のはなしをしたいと思います。 Yamayoyam は小さい頃からお茶が好きで、たいていの日本人が親しむお茶を普通に飲んできました。緑茶、焙じ茶、麦茶などなど。でも今日するのは、もうちょっと特別なお茶との出会いのはなしです。 大学進学を機に京都に引越し、実家のフトコロ事情により、安かろう・ボロかろうな寮に入寮しました。どのくらいボロいかというと、約20年前当時で木造築35年、随時アップデートされる建築基準法や水道法

リトアニアの歴史から~「本の密輸請負人」

みなさん、こんにちは。 Yamayoyamです。 先日リトアニアについての勇敢な記事を見つけました。 リトアニアが強権をかざす中国から離れ、台湾と連帯することを選んだという内容です(※1)。 巨大な中国マーケット・資本・軍事力を考えると、勇気ある決断です。 この勇気はどこから?という疑問の答えとして、記事の中で ことが挙げられています。 これを読みながら、ロシア帝国時代の「knygnešys(本の密輸請負人)」のことを私は思い出しました。リトアニアの向こう見ずに見え

空と太陽と文法性と語幹子音とあれこれあれこれ

みなさん、明けましておめでとうございます。 Yamayoyamです。 新年早々タイトルもヘッダーもごちゃごちゃですが、お許しを。 日本では寒波がきていると聞きます。日本にお住まい・滞在のみなさん、どうぞ暖かく過ごしてくださいね。 意外や意外、ベルンは年末年始、ちょっと不気味なくらいぬるかったんです。そんなベルンにもちょっと遅れて今週あたりから冬将軍がやってくるみたいです。 日照時間もだいぶ短いこのタイミングで敢えて、太陽に思いを馳せたいと思います。そんなことを思ったきっかけ

Gratis と grattis の咄

みなさん、こんにちは。 Yamayoyamです。 クリスマスがあっけなく過ぎてしまって、もうすぐお正月です。時間が経つのが年々早くなってる気がして、今後が不安でしかたないです。 以前の記事で、ドイツ語とスウェーデン語には、綴りが同じで発音も似ているのに意味が違う言葉があってややこしい、という小咄をしました。Gift やsaft が槍玉に上がってましたね。今回の小咄では gratis と grattis の咄をしようと思います。 スイスの住宅街を歩いているとよく見かける光景

Ghost words – 幽霊のように漂う実在しない言葉たち

こんにちは。スイスラボの言語学者、Yamayoyam です。 食欲の秋がやってきました!美味しいものを食べるのに欠かせないのは美味しい飲み物。みなさん、ビールはお好きですか?苦味があるので、好き嫌いが分かれるかもしれません。私も若いころはビールがあまり好きではありませんでした。ところが、10年ほど前にスウェーデンに移住して、すごく苦いけどホップの香りが爽やかなビールをいくつか飲んで、すっかりビールの虜になりました。IPAと呼ばれる系譜のビールだったようです。当時スウェーデン

大好きな湖の語源を調べてみたら・・・

こんにちは。 スイスラボの言語学者 Yamayoyam です。 運営メンバー紹介の記事にざっくりとした自己紹介はありますが、 話し足りないなと思い、この記事では続きを書きたいと思います。 わたしがスイスでThun湖に出逢うまで日本にいたときから言語学が好きで、 歴史言語学というのを勉強していました。 特にリトアニア語に興味を惹かれ、 リトアニア語をはじめとするバルト諸語や、 さらにバルト諸語が属する印欧語の歴史言語学を専攻しました。 偶然学会で知り合ったストックホルム大