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いい歳した大人がバレンタインに振り回される話。#4


怯んだ私の目を真っ直ぐ見て
『付き合う?』ともう一度彼は言った。

耳を疑った。
誠実な言い方だった。

15年もの間名前のなかった関係に、これ以上ない楽な名前が付きそうな私の提案を、あっさり無視する彼に驚いた。

頷くだけで楽な関係が結べるというのに。
この関係に浅はかな名前を付けようとした私を、彼の誠実さが止めた。

あんなに色んな女の子と関係を持っておいて、全てにこんな誠実な応え方をしたとでも言うのか。
私にそれをするということは、私はそれに都合のいい理由を付けてしまうことになるけれど、それをわかっているのだろうか。

それとも、私が過去に恋人を亡くし、自分だけが幸せになることへの抵抗からその後の恋愛も上手くいかず、そんな女を適当に扱ったらまた何をしでかすかわからない、と思っているからだろうか。


彼の誠実な問いに私が黙っていることを咎めるわけでもなく、彼も黙って隣に座った。

今度は座っていいかとは聞かれなかった。
リビングではハグしていいかをソファーに座っていいかと尋ね、寝室ではベッドに座っていいかを付き合うかと尋ねる彼。

私は、Rくんは本心から私と付き合いたいとは思っていないだろうという結論に達した。

そういえば彼は、好きな人がいるではないか。
その話も、まだ聞いていなかった。
何で好きな人がいながら私に、付き合う?などと聞いたのか。

付き合ってではなく付き合う?なのは、今からやることやるなら付き合う?なんだろうな。

真っ直ぐで優しい彼らしいなと思った。
でも、本気じゃないならやっぱりやめてほしいとも思った。

一緒にベッドに入る理由を付けるために恋人になるくらいなら、浅はかな関係でいいかなんて思ったら、そんな自分に思わず苦笑いしていた私。



それを見て彼が『そんな顔させるために言ったんじゃない。』と言った。

『無理してする?とか言わなくていい。おれは変態だけど、自制できる変態だから。』

真剣な顔で言う紳士な変態自白と、私の過去をきっと心配してくれているであろう優しさも伝わって、笑いながら泣いてしまった。

私は無理して言っていないし、重すぎるほどRくんが好きだし、付き合ってくれなくても好きな人を好きなままでも、ハグなんてされたら続きを選びたくなってしまうだけ。
それは言えなかった。


『え!なんで泣くんだよ!
いやだった?なにがやだった?
言い方キツかった?ごめんて。
なに?付き合うとか気持ち悪かった?変態すぎて無理?なに?』

どこまでも優しくて可愛いけど本当に鈍感で、私の気持ちは何一つわからないRくんが慌てたせいでベッドが揺れて、笑ってしまった。

慌てて電気を付けようと立ち上がったRくんの手を掴んで、引き戻す。
勢い余って転がって、また笑う。

『わあ!暗闇でなにすんだよ!』

嘘でも付き合うかどうかの選択肢を与えた女とベッドに寝転がって出る言葉が、それ?(笑)


「Rくんて、ムードも何もないよね。
さっきハグしてくれたから、私もしてあげようか?
今日イライラして疲れたんだっけ?
おいで。ヨシヨシしてあげる(笑)」

『なんなん?まじで情緒やばいじゃん。
おれらバレンタインの魔物に取り憑かれたんじゃね?』


(笑)
でも確かに、そうでもなければ説明がつかないくらいに、私も彼もどうかしていた。



to be continued.




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