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雹と霰

ああ、今年の冬は本当に雪がよく降りました。

ずいぶん暖かくなってきたので、もう降らないだろうなあとは思いますが、僕が大学入学を機に京都に来た1996年4月。

入学式の日に雪が降って、えらく驚いたのを覚えています。

まあ入学式にも、ちなみに卒業式にも出ちゃいませんが。

雹だか霰だか、よく分からないのもよく降りました。

ロシアとウクライナ、大きな世界や自分が生きる小さな世界の平和を思いますが、なかなか声が出せずにいます。

展覧会『blue vol.2』開催への忙しさに没頭したり疲れ果てたりしながら、なんとなく、昔書いたこの文章を思い出しました。

息子とはもう長く離れて暮らしていますが、4月にはもう小学6年生。

月に3~4日は会って一緒に過ごしながら、段々と大人になってゆく姿に寂しさを感じたりもしています。

「友だちにはゲームで会えるから学校に行く意味ない」とか言ってますが、優しい人に育ちました。

まあ、これから先は知らんけど。

フリーペーパーになる前、まだ会員向けの会報誌だった頃の『Swinging』より転載します。


雹と霰

成人式の日。

京都に雹(ヒョウ)のような、霰(アラレ)のようなものが降った。

雹と霰。

雹とは直径5㎜以上の氷の粒を指し、対して霰とは直径5㎜未満の氷の粒を指すのだそうだ。


「ねえ、父ちゃん。

あれなーに? ヒョウ? それともアラレ? 

ねーねーおちえてー」


「可愛い草太郎、困らせないでおくれ。

父ちゃんにはあいにく瞬時にミリまで見分けられる良い目が無いのだ。

でもあれはね、どっちにしたって氷の粒なのだよ」


雹も霰も、彼方の空から降ってきて、やがては溶けて水となる。


もうひとつ、最近知った意外な豆知識。

鷹(タカ)と鷲(ワシ) 。

全く違う生き物なのかと思っていたら、生物学的な違いは無いのだそうだ。両者ともタカ目タカ科、大雑把に言えば比較的大型のモノを「ワシ」、中型・小型のモノを「タカ」と呼んでいるらしい。

でも大きな鷹もいれば、小さな鷲もいるらしい。


「ねえ、父ちゃん。

あれなーに? タカ? それともワシ? 

ねーねーおちえてー」


「可愛すぎる草太郎、困らせないでおくれ。

言い訳するわけじゃないが、タカとワシの区別はとってもいい加減なのだ。

でもあれはね、どっちにしたってタカ目タカ科の鳥なのだよ」


鷹も鷲も、大空羽ばたきただ生きて、やがては朽ちて土となる。


「ねえ、父ちゃん。

雹も霰も、彼方の空から降ってきて、やがては溶けて水となるだけでしょ? 鷹も鷲も、大空羽ばたきただ生きて、やがては朽ちて土となるだけでしょ?」


「おお、草太郎。お前はなんてかっちょイイことを言うのだ。

しかしそれはついさっき父ちゃんが言ったかっちょイイやつではないか。時々いるな。ついさっき、誰かから聞いたかっちょイイやつを、自分で考えたみたいに言う人! 

Fuck!! 

まあ、いい。所詮突きつめれば全ては誰かの受け売りに過ぎぬ。

つまりお前は一体何が言いたいのだ??」


「同んなじようなもんなのに、何でわざわざ分けるのん? 

ややこしいったらありゃしまへんで」


「ほんっと、ややこしいったらありゃしまへんな! 

草太郎。人間というのは手前の都合で勝手に線を引いて、別々のものにするのが大好きなのだよ。

それで安心したり、賢ぶったりしたり、優越感を感じたりしているのだよ。

けれど、雹も霰も、鷹も鷲も、そんなウンコみたいなこと、何にも気にしていないはずだ。

草太郎。お前もくだらない線引きをしてはいけない。囚われてはいけない。

“ただの人”として、たくさん笑ったり泣いたりして、ただ生きてゆけば良いのだよ」


成人式の日。

京都に雹のような、霰のようなものが降った。

雹だって霰だってどっちだっていい。

僕らはその時、空から降ってきた不思議なものに興奮し、間際に洗濯物を取り込んで出かけたファインプレーをただただ喜び合ったのだ。


● フリーペーパーになる前の『Swinging vol.10』(2011年5月発行)より転載しました。

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