日記 つながれ者のあとさき。

4/1午前4時、暦の上では春だがこの時間はまだ冷え、澄んだ空気に星が瞬く。
そんな夜空をわたしは何故か担架に乗って眺めていた。ああなんと斬新な天体観測であろうか。視界の端には救急車の赤色灯がちらついている。


※注意※
本日のnoteはところどころ汚い表現がございます。お食事中の方、体調の優れない方は閲覧をお控えくださいますよう願い申し上げます。


発端は結構お高い焼き鳥屋でレア状態の鶏ささみを食べたことにある。
数日経って最初はちょっとおなかが痛いかな?という程度だったがだんだん激痛と嘔吐が止まらない。これでいつわたしはマーライオンの代役を任されても大丈夫だという勢いで吐く。そう、今のわたしならば世界三大がっかりスポットの汚名を返上できると胸を張って言えるほどに。
そしてだんだんものすごく寒くなってきた。室温を見ると20度。充分にあたたかいじゃないか、あれおかしいな、と思って体温計を取り出すと39度6分を示していた。解熱剤を飲んでも下がることはない。正露丸も経口補水液も身体にとどまることなく出ていき全く効かない。流石マーライオンである。ラッパのマークがあれほど恨めしく思えたのは生まれて初めてのことであった。

午前3:00になっても眠れず、この時刻になると5分おきにトイレへ行くようになる。しかも意識が朦朧としてきた。それもそのはず、わたしの体温はすでに41度以上あったからだ。
そして決定打となったのは体から出たものに血が混じっていたことだ。これは流石にまずいんじゃないだろうか、とボーッとした頭で考えた。
明日病院へ行こうかと思ったけれどこれは間に合いそうにない。
まあ点滴でも1回打って貰えば治るか…なんて気持ちで119番を押し、救急隊が駆けつけた。ここからが長かった。

この時間からだからなのか、初診だからなのか理由はわからないがどこの病院も受け入れてくれず救急車は出発しないまま30分ほど経過した。

その間痛みと戦い背中を脂汗が伝う。ようやく受け入れてくれそうな病院が見つかった時救急隊員が一言、
「持病の薬は今持ってますか?」
「あーすみません、持ってきていません。その代わりおくすり手帳は持っています」とわたしが答える。
「薬の現物がないと受け入れてくれないそうです。今もう一度家に取りに行ってもらっていいですか?」

この時ほど自分の馬鹿さ加減を恨んだことはなかった。
点滴を打ったら帰れると思ったので薬まではいらないと思ってしまったのだ。
こうしてハイハイで薬を取りに戻り、ようやく救急車は出発した。
「患者は自力歩行が可能です」という救急隊員の声が薄れゆく意識の中響き渡った。もちろん歩く体力はもうとうに残っていない。

そうして病院に無事到着し救急科へ運ばれる。そこで検温や血圧測定、心拍数を見るたびにどんどん看護師さんと医師の表情が変わっていく。
「えっ?」「おっ?」「あっ…」という声とともに。待って、不安になるじゃないか、そんなに驚かないでくれ…と思ったけれどもしかしたらもっと軽症なのを想像していたのかもしれない。
こうしてあれよあれよという間に大嫌いな点滴を繋がれ、CTスキャンやレントゲンを撮ったのち「腸もかなり腫れてるし、脱水症状を起こしていてこのまま帰るのはとても危険な状態です。数日〜1週間くらいかな、入院してもらいます」とアッサリ医師から告げられたのだ。
病室で延々と頭の中を流れる浜田省吾さんの「家路」。鶏のささみと言う名の孤独なエゴは確かにわたしを上と下に引き裂く勢いで苦しめた。(浜田さんこんなことにあなたの名曲を使ってしまい大変申し訳ございません)

結果としては数日で症状はおさまって退院でき観光名所になることは避けられたのだが、健康のありがたみを痛感した1週間だったと言う点では良かったと思う。
流動食を食べた時口から栄養を摂れるというのはこんなにすばらしいことなんだ!と感動した。なんだか赤ちゃんの頃からやり直しているみたいだった。とはいえ点滴のさしどころが良くなかったのか痛いし手に力がうまく入らず、体も自由に動かせないことからパニック症状を何度か起こす。病のダブルコンボは流石に堪えた。まな板の上の鯉ってこんな気持ちなんだろうか…普段からずっと引きこもっているくせに、外の空気が恋しくなるほどだった。
しかも今回1番ビビったのは「万が一の時はご家族を北海道からお呼びしますので」と眉間にシワを寄せて医師に言われたことだった。生きて帰れて本当に良かった。

そんな様子だったから退院して家のドアを開けた瞬間、わたしは確かに空とこの道が出会う場所を見た…気がする。そして一瞬空き巣が入ったのかと怯んだが何のことはない、わたしが救急車で運ばれる前に部屋の中を這いずり回った跡だった。

何はともあれ今回言いたいことはたとえお店で出されたとしても生、またはレアの鶏肉ダメ、ゼッタイ。わたしも鶏のたたきとかすごく好きなのだけれど、あの苦しみを味わってまで食べたいかと言われれば…うーん。
これからだんだん暖かくなってきて食中毒の危険性は増します、皆さま本当にどうかどうかお気をつけて!
万が一何かあった場合は病室で浜田省吾さんの「家路」を聴くことをおすすめします、という縁起でもない言葉で本日は締めたいと思います。

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