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登山は競うものではない

私は高校二年生の時、半年ほど山岳部に所属していた。
最初の山行はいきなり雪山だった。それが未だに私の唯一の雪山登山だ。
そして、夏山の縦走で、北岳から見たご来光が忘れられずに、三十四歳で登山を趣味とするようになった。
その高校の山岳部では、インターハイ予選に出た。私は登山は「競うスポーツではない」という持論があり、「景色を楽しむべきものだ」と考えて、下山時に山頂近くでよそ見をしていたら、足を捻挫してしまった。それまでトップを独走していたのに私のためにチームは次々に他のチームに追い抜かれ、最終的には県で七位となりインターハイ出場はできなかった。もし、私が足を捻挫していなければ、一位通過でインターハイに出場できたのだ。そうなると私やチームメイトの人生もいくらか違ったものであったかもしれないが、しかたがない。私もチームメイトもあまりインターハイ出場に情熱はなく顧問だけが張り切っていたのだから、悔しくはないが、唯一もしかしたら部長だけはインターハイを夢見ていたかも知れないと今思う。その山岳部は私が入ったときに、野外活動部から山岳部へと名称が変わったので、私は登山だけでなく、週末のサイクリングや、ボート、海に潜るなど、期待していたのに、登山だけになったのも少し不満だった。部員は次々に辞めていき、せっかく入った三人の一年生も九月には全員辞めてしまい、私も辞めて部長ひとりが残った。大変申し訳なく思う。しかし、あのときの経験が三十四歳で単独登山を趣味とすることを可能としたのだ。顧問にも部長にも感謝している。
それでも私は登山を競うものではないと思っているし、登山はスポーツではないとも思っている。
トレイルランニングなどかなりスポーツであるが、登山とはそもそもアウトドアという緩い枠組みの中にあるものだと思う。たしかに体力を使うスポーツの側面があるにはあるが、そこだけが登山ではなく、例えば、料理とか、写真撮影とか、私の場合、景色を見ながら文章を考えるなど、スポーツとは言えないものがたくさん含まれている。それらはけっして誰かと競うものではない。
私はさっきも今度行く山の動画を見ていたが、たいした山ではないがその動画投稿者は自信を持って登頂の記念撮影に写っていた。エベレスト登頂の記念写真などで決めのポーズを取っている登山家の姿はかっこいいが、私が行こうと思っている、今度の山は百名山ではあるが、エベレストではない。多くの人が行ける山だ。それでも、私はその山を楽しみにしているし、真剣にならないと命に関わるので、他の山と比較して、たいしたことはないなどと言えないのである。
そこの山小屋のテント場で私は初めて野外でウインナを茹でてみようと思っている。たかがウインナであるが、私にとっては初めてなのでテンションが上がる。
これのどこがスポーツなのだ?
ウインナを競うのか?
人と比べるべきものでは全然ない。
たしかに登山スキルには高低があるが、スキルが低い人の登山は面白くない、というわけではない。
いや、本当に、私は次の登山を楽しみにしているのである。
池を見るのも楽しみだし、山頂からの景色も楽しみだし、テント泊も楽しみだし、ウインナを茹でるのももちろん楽しみだ。

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