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追憶_017_ホルモン、辛めで

京浜東北線は肝心なときに限ってやってくれる。はやる気持ちと裏腹に、電車はマイペースに進む。待たせるより待ちたいタイプなので調子が狂ってしまう。
彼女は改札の外にいた。視界に入るだけで心が晴れる。今日も今日とて最強だ。怪しげな英会話レッスンの隣で生パスタを堪能したら、早速今日の目的地へ向かう。

二人でエンゲージリングの下見だ。
今どきと思われるだろうか。サイズや好みを調べるのは大変だろうけど、正直なところ自信が無かった。自分自身、大切なものを購入する時は半年以上悩むのもざらだし、贈り物となると出来れば相手に相談したくなってしまう。だからと言って一方的に想いを押し付けてしまったか気もする。彼女には彼女の理想があっただろう。正解にしてしまえるよう努めれば良いのに、いつも正解を探そうとしてしまう。彼女が私といることで一片の悔いも残さないように、とても傲慢な考えだな。

ショーケースを眺める彼女はとても楽しそうだった。王道、モダン、アンティーク、色んなデザインを試着してみるとどうやらお気に入りがわかったみたいだ。なんでも褒めてしまう私もとても似合っていると感じた。この笑顔の理由になれればそれで良い。格好つかなくても、他人と違っても、私達が納得出来る幸せが見つかれば良い。

きっと私は、これからもこうやって一人勝手に不安になっては、勝手に彼女に救われるのだろう。知りもしない誰かの普通に怯えたとしても、彼女の普通によって大丈夫に変わるのだろう。
私の心の真ん中の、誰一人寄せ付けなかった特等席に、彼女はすんなりと溶け込んだ。

私がどれだけそれを求めていたか。
きっと彼女は知らない。

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