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七夕の夜に 6

展望台上にある、公園のレストラン棟。
夜にこっそりと弟の莉帆と展望コーナーに忍び込んだ私たちだったが、こういう社会人としてしてはいけない事をやっているという、悪戯心が妙に連帯感を味わってしまう。
まあ、一応施設そのものはまだ開館時間中であり、途中の和室ではサークル活動がなされていた。普段から自由開放している展望コーナーはたまたま電気が消えていて、立ち入り禁止になっていないのかもしれなかった。
それで、気配を消しながら二人で建物をそっと抜け出し、玄関扉を越えたとたんに莉帆と二人で顔を見合わした。
「うふふ…」
「えへへへ…」
どちらからともなく、笑いがこみあげてくる。
入り口近くの事務室は電気が点いており、職員がいるのは解っていた。
その横をさりげなく通り過ぎた二人は、忍び込んだことがバレなかったよね、という共謀犯心理で一種の暗黙の会話を繰り返していた。
「逃げろぉ」
二人で手を繋ぎ足早に歩いていたが、莉帆が突然声をあげる。
私は、その声に驚いて莉帆と一緒に駆け出した。
しっかりと握られた手のひら。少し汗ばむ感じもするが嫌悪感は無い。
遊歩道の階段を数段走ったところで、莉帆の走るスピードが落ちた。
「あぁ…お姉ちゃんに連れられて、悪いことしてしまったなぁ」
「悪いこと?」
「忍び込んだり…」と言いながら、悪びれる雰囲気の無い莉帆。
こっそり忍び込む経験とか…おそらく、莉帆にとっては初めてのことだと思う。
「怖かった?」
「ぜんぜん、見つかったらその時はその時で…」
二人して並びながら夜の遊歩道を進んでいく。
二人の手はつないだまま離すこともなく、遊歩道を下っていった。
下り道はそれなりのペースで、登り程時間がかからない。
神社の境内に入ると、七夕の日の参拝客はあちこちで見かけた。
莉帆と二人で、そんな人々を気に掛けるでもなく、愛の鐘を横目に石段へと向かう。
「縁結び坂、回って帰ろうか。」
ふと、来た石段をそのまま降りるのでなく、別のルートで帰ることを提案してみた。
「良いよ。」と2つ返事の莉帆。
石段の途中から折れ、薄暗い坂道は足元に注意しながら歩く。
しっかりと手を握ってくれているのが安心感がある。
坂道を下りはじめると鳥居が並んでいた。
ここの鳥居は朱色だけでなく、赤、青、紫、緑、黄…様々な色の鳥居が並んでいる。
色ごとに、健康や、学業などの縁結びの意味があるらしい。
「いつ来ても、この7色なのが不思議。」莉帆が鳥居をくぐりながら話しかけた。
確かに、他の神社では見かけないなと思う。
「まぁ、いろんな色があっても良いんじゃない?」
「そうかなぁ…やっぱり、朱色でしょ」
莉帆が納得いかないようで、7色の鳥居を気にしている。
「朱の色は火の色なんだろうけど…コンクリートのもあるし、無垢の木の鳥居もあるわよ。」
「そりゃそうだけど…」
「縁結びの神社だし、いろんな人が参拝するでしょ?その中には、いろんな人がいるし…女の子同士の縁もあれば、男同士、莉帆みたいな男の娘もいるよね。まあ、私たちみたいな姉弟の縁もあるんだから…そんな色々な縁が組み合わさってるのよ、それと同じで鳥居の色も朱色だけじないってのじゃダメ?」
話を聞いて、莉帆が立ち止まった。
なんか、あまり説得力もない説明だと自分でも思う。
「まぁ、そういうことかぁ」
そこで納得する?
って突っ込みたくなる。
でも、こういう素直なところが莉帆の良いところでもある。
「じゃ、お姉ちゃんとボクの鳥居の色は何色だろ…」
そう呟きながら、歩き出した莉帆。
「莉帆は…ピンク?」
「えつ?ピンクなんてあったけ…」
「イメージだけど(笑)」適当に思いついた、莉帆のイメージに突っ込まれて、照れ笑いするしか無かった。
「神様に怒られるよ。勝手に色作ったら…」
「じゃ、私は何色?」
しばらく考えていたようだが、あっさりと莉帆が言い切った。
「黒。ダークな感じ」
「それこそ、神様に怒られるわ。ダークって…」
私は笑いながら答える。
私はダークなのか…。
「なら、白だ。何色でも染まりますって感じ。」
「それは、莉帆でしょ。私色に染めたい💕」
「お姉ちゃんの色に染まりたい(笑)」
前を向きながらそんな言葉が耳に届いた。
「きゃっ」
暗闇で砂に脚をとられ、繋いだ手に力が入る。
莉帆がバランスを崩しながらも、私を受け止めてくれた。
一瞬で莉帆が私を抱きしめてくれる。
「大丈夫?」
耳元で莉帆が声をかける。
「大丈夫…」
と言いながら、不意に抱きしめられ、耳にかかる莉帆の吐息がちょっと照れる。
「お姉ちゃん、しっかりしてね。」
「しっかりしてるわよ。」
私は、そう言って繋いでいた手も離して歩き始めた。
「お姉ちゃん。待って、せっかく助けてあげたのに。」
莉帆が慌てて坂道を追いかける。
「お腹空いた。早く帰って莉帆のご飯食べたい。」
「温めなおすから…」
「お願いね。帰りにコンビニ寄ってく…」
莉帆が立ち止まり、私の顔を見つめた。
「ん?何?」
「また、ストロング?…飲みすぎないでね。酔ったら手に負えなくなるから…」
それだけ言うと莉帆が歩き出した。
「手に負えないって、私、何かしてたっけ?」
「酔うとキス魔になるし…」
少し照れた感じで答える莉帆が可愛い。
「あら、キス嫌い?」
「嫌いじゃないけど…」
「なら、良いじゃない?」
Chu💕
私は、有無を言わさず莉帆に唇を重ねた。
「もう…」
何度となく交わした唇。
何度しても飽きることは無い。
「うふふ…」
「あはは…」
二人笑いながら、最後の鳥居をくぐった…。

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