今だからこそ振り返りたい、村上宗隆の「高卒2年目」
ヤクルトファンの皆様、優勝おめでとうございます!
ヤクルトが6年ぶりの優勝を決めた今シーズン、その中心には間違いなく村上宗隆選手(21)の存在がありました。今季は(というか昨季から)全試合4番に座り、今年の「シーズンMVP」の最有力候補と目されています。(追記:実際に、その通りになりましたね!)
という訳で、ここでは、村上選手が一躍ブレイクを果たした「高卒2年目」に着目して、見ていきたいと思います。
0.高卒1年目
早速タイトルと矛盾するのですが、ルーキーイヤーについて簡単に触れます。1年目は主にファームで試合に出続け、以下のような成績でした。
【2軍成績】
打率.288(365-105) 17本塁打 70打点 58四球 84三振 OPS.879 (.389/.490)
ルーキーとしては物凄い成績ですね。シーズン終盤には1軍に昇格し、初打席で初本塁打を放ちました。しかし、その後は11打数無安打に終わり、1軍の壁を実感することになりました(まあ、普通ですよね)。
ちなみに、DELTA社の「トップ・プロスペクト・ランキング」では、この時点で堂々1位にランクインしていました。
1.自主トレ
そして、シーズンオフには青木選手との自主トレを行いました。この時の自主トレに関して、のちに村上選手はこう語っています。
ノリさんと初めて話したのは、2018年の戸田球場でした。当時、頭部死球を受けて2軍で調整されていたときに話しかけてもらったことはよく覚えています。自分はまだ1軍出場がなかったのですが『オフの自主トレ、決まっていないなら一緒にやるか』と誘っていただきました。1年目のオフから一緒に練習させていただいたことが、今につながっていることは間違いないです。感謝してもしきれない存在です。
自主トレをともにすることでノリさんの野球に取り組む姿勢に衝撃を受けました。誰よりもストイックに、野球のことをいつも考えている。どうやったら結果が出るか、どうやったら打てるのか。ロサンゼルスの自宅のリビングにもバットが置いてあって、ヒントが浮かんだときにはすぐにバットを握って、素振りをしていた姿が印象に残っています。(下記記事より抜粋)
また青木選手は、以下のように語っています。
あとは村上ですね。自分が米国から帰って18年から再びヤクルトでプレーするようになり、その年のオフの自主トレに村上を誘ったのですが、その時、スワローズに若いホームランバッターがなかなか出てきてなかったような記憶があったんですよね。特に大きいのを打てるような軸がいたら、という思いがあって。そこが一番育ちにくいところでもあります。軸がいたらチームが変わるんじゃないかなと思ったんです。それで自分なりに行動しました。やっぱり3、4、5番を打てるような若手が出てきたら、哲人も一人で背負わなくていい。哲人に続く、そういう選手が一人でも二人でも出てきたら…という気持ちがありました。(下記記事より抜粋)
2.オープン戦
一軍キャンプを終えて迎えたオープン戦では、村上選手は以下のような成績を残しました。
打率.245(49-12) 4本塁打 12打点 5四球 23三振 OPS.866 (.315/.551)
打率こそ高くはないものの、OPS.866は驚くべき数字ですね。オープン戦ということで、チームで2番目に多い打席数を与えられ、チーム4位の安打数、チーム2位の塁打数、チーム1位の打点数を稼ぎました。
また、4本塁打の内訳を見ると、左本(同点2ラン@東京ドーム)、右本(ソロ@神宮)、右本(逆転3ラン@神宮)、右本(逆転3ラン@札幌ドーム)となっています。高卒2年目の春にして、逆方向への本塁打を放っていることや、広い札幌ドームでの本塁打を記録していることに注目です。
3.開幕直後
村上選手は、見事「6番・三塁」での開幕スタメンを勝ち取りました。その後、開幕から12試合目(4/11)までの、村上選手の成績は以下の通りです。
打率.150(40-6) 2本塁打 5打点 5四球 13三振 OPS.589 (.239/.350)
全12試合にスタメン出場し、2本の本塁打を放ちましたが、レギュラーとして固定するほどの成績は残せませんでした。また村上選手の場合、3試合連続でエラーを記録するなど三塁守備の面でもマイナスが大きく、果たしてこのままスタメンで起用するのだろうか、といった状況でした。
4.開幕一か月
そして、13試合目~30試合目(4/12~5/2)の村上選手の成績は以下の通りです。
打率.295(61-18) 5本塁打 12打点 9四球 16三振 OPS1.009 (.386/.623)
まさかまさかのOPS1.009!驚きですね!(多少恣意的なデータの取り方はしてますが笑)そして私は、ここでこの成績を残せたことが、村上選手の凄さだと考えています。
この年の対戦は、阪神→DeNA→中日→広島(ここまでが「3.開幕直後」で見た成績)→巨人→阪神→中日→巨人→広島→DeNA(ここまでが「4.開幕一か月」で見た成績)、といった順番だったのですが、対戦が丁度一回りする巨人戦から調子が上向きました。
対戦カードが一回りするタイミングは1つの目安となりやすく、もし村上選手の状態が開幕直後のままであったら、こんなに打てていなかったら、たとえ村上選手であろうと遅かれ早かれスタメン落ちしていたと思います。そのような状況の中で、いち早く一軍のレベルに適応した点が、村上選手の特筆すべき点だと思います。
…と書いていたら、ちょうど良い記事を見つけたので引用しておきます。
監督となった18年にシーズン終盤で1軍を経験させ、高卒2年目の19年には開幕戦から先発起用。同年は一年間1軍で起用する方針を固めていたが、コーチ陣やチームメートを納得させるためにも、カード一巡を一区切りと考えていた。
その期待に、村上は応えた。開幕当初こそ結果が出なかったが、4カード目の広島戦でジョンソンから1本塁打を含む3安打、5カード目の巨人戦で菅野から2安打を放った。打率・231、184三振と荒さも見せたが、最終的に全143試合出場に出場し、ともにリーグ3位の36本塁打、96打点をマークした。
小川GMは「節目と思っていたところで菅野から2本打った。周りを納得させたのは彼の運であり、実力でもある」とし「通過点。どんどん積み重ねて、みんなに応援される選手になってほしいと思います」と、大きな期待を寄せた。
また、開幕から放った7本の本塁打の内訳を見ると、以下のようになっています。
4/4 同点2ラン、4/9 ソロ、4/14 勝ち越しソロ、4/16 勝ち越し3ラン、4/18 ソロ、 4/29 同点ソロ、5/1 ソロ (太字は逆方向)
オープン戦同様、殊勲本塁打や逆方向への本塁打が多く、高卒2年目の春先にして主力級の働きをしていることが分かりますね。
5.シーズン前半戦
ここからは、簡単に各月の成績を見ていきたいと思います。
【3・4月】
打率.245(94-23) 6本塁打 16打点 12四球 27三振 OPS.844 (.333/.511)
【5月】
打率.233(90-21) 8本塁打 25打点 14四球 31三振 OPS.884 (.340/.544)
【6月】
打率.210(81-17) 5本塁打 15打点 13四球 37三振 OPS.764 (.319/.444)
【7月】
打率.217(83-18) 1本塁打 13打点 8四球 25三振 OPS.560 (.283/.277)
まず、ポジションについて言及しておきます。開幕当初は三塁での出場が多かった村上選手ですが、慣れない守備でエラーを多発し、次第に一塁での出場が増えていきました。特に6月以降は1試合を除いて全て一塁で出場するなど、三塁守備は”封印”となりました。
結果的には、この一塁への転向が、村上選手の固定起用に繋がりました。村上選手の一塁守備は、指標上も良い数値を記録していたのです。
4月には守備固めなどの途中交代が11試合ありましたが、5月以降は2試合に激減し、完全なるレギュラー野手へと"進化"していきました。ちなみに、村上選手は2021年シーズンまで3年連続で全試合出場を達成しており、「試合に出続ける体の強さ」も凄みの一つだと思います。
話を成績に戻します。村上選手の各月のOPSに着目すると、5月まではOPS.800越えを記録する一方で、6月→7月は数字を下げてしまいました。特に7月は、7/3にマツダスタジアムで満塁弾を放って以降、約1か月本塁打がでないという苦しい状態に陥っていました。
6.シーズン後半戦
そして、後半戦の各月の成績です(といっても2か月しかないですが)。
【8月】
打率.232(99-23) 11本塁打 17打点 14四球 43三振 OPS.909 (.333/.576)
【9月】
打率.250(64-16) 5本塁打 10打点 13四球 21三振 OPS.908 (.392/.516)
OPS.900越えは素晴らしいですね。先ほど7月は約1か月本塁打が出なかったと書きましたが、8月に入ると1日のDeNA戦でいきなり本塁打を放つと、一か月の間で11本と量産体制に入りました。山崎康晃投手から放ったバックスクリーンへの逆転サヨナラ2ランも、この月のことですね。
開幕直後もそうでしたが、調子を落とした後に戻してきたこと、これが村上選手の凄いところであり、高卒2年目とは思えない離れ業だと思います。
7.まとめ〜3つの驚異の「粘り」〜
さて、話を簡単に纏めてみたいと思います。とどのつまり、ここまでで私が伝えたかったこととしては、①カード1巡目の最後での「粘り」、②シーズン後半戦での「粘り」、この2つの「粘り」が村上選手の"真価"だ!ということでした。
そしてここでは3つ目として、③スタメン落ち後の「粘り」にも着目してみたいと思います。村上選手は、2019年シーズン、4/24 と 5/25 の2試合でスタメン落ちを経験しています(逆に言えば、その2試合しかありません)。そして、スタメン落ち後10試合の成績は、以下のようになります。
【4/24 スタメン落ち後(4/25~5/5)】
打率.324(34-11) 3本塁打 9打点 9四球 7三振 OPS1.142 (.465/.676)
【5/25 スタメン落ち後(5/26~6/6)】
打率.243(37-9) 3本塁打 11打点 5四球 17三振 OPS.847 (.333/.514)
俺をスタメンで使わないとアカンすよ!と言わんばかりの好成績ですね。どちらも10試合の間で3本塁打を放ち、さらには計20試合のうち16試合で出塁、13試合で打点をあげるなど、打撃での存在感を十分に発揮しました。
「使おうか迷うな…」という状況においてすぐに結果を出す、この村上選手の驚異的な粘り・踏ん張りが高卒2年目で飛躍できた要因である、と考えています。
8.シーズン全体を通して
最後に、最終的なシーズン成績についても何点か触れておきます。
打率.231(593-118) 36本塁打 96打点 74四球 184三振 OPS.814 (.332/.481)
1つ目は、OPSに注目しよう!ということです(このnoteも、ここまでOPSを中心に触れてきました)。高卒2年目の村上選手を語る際、「打率が低い」「三振が多い」「最下位だから我慢できた」といったことが語られがちです。実際、セリーグの規定の中では最低の打率ですし、三振の数は日本人歴代ワーストの184三振でした。
ですが、OPSを見ると、村上選手は十分に「主軸」であったことが分かります。2019シーズンでOPS.800を超えた選手は、規定打席に到達した30選手の中で、以下の13選手のみでした。
巨人:坂本(.971)、丸(.884)、岡本(.828)
DeNA:ソト(.902)、筒香(.899)
阪神:糸井(.819)
広島:鈴木(1.018)、會澤(.826)
中日:ビシエド(.870)
ヤクルト:山田(.961)、バレンティン(.917)、青木(.826)、村上(.817)
勿論OPSが全てではないですが、この表を見ると、各球団に数人しかいないコアのバッター達に肩を並べていることが分かりますね。(4人もいるヤクルトがなんで最下位やねん!という話は置いておきましょう…)
そして2つ目。打率は確かに高くはないですが、シーズン当初の状態を考えると、「よく.230付近で維持できているな」と捉えることもできます。下は村上選手の打率の推移を表したグラフなのですが、大きな波がなく、安定して維持できていることが分かります。今まで見てきたように、月間OPSが.800を切ったのも2か月だけでした(.844→.884→.764→.560→.909→.908)。
リーグ6位の四球数を記録するなど出塁能力に長けており、出塁できなかった試合は143試合中29試合しかなかったことが、成績が安定した要因と考えることもできますね。
というわけで、ここまでお読みくださった方、ありがとうございました!見切り発車で書いたため、構成やデータが不十分で申し訳ないですが、高卒2年目の村上選手の凄さや魅力が、少しでも伝わっていれば幸いです。
村上選手はこの翌年から全試合「4番」に座る訳ですが、それはまた別の機会にでも…。
~参考文献~
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?