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追憶_014_キレートレモン

実家を出てから11年。引越し作業以外で他人を家にあげたことが一度もない。他人の家にあがるのも気を使うから得意ではない。実家に友人を読んだことすら数えるほどしかない。私の部屋は私が最低限リラックス出来る空間として成立している。そんな殺風景な部屋についに人をあげることになった。人生初、それも彼女を。

私はテレビを見ない。正確には見なくても支障がない生活を過ごしてきた。決まった曜日に決まった番組を見るためにテレビに向かう余裕のある生活をしたことがない。地上波ドラマを通しで見たことはもちろんないし、幼い頃から流行りのものや有名人の名前もほとんど知らなかった。

なので私の部屋には最低限の家具家電とマットレス、仕事机、卓袱台しかない。流石に不味くないだろうか。引越し直後のためWi-Fiすら飛んでいない。詰んでいる。早々に開き直ることにした。せめて掃除だけでもと意気込んでいたら待ち合わせギリギリになってしまった。

彼女は既に改札の外にいた。普段より薄化粧なのだろうか、なんだかドキドキする。スポーティな服装もよく似合っていて素敵だ。毎日利用している駅がとびきりのデートスポットのように感じる。私の頭は蕩けてしまったみたいだ。

二人で家へ向かうとき、合鍵で扉を開けるとき、隣り合わせで茶をしばくとき、子どものようにじゃれ合うとき、一緒に料理するとき、こんな幸せをいつまでも守っていきたい、そう思えた。

大丈夫。
とても曖昧な言葉が、とても適切に感じた。

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