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燃える本と濡れる本

8メートルもの高さを誇る巨大な本棚が、まるで魔法によって作られたかのように、ウサギとカメの目の前に立ちはだかっていた。しかも本棚に並んだ本たちは、メラメラと炎に包まれながら、美しい輝きを放って次々と燃えていた。そしてその景色も束の間、つぎの瞬間には滝のように降り注ぐ雨が、瞬く間に本を濡らしていった。そのあってはならない光景に二人はただ呆然と立ち尽くしていた。

二人の目の前では、やがて巨大な樹木が根を下ろすと、空から無数の本がパラパラと降り注ぎ、空っぽだった本棚を瞬く間に満たしていった。まるで自然の摂理であるかのように、破壊から創造へと移り変わる光景が、二人の心を深くとらえた。本棚劇場のプロジェクションマッピングが終わると、二人は冒険から戻ってきた旅人のような気分だった。

「本棚をスクリーンにするプロジェクションなんて初めて観たけれど、本をこんな形で表現するとは思ってもみなかったわ」ウサギはまだ夢の中にいるような気分で、目の前の巨大な本棚を見上げていた。

「この角川武蔵野ミュージアムの本棚劇場は、2020年の紅白歌合戦でYOASOBIが『夜に駆ける』を歌った場所なんだ。テレビで観ていた時に、一度行ってみたいと思っていたんだ」カメは、その時の気持ちを思い出しながら、ゆっくりと辺りを見回した。

「ここには本がたくさんあるけれど、図書館ではなくてミュージアムだから、本のディスプレイも個性的なんだよね。さっそく見に行ってみようよ」二人は名残惜しそうに本棚に背を向けると、いつもの図書館とはまた違った本の迷宮に足を踏み入れた。


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