見出し画像

広重が描いた花菖蒲

その日、ウサギとカメは堀切菖蒲園でぐるりと花に囲まれていた。菖蒲園には色とりどりのハナショウブが咲き乱れ、風が吹くたびに、まるで舞うように揺れていた。

「七福神に霞の衣、誰待花…。花の名前も素敵だわ」ウサギは、花の名前が書かれた札と花を交互に眺めながら呟いた。

「神代の昔」

「堀切菖蒲園は、歌川広重が名所江戸百景の中で、『堀切の花菖蒲』として描いたことで有名だね。ここは隅田川を渡るとすぐだから、江戸からほど近い行楽地だったんだ」とカメが静かに語った。

ハナショウブは花弁に
黄色いV字状の目があるのが特徴

池の中に咲くハナショウブを眺めながら歩いていたウサギは、ふと立ち止まり、首をかしげた。「そう言えば、ハナショウブに似たお花があったわよね?」

カメは一瞬考え込み、それから話し始めた。「ハナショウブ、アヤメ、カキツバタは全部アヤメ科の花だね。見た目はよく似ているけど、育つ場所が違うんだ」

彼は周りを見渡しながら続けた。「カキツバタは浅い水辺が好きで、アヤメは乾燥した土地を好む。そしてハナショウブは、そのどちらでも元気に育つんだよ」

ハナショウブは乾燥した畑でも
湿地でも育つ

二人は堀切水辺公園へと足を進めた。綾瀬川に架かる水門を越えると、広々とした河川敷が目の前に広がり、その中央には色とりどりのハナショウブが咲いていた。

「ハナショウブとスカイツリーのコラボも素敵ね」ウサギはハナショウブに駆け寄り、しゃがみこんで花越しにその光景を見つめた。

ハナショウブとスカイツリー

堀切菖蒲園駅に向かう帰り道を、余韻に浸って歩いていると、目の前に菖蒲七福神が現れた。「今日も幸運がやってきそうね」とウサギは微笑んだ。

菖蒲七福神

駅のすぐ手前の「三州総本舗」というお店の前で、ウサギは足を止めた。「今日のお土産はこれにしない?」彼女は声を弾ませながらカメの手を引き、お店のドアをくぐった。

三州総本舗

お店の中には、まるで次の季節の訪れを待ちわびるように、お煎餅がそっと並んでいた。

夏せんべい

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?