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協力か それとも犠牲か

その日、ウサギとカメはロードバイクに乗って名栗湖周辺を疾走していた。カメは前を走りながら、時折振り返ってウサギの様子を確認した。彼女は遅れることなく、しっかりとカメの後ろをついてきていた。風の抵抗を少なくするために、二人は20センチの間隔を保ちながら、先頭を交代しながら走っていた。

「近藤史恵さんの『サクリファイス』を読んでいたら、久しぶりにロードバイクに乗りたくなったの」と、誘ったのはウサギだった。カメはその突然の提案にちょっと驚いた様子だったが、すぐに笑って頷いた。

小沢峠の頂点にたどり着くと、ウサギは大きく息を切らし、汗を拭った。「この坂は、一人では到底登る気にならないわね。二人で登るのは、風よけのための協力というより、精神的な支えという感じがするわ」と、彼女は言いながら、カメにウィンクした。

「協力と言っても、『サクリファイス』に出てくるプロのサイクルロードレースでは、意味が全然違うよね。チームのエースが勝つために、前を走って風よけになって犠牲になるアシストっていう役割があるけれど、一方的な協力は、まるで献身みたいなもの。これを本当に『協力』と呼ぶか、それとも『犠牲』と呼ぶか、微妙なところだね」と、カメは思案顔で静かに語った。

ウサギはボトルを唇に当てて水を飲みながら、前方のトンネルを見つめた。「自分が勝つことを目指さないレースって、私には想像しづらいわ。一体どんなモチベーションで臨むのかしら」と、ウサギは疑問を口にした。

「チーム戦なら、私はやっぱり駅伝の方が合ってるわ。独りで走る時には感じられない一体感があるから。でも、私たちはバイクでも協力するの。下り坂もよろしくね」とウサギは続け、ゆっくりとペダルに力を込めた。

※4月27日は駅伝誕生の日です。



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