黄金色に舞う小さな王手
その日、ウサギとカメは、秋の名残が感じられる千駄ヶ谷駅に降り立ち、足元でカサリと枯葉が音を立てる中、鳩森八幡神社へと静かに歩き出した。
「これで二つ目の富士山ね…」
ウサギは隣を歩くカメにそっと目を向けた。
「品川富士に登ってから、ずっと思っていたの。もう一つ富士山に登れば、もっと特別な力がもらえるんじゃないかって…」
ウサギは少し考え込むように目を伏せたが、すぐに明るい笑顔を浮かべた。
「イチョウの木が、まるで黄金のベールに包まれているようだね」千駄ヶ谷富士に辿り着くと、カメは足を止めた。
「イチョウの木の下に富士山があるなんて…ちょっぴり不思議な景色ね」
「ここが登山口だね。道が細いけど、一緒に登れば大丈夫」先に進むカメはさりげなく右手を差し出した。ウサギはその手をそっと握り返し、ふたりは静かに登り始めた。
「小さなお山でもこうしてぐるりと回ると、見える景色が少しずつ変わるのね…」
「山の中腹は歩きやすいね。それに、イチョウの葉が手に届きそうだ」
「この富士塚は、1789年に作られたと言われていて、都内で一番古いんだ」と、カメが静かに語った。「ということは、江戸時代の人もこの山に登っていたということなのね」
「ここが頂上ね!さっそく力をチャージしなくっちゃ」ウサギは、小さな頂上にそっと膝をつき、そよ風に包まれながら静かに目を閉じた。
「どうか、想いが届きますように…」
ウサギの願いが、空の彼方まで届いていくような神秘的な瞬間だった。
足元に気をつけながらゆっくりと下山していくと、目の前に将棋堂が姿を現した。
「この場所は将棋会館に近くて、将棋の聖地と呼ばれているんだよね」
「見て!王手みくじがあるわ」
ウサギはどこかいたずらっぽく、魅惑的な微笑みを浮かべた。
「富士山でたっぷりパワーをもらってきたし…ねえ、見て、カメくん!」
ウサギは振り返ると、右手をふわりと持ち上げた。そして、一瞬の間を置いて、静かに落ち葉へと指先を降ろした。
「あなたのハートに…王手よ!
ウサギの瞳は星のように輝き、どこか夢見るような愛らしさが漂っていた。