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七夕の夜に 1

弟の莉帆は高校二年。
LGBTなのかな…
まあ、トランスジェンダーであるのは間違いないし、見た目は中性的だったのが、最近ではほんと女の子として見ていられる。
だけど、莉帆の性対象は男性ではないし、やっぱり女の子が好きみたいだから、LGBTでいうと、LでありTって感じかな。
世間ではなかなか理解しづらいから、莉帆自身が子供のころからかなり悩んでいたのを私は知っている。
そんな莉帆が私の制服を勝手に着たりしていた話は、おいおい伝えてみたいけど…

いつも、私が仕事から戻ると弟の莉帆がご飯の用意をしてくれている。
ご飯の用意は莉帆に任せて、食後の跡片付けは私が…と思うのだが、めんどくさいしダラダラしているとこれも莉帆がしてくれる。家事全般、莉帆が手伝ってくれるから、私は仕事だなんだと自由にさせてもらっている気がする。
莉帆…ほんと、いつでも嫁に行けそう。
といっても、私が嫁にしたいくらいだけどね。
いつものごとく、少し遅めの帰宅。この時期昼間が長いのに、玄関を開けるこ頃は少し日が傾いていた。
で、今日は何を食べさせてくれるのだろうか…と思いながら玄関のカギを開けた。
「ただいま…」ってリビングに入っていくと、エプロン姿の莉帆がキッチンで出迎えてくれる。
そのフリル多めのエプロン…ロリぽいのが似合うから困ったものだ。私は長くエプロンなんてしてない。
「お姉ちゃん、おかえり…今夜は焼き鳥にした。」と皿に並んだ焼き鳥串が見事。
しかも、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。
私は、我慢できずに一本摘まむと口に咥えた。
「お姉ちゃん。晩御飯のだよぉ」
「良いって…これ、美味しい」
「もう…」
弟の顔をまざまざと見ながらも、神様はこんな優しい顔をした弟をなぜ女の子にしなかったのだろう…と思ってしまう。
「お姉ちゃん、どうしたの」
見惚れていた…なんて言えない。
「何でもない。荷物置いてくるね。」
そう言って、私は自分の部屋に鞄を持って行く。
ベッドの横に鞄をおいてベランダを見る。
七夕に短冊に願いを書いたりしていたのは子供の頃。
「お姉ちゃんといつまでも一緒にいさせてください」そんな短冊を今も書いてくれている莉帆のこと、私は大好き。
ベランダの子供だましの笹飾りに、心が和む。
「いつまでも、姉の傍にいてくれますように」という短冊を莉帆の短冊横にそっと綴ってみた。
今夜は七夕。珍しく天気も良さそうで、星も出そうな気がした。
私は、あわててキッチンの莉帆のところに戻った。
「莉帆。お参り行こう。」
「お参り?」
「七夕だし…神社」
わたしはそういうと、車のキーを手に莉帆を急かした。
「ご飯どうするの?」
「帰ってから食べる。」単語で会話を進める私。
「冷めちゃう…」
仕方ないわね…て感じで莉帆が腰に回したリボンをほどいた。
エプロンを外すとプリーツミニにTシャツ姿は、ストリート系のガールズイメージ。
帰宅してちゃんと制服をハンガーにかけて、着替えている莉帆は私より女の子だと思う。
ジャケットを部屋に置いたまま私はスリップオンをひっかけて玄関に立つ。
「早く早く…」
玄関でスニーカーに脚を通して出てくる莉帆。
私はガレージのスズキラパンのロックを開けた。
ネイビーのツートンカラーのウサギがシックでお気に入り。
莉帆はピンクベージュが良いと言い張ったけど、さすがの私には可愛すぎる。莉帆はどこまで可愛いものが好きなのか…(笑)
助手席に座る莉帆がシートベルトをカチッと留めるのを確認するとエンジンをスタートさせる。
ハンドルの前のメーター液晶に莉帆が覗き込む。
「やっぱり、このアニメいつ見ても可愛いよね♡えっ短冊?七夕だから?!」
莉帆はそう言って、ラパンのスタート時のメーターに浮かぶウサギにキュンキュンしている様子。
毎回昼と夜で違うウサギが出てくるけど、今夜は七夕バージョンみたい。言われるまで私も気づいていなかった。
「へぇ…やっぱり、お姉ちゃんのこの車可愛い。免許取ったら貸してね。」
「どうせ、莉帆だと黙って乗ってくだろうなぁ」そう言って笑いながらハンドルを握ってアクセルを踏んだ。

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