見出し画像

骨盤のゆがみは3Dで捉えよう

▌忘れられた関節

 日本では、医療資格制度の問題が多分にあって、今でこそ各方面で「骨盤、骨盤…」と騒がれていますが、こと「骨盤のゆがみ」に関しては、賛否両論さまざまなことが巷で囁かれています。もちろん、ゆがみという言葉をどう捉えるかによっても解釈が変わってくるのですが、未だに一般的な医学界では、「骨盤はゆがまない」というのが定説です。

 それでも骨盤はゆがむのです!

 骨盤のゆがみを考えるためには、どうしても避けて通れない関節があります。それが、仙腸関節です。これは、骨盤の腸骨と仙骨をジョイントしている関節で、骨盤の構造上可動域が非常に狭いことから、”忘れられた関節”とも呼ばれています。しかし、まったく動かないわけではなく、他の関節同様、いくつかの動きに分類することができます。以下は、仙骨を基準にした腸骨の動きです。

 ① 前傾(前方回旋)
 ② 後傾(後方回旋)
 ③ 挙上
 ④ 下制
 ⑤ 内旋(前方への水平回旋)
 ⑥ 外旋(後方への水平回旋)

 表現は文献によってまちまちで、具体的な可動域が記載されているものも非常に少ないというのが現状です。下記は、アメリカの運動学研究者 Oatis が多数の文献を調査して得た結論です。

● 仙腸関節ではごくわずかな運動が生じる
● 寛骨の矢状面における仙骨の回旋は1~8°で、平均2~3°
● 寛骨間での仙骨の背側への並進運動は0.5~8mmで、平均2~3mm
● 仙腸関節で可能と報告されている運動の数にはかなりの幅があり、その要因として、年齢、性別、関節面、靱帯性結合、関節構造の左右非対称性などの解剖学的事実、関節退行変性の程度、計測ミスがある
● 外傷がない場合には、仙腸関節の最大の運動は若者、特に若い妊婦にみられる

引用:『骨盤ナビ』、『オーチスのキネシオロジー』(共にラウンドフラット)

 下図は仙腸関節を示したもので、耳状面がそれに該当します。ゆがみの多くは、この関節にあります。

仙腸関節


▌カイロプラクティック的見地

 では、この骨盤(仙腸関節)のゆがみを、カイロプラクティック的見地から掘り下げてみたいと思います。いわゆる「右の骨盤が上がっている・下がっている」などと言った表現は、当たらずとも遠からずで、これは単に骨盤を二次元(2D)でしかみていません。もっと正確に評価するためには、三次元(3D)で捉える必要があるのです。

1.骨盤のアライメントチェック

 アライメントのチェックポイントは、基本的に以下の8つになります(被験者は伏臥位)。

 ① 下肢長(股関節の遊びを取り、かかとではなく、内果の位置で左右差をみる)
 ② 仙腸関節の硬さ
 ③ 腸骨稜の位置
 ④ 腰椎5番(L5)棘突起の位置と腰仙部左右の硬さ
 ⑤ 上後腸骨棘(PSIS)の位置
 ⑥ 坐骨結節の位置
 ⑦ 大腿骨大転子の位置
 ⑧ 仙骨固定時の股関節伸展可動域と挙上のしやすさ・しにくさ

 最低限、この8つのチェックポイントがわかれば、仙腸関節を基準に骨盤がどういうゆがみを起こしているのかがわかります。

2.ASかPIか?腸骨か仙骨か?

 前項の結果から、左右腸骨と仙骨の位置関係を把握することができます。そこでまずは、仙骨が動いていないものと仮定して、腸骨がどう変位したのかを考えていきます。それが、ASかPIか、です(下図参照)。

AS腸骨とPI腸骨

 ASは腸骨が前方回旋した状態、PIは腸骨が後方回旋した状態をそれぞれ示します。AS腸骨およびPI腸骨のアライメントは下記の通りです。
 ※AS:Antero-Superior、PI:Postero-Inferior

 【AS腸骨】
 ● 下肢長:健側より長くなる
 ● 腸骨稜の位置:健側より前下方に変位
 ● PSISの位置:健側より前上方に変位
 ● 坐骨結節の位置:健側より後上方に変位
 ● 大腿骨大転子の位置:健側より後下方に変位

 【PI腸骨】
 ● 下肢長:健側より短くなる
 ● 腸骨稜の位置:健側より後上方に変位
 ● PSISの位置:健側より後下方に変位
 ● 坐骨結節の位置:健側より前下方に変位
 ● 大腿骨大転子の位置:健側より前上方に変位

 先も述べた通り、骨盤を単に2Dで捉えて、どちらかの骨盤(寛骨)が上がっている・下がっているなどという評価をしていたら、上記のような変位の仕方はあり得ないですよね。それだけは絶対に間違えないようにしなければなりません。

 骨盤のゆがみ方はもちろんこれだけではありません。上記を基準にして、変位の仕方が違うポイントがあれば、それは腸骨だけでなく、仙骨も変位しているということになります。むしろ実際はその方が多いのではないでしょうか。上記とまったく同じ変位の仕方であれば「腸骨メジャー」、違うのであれば「仙骨メジャー」と呼び、当然矯正するコンタクトポイントも違ってくるのです。

 【仙腸関節における仙骨の変位】
 ① 左側後方変位(P-L;Posterior-Left)
 ② 右側後方変位(P-R;Posterior-Right)
 ③ 左側後下方変位(PI-L;Postero-Inferior-Left)
 ④ 右側後下方変位(PI-R;Postero-Inferior-Right)

 さらに、腸骨の水平回旋が加わる場合があります。それが内旋(IN)と外旋(EX)です。内旋は腸骨が仙骨から離れて閉じていく変位。外旋は腸骨が仙骨に近づいて開いていく変位です。これらについてはここでは詳しく触れませんが、腸骨だけでも最低8種類のゆがみ方があるということになります。
 ※IN:Internal、EX:External

 ① AS
 ② PI
 ③ IN
 ④ EX
 ⑤ ASIN
 ⑥ ASEX
 ⑦ PIIN
 ⑧ PIEX

 骨盤のゆがみは、腸骨と仙骨の単独不整が組み合わさって複合不整となる場合がほとんどです。これまでの経験によると、変位している腸骨においては、統計的に右PIあるいは左ASの傾向が圧倒的に強いようです。どちらにしても、変位している側に重心位置が移動し、左右どちらかの背部・腰部・殿部・下肢に負担がかかるようになることが非常に多く(例外あり)、その結果、負担のかかっている側の筋肉・関節に障害が増えることになるのです。例えば、右PI腸骨の人が罹患しやすい症状としては、疲労の蓄積(張りや過緊張など)も含め、右側の背部痛・腰痛・坐骨神経痛・股関節痛・膝痛・足関節痛などが挙げられます。

3.L5か仙骨か?

 腰椎5番(L5)の存在も忘れてはなりません。仙骨のすぐ上には腰椎があるため、仙骨の変位がL5に影響を及ぼす場合があります。そのために、アライメントチェックの項目にL5も入っているのです。

 もし、L5の棘突起が中心線から右側に変位しているとすれば、L5の椎骨全体が反時計回りに回旋していると判断するのですが、その場合、仙骨も変位しているケースが多く、双方慎重にチェックしなければなりません。

 シンプルに考えれば、腰仙部の椎間板を介して、L5は仙骨と同じ方向に動くはずで、L5が反時計回りに回旋しているとすれば、仙骨は後ろからみて左側が持ち上がります(P-L)。しかし、これと逆のパターンがあるのです。つまり、L5の動きとは反対に仙骨の右側が持ち上がるパターン(P-R)。これがなかなか厄介で、見落としてしまうことも少なくありません。

 カイロプラクティックの考え方では、仙骨とL5が両方とも変位していた場合、両者が同じ方向に変位していたら仙骨が先に変位したと判断し(仙骨メジャー)、逆ならばL5が先に変位したと判断します(L5メジャー)。そして、前者の場合は仙骨→L5の順に、後者の場合はL5→仙骨の順にそれぞれ矯正することになります。


▌広まらない考え方

 私が専門学校で骨盤の勉強を始めてから、早30年近くが過ぎようとしていますが、残念ながら上記のような考え方はほとんど広まらないままの状態です。アメリカでは医師と同格のカイロプラクターも、日本では未だ少なく、活動の場は極々限られています。

 最近になってようやく理学療法士(PT)の方々が、病院の枠組みを越えて整体師的な活動を始めておられるのを見聞きしますが、おそらくは保険治療の限界を痛感してのことと思われます。果たしてそれもいいんだか悪いんだか、私にはわかりませんが、日本の代替医療制度が変わるはずもなく、せめて骨盤のアライメントチェックだけでも現場で実施して頂けたらと切に願うばかりです。

 繰り返しますが、骨盤はゆがみます。誰が何と言おうとゆがみます。障害予防とパフォーマンス向上のためにも、骨盤のコンディショニングは極めて重要です!

 追記:以前、日米野球(2002年シーズンオフ)の際に来日したバリー・ボンズ選手は、5人もの個人トレーナーを帯同させていたそうです。その内訳は下記の通り。
 ● アスレティックトレーナー:1名
 ● マッサージセラピスト:2名
 ● カイロプラクター:1名
 ● メンタルトレーナー:1名
 注目すべきは、そこにカイロプラクターが1名含まれていることです(Ron Spallone氏)。いかにカイロプラクティックがアメリカでは重視されているかがうかがえますね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?