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100万人の花火大会

昼間の熱気に小雨が混じる中、ウサギとカメはスカイツリーを見上げていた。視線を地上に戻すと、浴衣姿に団扇を手にした人々の波が広がっていた。その光景に、二人は不思議な高揚感に包まれていた。

「花火資料館の人に教えられた通り、大横川親水公園に来たけれど、人でいっぱいだね。もう少し隅田川に向かって歩いてみようよ」カメはいつもより、心なしか早口に言った。

仮設の店頭に並べられた焼きそばや飲み物の前に人が集まり、その歩道を浴衣姿の人々がゆっくりと川に向かって歩いていた。二人も、その人波にそっと身を委ねた。

「ここからは車が入れないのね。こんなに広い道が歩行者天国になるなんて、さすが100万人も集まるイベントだわ」ウサギは声を弾ませながら、周囲の活気を楽しんでいた。

浅草通り

「振り返って見てごらん。スカイツリーも今日は花火見物だね」とカメが口にした。

スカイツリー

周りの人たちにならって路上に腰を下ろし、心臓が高鳴るのを感じながら開始を待っていると、ドドンという胸に響く音と共に花火大会が幕を開けた。

道路が見物会場に?

「音は聞こえるけれど、花火が見えないわ」と、しばらくしてウサギがつぶやいた。二人は立ち上がり、少しでも花火が見える場所を求めてゆっくりと歩き出した。

「見て、花火よ!あれは5号玉かしら!」

第二会場の花火が見えてきた

「プラカードを持った人が見える。駒形橋が渡れそうだよ」と、前方を見ていたカメが言った。彼はウサギがはぐれないように、優しく手を差し伸べた。

二人はゆっくりと橋へと向かった。駒形橋に差し掛かると、打ち上げ筒から放たれる光の矢が間近に見えた。

大輪の花が夜空に次々と咲き誇り、時間差でドドンと音が響く。二人はその決定的な瞬間をしっかり目に焼き付けた。

駒形橋から見る花火

「やっぱり橋の上からの眺めは最高ね。歌川広重と同じ花火を観られるなんて、なんて幸せなの!」ウサギの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

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