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野球の基本動作と骨盤傾斜の関係 Part2

▌野球の基本動作と骨盤傾斜の関係

 この項目では、さらに話を深く掘り下げ、野球の基本動作(投げる・打つ・守る・走る)における骨盤後傾のデメリットについて解説していきたいと思います。骨盤傾斜の重要性をよく御理解下さい。

1.投げる

① 前脚(右投げの場合は左脚)を上げたとき
 脚を上げれば上げるほど(股関節を屈曲すればするほど)、骨盤は後傾しやすくなるため、はじめはできるだけ骨盤が後傾しない範囲で脚を上げるようにしたいものです。元々骨盤が後傾していなければ、たとえここで一時的に骨盤が後傾しても、そのあとの動作に影響は出にくいのですが、元から後傾している人は、前脚を上げたときから意識をした方がよいでしょう。

 殿部と太もも裏の柔軟性も不可欠です。また、骨盤が後傾していると、軸足(右投げの場合は右足)のかかとの方に体重がかかりやすくなるため、足の前半分に体重が乗るように意識することも重要です。かかとの方に体重が乗っていると、プレートに対し足の親指(母趾)と母趾球メインでエッジを効かせなくなるばかりか、上体の開きが早くなりやすくなります。

前脚を上げたとき

② キャッチャー方向に踏み込むとき(並進時)【重要】
 投げる動作の中で、最も重要なのがこの局面です。体の力が抜けるところでもあるため、骨盤が後傾しやすいのです。少なくともここだけは必ずチェックするようにして下さい!

 この局面で骨盤が後傾すると、尻が落ちて、必要以上に重心が低くなります。その結果、踏み出した前脚の膝の角度が90度近くまで折れて、着地後すぐに体重移動が止まってしまいます。また、軸足のかかとの方に体重が乗るため、上体が背中の方(右投げの場合は1塁側)に倒れやすくなり、着地した前脚の膝も外に割れやすくなります(アウトステップにもなりやすい、小趾荷重でつま先も外に開きやすい)。

キャッチャー方向に踏み込むとき(並進時)

③ フォロースルー
 上記①と②の結果、骨盤が後傾していると、尻が後ろ(2塁方向)に残り、体がベルトのラインでくの字に折れたようなフォロースルーになりやすいです。これでは、投球腕も完全に振り切れません。この状態で腕だけ振ろうとしても、パフォーマンスは上がらないばかりか、肩のローテーターカフ(回旋筋腱板)に負担がかかり、ケガにもつながりかねません。

 骨盤がまっすぐ立っていれば、体は脚の付け根(股関節)で折れるため、尻は落ちず、前脚の膝の角度が適度(140度前後)になり、体重移動も効率良くスムーズにおこなわれます。体重移動(=骨盤移動)の幅が大きくなれば、それだけ、肩甲骨も含めた腕の振りも大きくなるのです。すなわち、パフォーマンスも上がるということです。

フォロースルー

2.打つ

① バットを構えたとき
 バットを構えたときに骨盤が後傾していると、背中が丸くなり、肩も前に入りやすくなるため、肩甲骨周りがガチガチに固まったような状態になります。

 また、かかと荷重になりやすいことから、特にピッチャー寄りの脚を上げてタイミングを取るバッターは、投げる動作同様、骨盤後傾を助長し、余計軸足(キャッチャー寄りの足)のかかとの方に体重が乗ってしまいます。

 骨盤が後傾していなくても、脚を上げてタイミングを取るバッターは、脚を上げた際に骨盤が後傾しないよう十分注意し、軸足の前半分に体重が乗るよう意識しましょう。打つ動作においてもかかと荷重はNGです。軸足の母趾や母趾球で、地面に対してしっかりエッジを効かせるようにするためにも、骨盤をまっすぐ立てておくことが肝要なのです。

バットを構えたとき
前脚を上げてタイミングを取るとき

② ピッチャー方向に踏み込むとき(並進時)【重要】
 打つ動作においても、この局面が最も重要です。投げる動作同様、ここは必ずチェックして下さい!

 ここで骨盤が後傾していると、軸足と同じく、ステップした足もかかと荷重になっているため、右バッターの場合は体が背中側に倒れてしまいます。へっぴり腰のような体勢となり、腰の入らない力の抜けたスイングになります。そのため、外角低めに逃げていくようなボールは、まず打てません。バットの先っぽに当てるのが精一杯でしょう。

 さらに、バットを構えたときから骨盤が後傾していると、肩甲骨周りが固まっているため、ピッチャー寄りの肩が早く開き、バットヘッドも遠回りしやすくなります。つまり、打つ動作において骨盤が後傾していると、ヒットポイントはかなり限られてくることがよくわかると思います。

ピッチャー方向に踏み込むとき(並進時)

③ フォロースルー
 骨盤後傾の場合、常にへっぴり腰の体勢になっているため、尻が後ろ(キャッチャー方向)に残り、フォロースルーは当然小さくなります。

 ①と②は正常でも、フォロースルーだけこのような体勢になる選手もいるので、注意を要します。その場合は、主に体幹の力がまだ弱いことが考えられ、これは投げる動作においても同様です。

フォロースルー

3.守る

① 内野手
 一番わかりやすいのがこの体勢でしょう。骨盤後傾の弊害がもろに出てしまう動作です。

 骨盤が後傾していると、正しい四股踏み(後述)の体勢が取れないため、体がベルトのラインで折れてしまいます。体重もかかとの方に乗っているため、上体が前に出て来ません(=グラブも前に出ない)。この体勢のまま「腰を落とせ」と言っても、下背部の筋肉に負担がかかるだけですので、まずは姿勢の矯正が必要です。

内野手のゴロ捕球

② 外野手
 これは外野手に限らず、シングルハンドキャッチの体勢です。骨盤が後傾していると、ゴロを捕るときだけでなく、地面すれすれのフライやライナーを捕る際にも影響が出ます。

 骨盤をまっすぐ立てて、体を脚の付け根(股関節)で折ることが重要です。そうすれば、前傾姿勢が深まり、地面すれすれの打球にもグラブが届きやすくなります。

シングルハンド捕球

4.走る

 最後は、走る動作についてです。

 ランニングの際に骨盤が後傾していると、背中が丸くなり、体重がかかとの方に乗りやすくなるため、当然足の運びは鈍くなります。骨盤後傾の選手にもも上げをさせると、後傾を助長するので、走るときにももを高く上げさせるのはやめた方がよいでしょう。

 また、肩が前に入るため、肩甲骨がうまく使えず、それで腕を大きく振ろうとすると、上体が左右にねじれてしまい、非効率的なランニングとなります。立位のときと同様、恥骨部分を引っ込め、骨盤をまっすぐ立てることから始めましょう。

ランニング姿勢

 さらに、野球の走塁では、走り出す直前の姿勢、つまり、リードおよび第2リード(シャッフル)の姿勢が重要となります。リードの姿勢から骨盤が後傾していると、下の写真の上段(Bad)のように、最初の一歩目ですぐに上体が起き上がってしまい、初速を上げることができません。

 写真下段(Good)のように、恥骨部分を引っ込めて、骨盤がやや前傾するくらいになっていれば、脚の付け根(股関節)で体が折れ、自ずと体重が足の前部に乗るようになります。すると、左足の母趾と母趾球で地面に対してしっかりエッジを効かせることができるため、低い体勢のまま、最初の一歩を大きく、力強く取れるようになります。まさにその差は歴然です。

走塁 - 最初の一歩

 さらに、走ることに関する医科学的な裏付けは以下のグラフの通りです。

骨盤傾斜とダッシュ動作開始時間および地面反力の水平成分(Tarzan826号 P.15より)

まとめ - 骨盤後傾の運動連鎖


骨盤後傾

かかと荷重になる

円背・猫背、肩が前に入る、尻が落ちる、股関節の前側が固まる

肩甲骨と股関節がうまく使えなくなる

パフォーマンスが上がらない、肩痛や腰痛などの一因になる



▌野球のための正しい姿勢づくり

 この項目では、具体的にどうすれば姿勢が良くなるのか(骨盤がまっすぐ立つようになるのか)、順を追って解説していきたいと思います。もちろん、普段の生活から意識できることはやっていかなければなりません。グラウンドだけで直そうとしても、なかなかできるものではないので、まずはそのことをよく御理解下さい。

1.体幹のインナーユニット

 姿勢を矯正する(骨盤をまっすぐ立たせる)には、体幹部の奥にあるインナーユニット(下図)を鍛えること(あるいは再教育すること)が重要な手段の一つです。

 体幹のインナーユニット(コアマッスルとも呼ぶ)は、横隔膜、腹横筋、骨盤底筋群、多裂筋の4つの筋群から構成され、これらの筋群が腹腔(ふくこう/ふくくう/ふっくう)を鳥かごのように支えています。

 まずは、胸郭も含めた腹式呼吸(呼気を長く)、下腹を凹ますこと(ドローイン)、肛門(会陰)を締めること(ウンコがまん)から始めましょう。

 なお、姿勢を正しくする際に、「背すじを伸ばす」という表現をよく用いますが、背すじを伸ばしただけでは、かえって腰の反りを強くしてしまうので、その土台となる骨盤を操作することが一番理に適っていると考えられます。

体幹のインナーユニット(コアマッスル)

2.腹式呼吸とドローイン、ウンコがまん

 ドローイン【draw in】は下腹を凹ますこと、ウンコがまんは肛門(会陰)を締めることをそれぞれ意味します(※ドローインは「胸郭を含めた腹式呼吸の延長線上にあり、呼気で息を吐き切った時の腹腔の状態を維持することである」とここでは考えます【重要 】)。

 まずは胸郭を含めた腹式呼吸(呼気を長く)を10回【横隔膜】。続いてドローインを30秒間おこない【腹横筋】、それを10回繰り返します。その際、呼吸は止めず、なるべく深い呼吸を心がけます。骨盤の恥骨部分を少し後ろに引っ込めながら、下から内臓を持ち上げるようなイメージで、下腹を凹ませましょう。

 ドローインができるようになったら、さらに肛門(会陰)をキュッと締め【骨盤底筋群】、尻にえくぼができるまで殿筋群を引き上げます。

 これは、授業中、仕事中、通学・通勤の途中など、いつでもどこでもできるので、気が付いたときにぜひやってみて下さい。日常的に腹式呼吸とドローイン、ウンコがまんをおこなうことで、自然に骨盤がまっすぐ立ち、姿勢が良くなっていきます。

ドローインとウンコがまん

3.アスレティックポジション

 アスレティックポジションとは「構えの準備姿勢」で、野球の動作すべての起点となります。これは、学校で習う一般的な「気を付け」に対し、言わば「野球の気を付け」です。

 スタンスは肩幅よりやや広めに取り、恥骨部分を軽く引っ込めて(男子選手の場合は「チンチンを引っ込めろ」という声かけが最も効果的)、膝を少し曲げます(その場で軽くジャンプをして、着地したときのイメージ・感覚)。

 この体勢を横から見たとき、鼻先-膝-つま先がだいたい一直線上に並び(下背部と尻の上部も一直線に)、体重が足の前半分にかかっていればOKです。骨盤が後傾していると、この体勢はとれません。

 アスレティックポジションをとることで、足の前半分(足趾・母趾球・小趾球)、股関節、肩甲骨が効率的に使えるようになる準備が整います。アスレティックポジションを動作の起点として、投げる、打つ、守る、走る、野球の動きすべてがここから始まるということを強く意識しましょう!

アスレティックポジション

4.四股

 アスレティックポジションの体勢がすぐにとれるようになったら、そこからスタンスを肩幅の2倍くらいに広げて、つま先を少し外に開き、恥骨部分を引っ込めながら尻を真下に下ろしていきます。

 その際、骨盤から上の形はそのままキープ(横から見た際、下背部と尻の上部がほぼ一直線)。殿部と太ももの裏側の筋肉が縮んで固くなっていると、すぐに骨盤が後傾して体勢が崩れてくるので(下の写真のBad)、まずは骨盤が後傾しない範囲内で尻を下ろすことが大切です。ここで無理に尻を下ろすと、骨盤が後傾したままになってしまうため、それ以上やっても意味がありません。まずはどこまで尻を下ろすと骨盤が後傾してくるのか、個々によく観察して下さい。

 体を、ベルトのラインではなく、脚の付け根(股関節)で折り曲げていく意識を強く持ちましょう。骨盤を後傾させることなく、太ももが地面と平行になるくらいまで尻を下ろすことができるようになれば合格です。

 四股踏みの体勢が楽にとれるようになったら、この体勢でスクワット、左右横方向への体重移動、ウォーキング(前後・左右・斜め)、立ち幅跳びなどをやってみましょう。野球のパフォーマンス向上のために絶対必要となる、殿部や太ももの裏側・内側の筋肉がどんどん発達してくるはずです。

四股

5.ペルビックティルト

 ペルビックティルト【pelvic tilt】とは「骨盤の傾斜」を意味します。つまり、意識して骨盤の前傾と後傾をおこない、自分で自分の骨盤を操作できるようにすることが一番の目的です。

 まず四つん這いになり、その状態から腰を反らすと骨盤前傾(下の写真上段)、下腹を突き出すと骨盤後傾(下の写真下段)になります。

 骨盤から見た姿勢の分類で、

 ①標準の人は、ペルビックティルトの前傾と後傾両方を
 ②骨盤前傾の人は、ペルビックティルトの後傾を
 ③骨盤後傾の人は、ペルビックティルトの前傾を

 それぞれおこなうとよいでしょう(最低10回)。

 これは単に背中を反らす・丸めるだけの運動ではありませんので、注意して下さい。あくまでも骨盤を意識して操作することが何よりも重要です。

ペルビックティルト

6.骨盤歩き

 骨盤歩きとは、長座の状態で前後に進むことです。これはつまり、骨盤をまっすぐ立てて坐骨で地面を捉えないと、なかなか進まないということを意味しています。

 雨天等でグラウンドが使えないとき、屋内で骨盤歩きをぜひやってみて下さい(距離:20~30m)。腕で反動を付けたり、かかとを使ったりせず、あくまでも骨盤主動で体を操作することが大切です。

 また、骨盤歩きをおこなうことで、骨盤の仙骨と腸骨の間にある仙腸関節の柔軟性を維持向上させることができます(前に進むと腸骨は仙骨から離れ、後ろに進むと腸骨は仙骨に近付きます)。仙腸関節は元々可動域が狭く、固くなりやすい部位でもあるため、腰痛予防としても有効です。

骨盤歩き(前進だけでなく後進もおこなう)

7.バランスボールエクササイズ

 ここでは、骨盤を操作してバランスボールを動かすエクササイズをいくつか御紹介します。体幹トレーニングとしてのバランスボールエクササイズについては、すでにたくさんの本・雑誌が出版されていますので、そちらを御参照下さい。

① 骨盤をまっすぐ立てて正しく座る(坐骨がボールの中心に来る、膝がだいたい90度となるようボールの大きさ・固さを調節する)

バランスボールに正しく座る

② 上下にバウンド(骨盤の固定)

上下にバウンド

③ 前後に動かす(骨盤の後傾・前傾)

骨盤でバランスボールを前後に動かす

④ 左右に動かす(骨盤の挙上・下制)

骨盤でバランスボールを左右に動かす

⑤ 大きく円を描く(右回り・左回り、骨盤の水平回旋)

骨盤で大きく円を描く

 これらのエクササイズは、ドローインとウンコがまんをおこないながら実施してもよいでしょう(②~⑤それぞれ最低10回ずつ。各エクササイズの合間に腹式呼吸を10回入れる)。

 あくまでも骨盤で操作することが重要です。

参考文献


●『30秒ドローイン! 腹を凹ます最強メソッド』植森 美緒・著、石井 直方・監修(高橋書店)
●『骨盤ナビ』竹内 京子・総監修、岡橋 優子・エクササイズ監修(ラウンドフラット)
●『姿勢と動きの「なぜ」がわかる本』土屋 真人・著(秀和システム)
●『仙骨姿勢講座』吉田 始史・著、高松 和夫・監修(BABジャパン)
●『勝者の呼吸法』森本 貴義、大貫 崇・著(ワニブックスPLUS新書)
●『欲しい体を手に入れる 体幹論』Number Do vol.19 2015(文藝春秋)



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