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はらりと迷う気持ち

一枚また一枚と、桜の花びらが静かに空から舞い落ちてくる。それはまるで、風に身を任せる旅人のようにみえた。早咲きの河津桜の枝から花びらが舞う。はらり、はらりと。

桜神宮の桜の木の前で、ウサギは独りぼんやりと佇んでいた。彼女は「えんむすびの木」と書かれた木の標識から目を離すと、もう一度、目の前の桜の木を見上げた。桜の季節はいつも、彼女の心をざわつかせる。

まだ冷気の残るこの時期に、河津桜は咲き乱れ、そして散っていく。その美しさにウサギはふと息をとめる。「ああ、私もこんなふうに生きていけたら」 桜は咲くときも散っていくときも、その全てに迷いがない。ただ前を向いて、静かに次の季節へと進んでいく。

えんむすび花帯(ピンクのリボン)

拝殿前の桜は、優しいピンクのリボンで飾られていた。それぞれのリボンには誰かの願いが込められている。ウサギは思う。これらのリボンを結んだ人たちは、どんな願いを込めたのだろうか。大切な誰かとの絆を願う、そんな優しい願いだろうか。

桜の花びら舞う季節は、別れと出会いの予感が心に満ち溢れてしまう。彼女はふと思う。「私は何と別れ、何と出会いたいのか」その答えを見つけようと、心の奥深くを探る。「もしかすると、私は……」だが、答えは簡単には手に入らない。

ウサギはもやもやした思いを振り払って、息を一つ深く吐くと、桜から目を逸らした。「今日は今日の風が吹くのよね」彼女は桜に背を向け、ひとり呟いた。

彼女の声にもう迷いはなかった。その声は、凛として空間を貫き、今この瞬間を大切に生きるという彼女の決意が、固く込められていた。

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