アイドル小説「Fake&true 虹の麓」

お待たせしました!

実に自分史上最長となってしまったアイドル小説がほぼ完成に近づき、11月の文学フリマならびに通販で発売できそうな機運になったので、試し読みを投稿していきたいと思いマーーーーーー酢!!!!!

この小説は完全フィクションではありません。わたしがちょっとだけ所属していたアイドルグループ「虹色じゃむ2020」がモチーフになっています。メンバーカラ―とか性格とかから、この子はあの子がモデルかな??とか想像して楽しんでもらえたらうれしいです。アイドルの実情、裏話、苦悩、楽しみ、全部バランスよく盛り込めた……かな?どうだろう?

もちろん虹じゃむを知らないあなたも普通のアイドル小説として楽しめるようになっていますよ!

架空のメンバーをひとり入れたんだけれどその子もとてもいい動きをしてくれて、素晴らしかったです。

今回の試し読みはライブのワンシーンです。

では、つべこべ言わずにはじめますか♪

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7,これがアイドルのライブだ!

 開場し、ぱらぱらと人が集まってきた。七色マーガリンの出番だ。練習生たちはそれぞれわくわくしながら客席の前の方に集まった。
 暗転。
「ベイビーラブラブぶどうパン!」なつきが元気いっぱいに歌い出した。歌い出しと同時に、なつきをぴかっと照らす黄色い光。虹色のきらきらした衣装。笑顔。爆音で流れるオケ。それはひとつの爆発だった。
「おしえてカシューナッツ」甘えた声でゆかりが歌う。緑色の光、そしてグリーンの小物をあしらった虹色の衣装。角度や光の加減によって衣装の色がちらちらと変わって見える。ひずみの胸はときめいた。
「あーいーしーてるぶどうパン」みさが軽やかにこっちを振り向きながら歌う。ピンクの光。マイメロちゃんみたいなふわふわの加工が衣装にされていて、小柄なみさをふんわり包んでいる。
「すーきだといってよー!」全員がくるくるまわり、紫の光がなぎさを照らす。なぎさの繊細でかわいらしい歌声が聞こえる。虹色の衣装に紫と黒の小物をあしらい、スカートを一番短くしている。マイクを持つ手の反対の手に持っているのは、やっぱり紫色のくまのぬいぐるみ。
「チリコンカン!」あゆは白い光をあびた。真っ黒でカラスみたいなゴス風の飾りを、虹色の衣装に二カ所だけくっつけている。あゆの声はすきとおるようで深く、低音がよく響いた。

 スタジオ練習の時とは比べものにならないくらいに、ステージはキラキラと輝いていた。まきは思わず泣きそうになった。目の前で抜群にかわいいアイドルたちがパフォーマンスしている! しかも自分もそのメンバーになれるんだ!
 ずっと表現活動をしている人たちにあこがれていたけれど、楽器は何もできないし、家は団地暮らしの四人家族だったから楽器を練習する環境もない。習い事もさせてもらえなかった。
 まきは中学生のとき、急に人生ってなんなんだろう、と思ったときがあった。いつかくる死が、底の見えない洞穴みたいにいつでもまきの頭にあって、時々まきの心の安心をおびやかし、その恐怖は授業中など何気ない瞬間にさっと、何度も、おそってきた。きっかけは祖父が亡くなったタイミングで、それほど大好きでもなかったし会う機会もあまりなかったけれど多感な中学生のまきにとっては人生ではじめて出会う「死」だった。
 それは、あたりまえかもしれないがハエやゴキブリやかぶとむしの死とは全く違った。葬式の日の母の厳しい顔がわすれられない。いつもはゆったりしている母がまるで機械仕掛けの人形のようにきびきびとして、あらゆるところに連絡したり、弟や父の喪服を準備したりしていた。骨を拾うとき、こわくてわざと親戚の陰に隠れて、箸をもったままじっとしていた。親戚たちのわきからそっと首を伸ばして、おそるおそる祖父の骨を見た。一九歳になった今も一五〇cmに満たない小柄なまきと違って、身長も高く大柄だった祖父の骨はがっしりしていたが生きていた頃の姿と比べたら小さくぼろっとしていた。自分もいつか死んだらこんなふうになっちゃうんだ、と思うといつでも泣きそうになったし、体の中に冷たい風がひゅうっと通っていくような、冷凍庫の中にいるような感覚に襲われた。こんなことを言ったら誰にもわかってもらえないだろうし、病気だと思われたら大変だと思って誰にも言えなかった。うまく人に相談できるほどに言語化もできなかった。買ってもらったばかりの携帯でぼんやりとSNSを見ていた時におすすめに出てきたアイドルを見て、まきの心はあたたかく励まされた。アイドルの動画や写真や配信を見たり、ライブを見たりしている間はまきの心に空虚な風の通る隙はなくなっていた。まきは飢えた動物が久しぶりに得た食べ物をむさぼるようにアイドルにはまっていった。
 まき自身はアイドルに救われていたけれど、家族はまきがアイドルを追いかけることにいい顔をしなかった。何のプラスになるの? 何が楽しいの? お小遣いなら自分のために使いなさいよ、と母親にはよく言われていた。よさがまったくわからない、と断罪され、ファンクラブに入会することも賛成してもらえなかった。まきはだんだんと家族にアイドルのことを隠すようになっていった。サイリウムやチェキはベッドの下の鍵付きの箱にしまいこみ、動画はヘッドホンをつけて静かに見た。ライブを見に行く日は家族にいろんな嘘をついて、アイドルに関してはこれっぽっちも口にしなかった。お小遣いの使い道を聞かれるのがいやでバイトを何度か試みたが、どんなバイトもつらすぎてすぐにやめてしまい続かなかった。最速退職記録は面接のあと初出勤をばっくれたことだった。最長でも三ヶ月。新しくて難しい仕事を任されたとたんいやになってバイトに行けなくなっていた。

「りさちゃんも親に言ってないんだね、うちと一緒だ」まきは初めてりさに会った日におそるおそるりさに話しかけた。まきから見たらりさはメイクもうまいし、背も高いし、髪型もすっきりした短めのボブできれいにきまっているし、同じ年と思えないほどでちょっと怖かった。りさは人見知りで、高校生男子が大人と話すときみたいにぼそぼそとしゃべるし、その様子がまきにとっては自分に良い印象を抱いていないのではと勘ぐらせた。
「うちそんなに干渉してこないからね」
「ライブとかチェキのお金とかどうしてるの?」
 りさは「高校入ってからずっと居酒屋でバイトしてる。年齢ちょっとごまかしたりとかして」となんてこともないような顔で言った。りさは週三回くらいはライブに通っていて、好きな地下アイドルも多岐にわたる。お金がいくらあっても足りないと小さく笑って言った。りさに比べたらわたしなんてアイドルオタクと言えるのかどうかわからないくらいだ、ライブも月に1~2回行けるかくらいだし、とまきの劣等感は少し増した。
「バイト続くのすごいね……うちなんか続いても半年くらい」まきは恥ずかしさでバイトのバックレのことや三ヶ月でやめたことが言えず、長く続いたバイトに関しても少し期間を盛って言った。嘘をついてしまう癖をなくしたいが、自分を守るために家族に嘘をつき続けていた結果、どんどん嘘がうまくなっていった。誰にどんな嘘をついたかもなんとなく覚えていたし、嘘じゃないことをうっかり言ってしまってもごまかすのが上手だった。
「うちは初めて入ったとこ三日でバックレたことあるよ。バイトめんどいよね」
 りさがぼそぼそと笑って言う。まきも少し笑った。
「今働いているところは長いんでしょ?どうしてそんなに続けられるの?」
 まきが訊くと、りさは目を輝かせて言った。
「だって、推しに貢ぎたいじゃん。」

 曲の歌っていない部分でメンバーの五人が手拍子をし、しゃーっいくぞ! と声をかけた。すかさず、客席の人々がサイリウムを振って叫ぶ。
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!!」まきとりさも夢中で叫んでいた。
 ひずみはとりあえず周りに合わせてそれっぽいことを叫んでみてから、「この、ぷよぷよの連鎖みたいなやつ、なんだっけ、ミックス? っていうんだっけ」とまきとりさに尋ねた。りさはぶっと吹き出すもちゃんと答えてくれた。
「ミックスコールっていうんですよ。せーのって言われたらみんなこれを言うんです」
「だいたいのアイドルさんの曲にはこれを言うタイミングができるように作られてるんですよ」まきもあとから説明してくれた。
「この言葉の意味とかあるの?」
「いや、ないんじゃないでしょうか」ふたりはぎこちなく笑って言った。
 視線を下げて、ぐるりと前や後ろのオタクたちの様子を見ると、みんな必死に叫んだり踊ったりしている。これがオタ芸というやつか、とひずみは思った。けれどこんなことしていたら、観るほうに集中できないんじゃないだろうかとやっぱり心配してしまう。
 ひずみはその場でスマホで検索して、みんながミックスコールでなんと言っているのか読んだ。そうしている間にも別のコールがされ、謎のふりつけと合いの手があり、すべてに追いつくのは無理だったが、ミックスコールは必死に読み上げて一緒に叫ぶ。
 ただ観ている時よりも一緒に叫んでいる時のほうが自分のテンションが上がっていくのを感じた。激しい動きにはついていけなかったが、ひずみがいちばん気に入ったのが「ケチャ」だった。ケチャは動きがわかりやすいし、一番心がこもるタイミングだ。(もえかから、「落ちサビっていうんですよ」と教わり、「お風呂場の掃除しなきゃ」とサビ違いのことを考えた)ケチャはどの曲でも全力ででき、達成感すらあった。弾き語りのライブやアマチュアバンドのライブとは違った充足感があった。ひずみは心が満たされていくのを感じた。
「ありがとうございましたー!」という五人の元気な声とともにライブが終了した。ひずみは自分がメンバーになることや他の子への劣等感を忘れて感動し、胸がどきどきしていた。五人がはけると客席最前列で軽快なツーステップをしていた中年男性が「ありがとうございましたあ!!」とメンバーに負けないほどの気合いで客席へ向かって頭を下げた。何者なんだろう。運営でもないし関係者でもないはずなのに。よく見ると七色マーガリンのロゴが描かれたTシャツを着ていた。メンバーのものと色違い。やさしいオレンジ色でマーガリンをあしらっているシンプルなTシャツだ。Tシャツは汗でじっとりと湿って変色していたが、油性マジックでびっちりといろんな記号が書かれていた。それはゆかりたちのサインだった。彼、吉嶋茂こそが、七色マーガリンのTO、すなわち、トップオタクであった。

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はい!今回はここまでとなります!

表紙とメンバーイラストはみやこさんにお願いしております

みやこさんは虹色じゃむのライブにめっちゃ来てくれてサイリウムのデザインもしてくれたすごい子です!

ハート押してくれたらモチベどん上がりします!

Twitter @sweetsonicNs にて情報継続発信していきますね!

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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