野球の基本動作と骨盤傾斜の関係 Part1
▌はじめに - 野球は骨盤でするものなり
最近、野球の現場において、姿勢の悪い選手が増えてきました。これは、年齢が低くなればなるほどその傾向が顕著となり、下記のような生活様式の欧米化が、一因として考えられます。
▼畳や床に座ることより、いすやソファーに座ることが増えた
▼和式トイレより、洋式トイレが増えた
▼歩くことより、乗り物(自転車やバイク、車など)を利用することが増えた
▼靴を履いている時間が増えた
▼スマートフォンやタブレット、ポータブルゲーム機を使用する時間が増えた
野球に限らず、競技スポーツにおいては、姿勢が悪いと、上達の妨げになるだけでなく、肩痛や腰痛などのケガにもつながりかねません。
このページでは、選手の姿勢悪化を少しでも食い止めるために、「骨盤」を中心とした姿勢の分類について解説すると共に、正しい姿勢づくりの具体的な方法を述べています。野球の動きづくりのベースとなる内容ですので、ぜひ現場で実践してみて下さい。
野球にとって、いかに「骨盤」が大事か、少しでも理解を深めて頂けたら幸いです。
▌骨盤から見た姿勢の分類
▼骨盤前傾:基準線が前側に傾く。いわゆる「出っ尻、反り腰」。下部腰椎に負担がかかる。腰椎分離症・すべり症、椎間板ヘルニアなどになりやすい
▼標 準:基準線が地面とほぼ垂直。骨盤がまっすぐ立っている状態。脊柱の自然なS字カーブが描かれる
▼骨盤後傾:基準線が後ろに傾き、尻が落ちる。かかと荷重になるため、代償姿勢として円背・猫背になりやすい
この骨盤傾斜を簡単にチェックする方法は以下の通りです。
まず、壁を背にしてまっすぐに立ち、かかとと背中を壁に付けます(強く押し付けないこと)。
そのとき、腰と壁の間にできる隙間(白い丸枠)で、おおまかな骨盤傾斜の分類ができます(太っている人はわかりにくい)。
その隙間に、
▼手首や握りこぶしの厚さが入る ⇒ 骨盤前傾
▼手のひらの厚さが入る ⇒ 標準
▼手が入らない、入りにくい ⇒ 骨盤後傾
骨盤前傾では、常に下背部の筋群が短縮性の収縮を起こすため、運動中・運動後のストレッチ(+ケア)は必須です。
体幹トレーニングは腹筋群をメインにし、下背筋群は少なくてよいでしょう(腹筋群:下背筋群=3:0~1)。ペルビックティルト(後述)は後傾のみおこないます。普段から、腰を少し反らすことを意識して下さい。
生活様式の欧米化により、元々の骨格は骨盤前傾なのに動作は後傾という選手も増えているので、注意を要します。
一方、骨盤後傾では、脚の付け根(股関節)の前側・下背部の筋群が伸張性の収縮を起こすため、そこに疲労が溜まりやすくなります。骨盤前傾同様、それらの部位の運動中・運動後のストレッチ(+ケア)は必須です。
体幹トレーニングは、腹・下背筋群両方バランスよくおこないましょう(腹筋群:下背筋群=3:2~3)。ペルビックティルト(後述)は前傾のみおこないます。
また、骨盤が後傾していると、殿部やハムストリングス(太ももの裏側)の筋肉が縮むため、それらのストレッチ(+ケア)も重要です。そのままの姿勢でトレーニングやランニングをおこなっても、殿部・ハムストリングス(太ももの裏側)の筋肉は発達しにくく、パフォーマンスにも悪影響を及ぼします。
特に野球の動作においては百害あって一利なしですので、できるだけ早い段階から(遅くとも中学2年生まで)の意識付けが必要不可欠となります。野球のパフォーマンス向上のためには、むしろやや骨盤前傾の方が良く、骨盤後傾はデメリットだらけなのです。
▌骨盤後傾のデメリット
このページでは、骨盤後傾のデメリットについて、詳しく述べていきたいと思います。繰り返しになりますが、野球にとっては百害あって一利なしだからです。
まずは立位の姿勢から説明します。
骨盤後傾の人が立つと、前項のイラストにもあるように、尻が落ち、背中が丸くなります(→肩が前に入り、肩甲骨が背骨から離れる【外転】)。足のかかとの方に体重がかかりやすくなるため、動作の中で足の指(足趾)や母趾球を効率よく使うことができません。これは野球の動作にとって致命的です。
下の図は、立位時の足圧を示したもの(色が赤いほど圧力が高い)ですが、骨盤が後傾すると、この例のように、かかとの方に体重がかかり、足趾の圧が低いことがよくわかります。
次に、いすに腰掛けたときの姿勢について説明します。
骨盤後傾の人がいすに座ると、尻の上の方までがいすの座面に付き、背もたれと腰の間に三角形のスペースができます。これは「仙骨座り」と言い、骨盤後傾に拍車をかけます。いすがフカフカのソファーならなおさらでしょう。
正しくは、骨盤をまっすぐ立てて「坐骨で座る」ことが重要であり、いすの前の方に座って、背中を背もたれに付けないか、背中を背もたれに付けるのであれば、深く腰かける習慣を身に付けたいものです。骨盤が前傾していれば、無意識のうちに坐骨座りができるはずですが、ソファーなどでは要チェックです。
続いて、床や地面に直接座ったとき。長座の姿勢についてです。
いすに座ったときと同様、骨盤が後傾していると「仙骨座り」になるため、恥骨を引っ込めて骨盤を立て「坐骨で座る」ことを心がけます。
長座の姿勢で柔軟体操やストレッチをすることも多いため、注意が必要です。仙骨座りで座位体前屈の測定をおこなっても、良い記録は絶対に出ません。
体育座りも長座と同様、骨盤をまっすぐ立てて「坐骨で座る」ことを習慣付けます。
「仙骨座り」になると、背中の方に重心が偏るため、つま先が床から離れてしまうことが多くなります。指導者のみならず、体育の先生方には、この座り方も必ずチェックして頂きたいですね。
あぐらをかく場合も、長座や体育座りと同様、骨盤を立てて「坐骨で座る」ことを習慣付けます。
骨盤が後傾していると、股関節周りが固くなるため、あぐらをかいても脚が十分に開かない人が多いです。正しい姿勢で太ももの裏側や内側のストレッチも併せておこなうようにしましょう。
最後に、自転車に乗った時の姿勢についてです。
この場合もいすに座ったときと同様、骨盤が後傾しているとサドルに対して「仙骨で座る」ことになるため、背中が丸くなり、肩も前に入りやすくなります。
そのため、肩甲骨が使いにくくなり、ハンドル操作にも少なからず影響が出ます。また、目線も下向きになりやすいため、前方の視野が狭くなり、道路交通上危険です。スクーターやバイクに乗ったときは、さらに注意が必要となります。
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