SW/AC通信vol.12
福祉、地域、教育などのさまざまな分野とアートをつなぐ相談事業、Social Work / Art Conference(SW/AC)がニュース形式で情報をお伝えするSW/AC通信です。今回はSW/ACの協力した絵本発行にまつわるコーディネートのお話です。相談からプロジェクトが走り出すまでのSW/ACの動きをレポートにしました。(そのため、少し長くなりました!)
絵本『はなのちるちる』が発行されました!
絵本を作りたいという一件目の相談
SW/ACが2020 年に立ち上がり、一件目の相談が一般社団法人京都市老人福祉施設協議会(市老協)から寄せられました。市老協さんは京都市内の全ての高齢者福祉施設が加盟している協議会で、高齢者とその家族の尊厳ある生き方を実現する福祉支援の向上を目指して活動をされています。
最初の面会では、市老協の有志メンバー(施設長さんや事務局職員さんたち)が集まり「日々関わっている高齢者や介護にまつわる絵本を制作してみたい。やってみたことがないので、どこから手をつけたら良いだろうか」とご相談をいただきました。
私たちとしては、日々介護や福祉支援を担う方々が、そもそも、絵本をどうして作ろうと考えられたのかという部分に非常に関心を持ちました。何度か意見交換の場を持つことをお願いして、職場(介護の現場)でどのようなことを感じて日々働いておられるのかを聞かせていただきました。
どのように生きるかという考えは、特別養護老人ホームで過ごされる高齢者自身、家族、支援者、それぞれの立場で異なることがあること。その人らしく、老いて、暮らすことの難しさ。子どもは成長していくのとは反対に、高齢者は亡くなっていく、その中でも関わりを続けていること。一人のお年寄りとの出会いや人と接する喜びが仕事を続ける動機になっていること、など。
また、子どもたちやその親世代と、彼らが日々接している高齢者とは、接点が少なく、「老い」との距離が生まれていると感じておられることもわかってきました。絵本の読み聞かせを通じて、親にも子どもにも、高齢者の生き方を伝えることができるのではないかと発想されたそうです。そうして間接的にでも介護の仕事についても伝えられれば、とのこと。
確かに、高齢者が老いつつ、ありのまま生きていることを絵本で伝えることができれば、少しずつではあっても、高齢者との出会い方や一緒に地域で暮らしていくあり方に変化が生まれるかもしれないと私たちも想像しました。
絵本プロジェクトの始まり
市老協の有志メンバーが絵本プロジェクトを立ち上げられ、「老い」や「死」それとともにある「生」について多世代で知り、考えるための絵本の制作が始まりました。どのように、誰に、何を届けるのか施設の運営の合間を縫うように、一つ一つ話し合いが行われました。
SW/ACは、世の中にこうしたテーマが着実に届いていく絵本を作るために、プロジェクトと絵本編集者の筒井大介さん(野分編集室)をつなぎ、作家のコーディネートや制作のディレクションを依頼しました。
原文を書く作家には、『へろへろ-雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』で老いた人々とその周囲で彼らを支える人たち、そして社会について鋭く観察をしながら、人々のもち味を軽快に描き出してきた鹿子裕文さんを迎えることになりました。文に合わせて絵を描いてもらうことになったのは、京都で漫画家として活動する森田るりさんです。『我らコンタクティ』、『自転する彼(女)』などの作者で、デジタルでの表現を基本としながら、シーンの構成や展開にも魅力があります。
SW/ACからは、実際に絵本プロジェクトのメンバーと作家・編集者とが集まり、「老い」や「絵本」について質問し合い、聞き合う場を設けました。絵本プロジェクトのメンバーからも絵本の内容に関わっていきたいと思いを聞いていました。私たちとしても、テーマをもとに一方向で発注された絵本が出来上がるという流れにはしたくなかったのです。そして、作家たちには絵本をまずはじめに受け取る読者として、介護の仕事をするプロジェクトメンバーと知り合ってほしいとも思っていました。
ここには書ききれない、約2年にわたる様々な準備、制作期間を経て、絵本『はなのちるちる』が発行されました。
介護の現場から提供された視点が、編集者や作家など、主人公の「はなの」さんのようにはまだ老いてはいない(皆さんお若いのです、)作り手の想像力を介してどのような表現となったのか、ぜひご覧いただきたいと思います。
絵本の購入について
『はなのちるちる』の詳細・購入は特設ウェブサイトからどうぞ。作家たちからのコメントも寄せられています。書店でのお取り扱いも募集中です。下記からお問い合わせください。
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