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SW/AC通信vol. 17 ケアまねぶと勉強会を行いました。

福祉、地域、教育などのさまざまな分野とアートをつなぐ相談事業、Social Work / Art Conference(SW/AC)がニュース形式で情報をお伝えするSW/AC通信です。今回は毎年行なっているインリーチ(勉強会)についての報告です。

共同開催 ケアまねぶとSW/ACの勉強会

SW/ACでは毎年、相談の質を高めるためのインリーチ(勉強会)を開催しています。今年度はディレクターの奥山がメンバーになっているリサーチ・コレクティブ「ケアまねぶ」と一緒に勉強会を行うことになりました。
勉強会では福祉やケアに関心を向けつつ、ネットワークづくりを試みるアート関係者の活動事例を共有してもらうことができました。

ケアまねぶとは?
2021年末ごろからだんだん結成されつつあるリサーチ・コレクティブ。ひとりひとりのためのケアを突き詰めると多くの人のためになる予感から、福祉のケアマネジメント理論のアート分野への応用を試み、アーティストの日常にも関わるマネジメントを模索するチーム。

勉強会では福祉やケアに関心を向けつつ、ネットワークづくりを試みるアート関係者の活動事例を共有してもらうことができました。

1回目は7月に開催。舞台芸術分野の制作者に向けたメンターシッププログラムを行う「バッテリー」から清水翼さん、柴田聡子さんを迎えました。制作者が課題やビジョン、そして不安を共有することができるメンターシップの仕組みは、劇団やダンスカンパニーの中で実演者とは異なる立場で動く制作者にとってピアサポート的な意味を持ちます。先輩後輩間のノウハウの伝達が機能しなくなっているからこそ、サポートの仕組みを整えることが有効なのでは、という参加者の意見も聞かれました。

これまでの活動アーカイブがウェブサイトでも公開されている

2回目の勉強会は8月に開催。ゲストはキュレーターで、社会福祉士の資格取得に向けて勉強中の青木彬さん。支援者らが移住して地域の生活改善を目指すセツルメント運動についてのリサーチの紹介をしてもらいました。社会福祉活動として取り上げられるセツルメント運動では、ものづくりや芸術鑑賞などがコミュニティの中で行われることも。生活を豊かにする、ケアや教育の一環として行われてきた文化的な表現活動は、現代のアートプロジェクトの成り立ちや意義を考える上でも参考になると青木さんは言います。


福祉・医療・アートの領域を跨ぎながら活動する人たちへのインタビュー集「アートにおける臨床的価値を考える」。青木さんは領域を横断するアートの評価方法を多元化することも試みている

作家の生活や創作活動の継続への視点があるからこそ

勉強会ではケアまねぶが取り組んでいる、アーティストの「ケアマネジメント」に関するモデルケースの共有も行われました。「アセスメント」と言われるヒアリングを経て立てられた「ケアプラン」においては、創作手法に関することから、周囲とのコミュニケーションや個別の心理的な傾向に至るまで対象者の潜在的なニーズが明らかになっています。
プランの中では、ニーズに対する支援策だけでなく、相談したアーティスト本人の役割や活用できる機関・サービス、課題が解決したかを評価する時期についても明記されているのが特徴的です。
また、アーティストとその周囲にいる人たちが本人の弱みや不得意なことをあらかじめ共有し、それぞれがケアし合える環境を作っておく。このように事前に環境に介入して、状況を変えていこうとするのも独自の視点といえます。

SW/ACでは、相談対応を「きく」、「つなぐ」、「わたす」、「さがす」という大きく4つに分けて整理して、相談者のニーズに対応することに力を入れています。ケアまねぶのように課題解決がなされたか、評価する時期や相談者本人の役割などをはっきりと確認するわけではありません。アーティストへのケアマネジメントの応用は、アーティストとともに本人の生活や創作活動が「継続」していくことを目指すからこそ必要な視点なのでしょう。
ケアをし合うことのできる仕組みが文化芸術関係者の間でも求められていること、またアートの実践を捉え直す活動が福祉の中にも見出せることを改めて確認した勉強会でした。今後SW/ACでも、モデルケースの共有、相談対応時のアセスメントを更新する機会を設定したいと感じました。


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