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SW/AC Library |川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

実際にSW/ACの本棚にあったり、相談員らが参照する読みものを紹介するSW/AC Libraryです。

SW/ACがつなぐ福祉/介護/障害/対話/アートの領域などなどをテーマに、それぞれの分野に馴染みのない人にも接点や関心を持つきっかけになる書籍などが登場します。執筆は相談員の小泉です。
対話形式の文章ですので、訪問者がこられたら、SW/AC でどんな相談の場をつくるのかも垣間見えるかもしれません。

今回は川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル、2021)をご紹介します。障害やアクセシビリティに関わるお話でもありますが、私たちの相談対応の核にある対話についても考えるヒントがあり、その点を紹介していきます。


〈以下の相談内容は実際の相談ではなく、架空の創作です。また紹介する書籍の文章表現を尊重して文章を構成しています。〉


今日はSW/ACのオフィス近くにアトリエのあるアーティストが話をしたいと、立ち寄ってくれました。

こんにちは、ご無沙汰してます!

相談者:こんにちは。結構久しぶりですね。

最近はどうですか?

もうすぐ個展があって、その準備をしています。あとは、ある美術館のアクセシビリティを向上する企画に呼ばれることになって。収蔵作品を起点に何かをつくることになっていますが、まだ考え中です。

アクセシビリティの向上を目指す美術館も増えてきていますよね。この本もその参考になるかなと思って手に取ったんですが、その中の対話に惹かれてしまって。

「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」では、視覚障害のある白鳥さんと著者の有緒さん、友人のマイティなどが全国の美術館や博物館を一緒に巡って、ひとつずつ作品を前に、鑑賞してやりとりする様子が書かれています。
白鳥さんと共有するために、色々と言葉にしていくうちに、作品を見ることを介して個々に見えているもの、考え、迷い、信じていること、記憶などが出てくる。
それぞれに違う感覚を持った人たち、それは障害のあるなし、で分けられるものでもなくて、ひとりひとり感性が違う人たちの対話の記録という感じがしました。何か課題や問題について語り合うというより、作品を見ることを介してお互いが知り合っていく。

作品はひとりで集中して見ていくことが多いです。言葉にするより手を動かす方が得意かもしれないけど、そういう対話なら参加してみたいですね。

作品自体はいろんな見方がされていくんですが、対話を通じて共通解のようなものが浮かび上がってくるのも面白いです。

「こういうことってたまにあるんだよね。みんなで見ていると、知らず知らずのうちに作品の核心に近いところにたどり着いちゃうの。ひとりでそこまでたどり着くって難しいんだけど、みんなで色々と話しているうちに、『実はそうなのかも』というところまで行けちゃう。ひとりではなし得ないことが、大勢ではできる。だからほかのひとと話しながら見るって、やっぱり面白いんだよねえ」

(「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」
第6章 鬼の目に涙は光る より)

私たちが相談を受ける時でも、事前にいろいろこうかな、ああかな、と道筋を考えてしまうんですが、話を聞いているうちにお互いが納得するポイントが見つかる時があって、その時は先に答えを用意せずに話すって大事だなって思います。

アクセシビリティと言っても、いろんな人が美術館に来るだけじゃなくて、作品との新たな対話ができるのもいいですよね。目で見るだけじゃなくて言葉で見るみたいな。白鳥さんにとっても見ると言ってもいいのかな。

有緒さんは、障害について知らないこと、気遣いをしすぎることなど自分の中の「戸惑い」や「壁」をきちんと描きたいとおっしゃっていて、白鳥さんに質問したり、対話の時間を重ねていって、そうした壁を越えていく様子も記録されています。「何が見えましたか?」と質問することはNGという単純な話でもなく、一緒にいる人や環境によって作品の見方も様々に変わっていきます。その中で、うちなる差別や優生思想についても話されていくところもあるんです。

へえ、また参考に読んでみようかな。
あ、今日はそろそろ行かなきゃ。ではまた。

今後の企画がどんなふうに進むのかまた聞かせてください!またまた。


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