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何を着るか

二十世紀の代表的建築家ル・コルビュジエの有名な言葉に「住宅は住むための機械である」というものがある。
また、これと似た言葉で、建築家ルイス・サリヴァンに「様式は機能に従う」というものがある。
建築はたしかに雨露を防ぐことが最も重要であると思うが、それでも、カタチを為す物である以上、デザインがある。機能だけではカタチを作ることはできない。いや、機能だけでもそれに従う様式ができてくる。
私はこの文章で建築のことを書こうとは思わない。
服のことだ。
建築のように服には、機能がある。
まずは保温の機能、そして、陰部などを隠す機能がある。
しかし、その機能さえ守られれば服はできるかというとそうではなく、色やカタチも必ず形成されねばならない。
したがって、もし、着る服を着る本人が自由に選べるならば、その服はその人の思想を表わす物となる。
服装などどうでもいい、機能さえあればそれでいい、と言う人でさえ、服は選ばねばならず、その選んだ服はその人のそのような思想を表わすことになる。
日本には制服の文化がある。
特に学生服は特徴的だ。
東アジア文化圏はそういう風潮があるのか知らないが、とにかく日本には学生服が昔からある。
戦争中は士官学校の制服などに若い娘たちは憧れたらしい(私の祖母からの情報)。
その伝統の中で、若い子供たちは制服への憧れがあるようだ。
私も小学校を卒業し、中学に入ると学生服を着ることになった。私は学生服を買ってもらったとき、喜んで、鏡の前でしゃがみ込んで、不良の真似をした。私にとって学生服は不良マンガのコスプレに過ぎない面があった。
しかし、最初は喜んで着た学生服も長く着ていると嫌になってくる。
面白くないのだ。
しかし、学生服を着崩しただけで、学校の教師はやかましくそれを注意する。
それでも着崩すのは気概のある者だけで、そういう子は不良というレッテルを貼られ、教師から特に指導されたと思う。
しかし、上にも述べたように、服は着る者の思想を表わす。
先生たちが「ワイシャツの裾はズボンの中に入れろ」と言えば、入れるか入れないかの二択しかないそれは、先生に従うか反抗するかの二択に意味合いが変化してしまう。
私はこれが非常に嫌だった。
中学生くらいになると、服を選ぶことに非常に関心を持つようになる。
何を着るかが生き方になる。そういう成長期の子供の生き方を、制服という一様なカタチに押し込めようというのは良くないと思う。
ただ、私の学生服が不良マンガのコスプレに過ぎなかったように、今の若い子の自由に選ぶ服も、その子の無知な世界観を表わしているように見えることがある。
好きなマンガの世界観を生きることが自由なのか?
いや、私もマンガの影響は受けていた。私はマンガ家を目指していて、自分のマンガの世界観を現実の世界観にしていた。
まあ、マンガとかコスプレの話になると込み入ってきて難しくなるのでここではやらずにおく。
人にはブランド志向というものがある。
先に述べた士官学校の制服もブランドの一種である。
私も高校は名門校だったのでその制服を着ていることは自慢だった。
ブランドには高級ブランドがあって、イタリアやフランスの物などが多いと思う。
自動車にもそれが顕著にある。
服も車も高級な物で固めたがる傾向が若者にはある。
若者はカネがなく、カネがあることを示す高級ブランドに身を包みたく思う。
私も高級ブランドを着たかった(しかし、カネがなく着られなかった)。
最近、弟と話したのだが、四十歳も過ぎると、ブランドなど関心が無くなる。
弟はメチャメチャブランド志向、流行に敏感な子で、職業は美容師になった。その弟がブランドに関心が無いというのは驚いた。
私も若い頃はマンガ家になって成功して高級ブランドで身を固め、高級車を乗り回したいと思っていたが、今ではどうでもよく、マンガ家の夢の続きである小説家として成功することだけを考えている。それは高級ブランドが欲しいとか、単に金持ちになりたいとかではなくて、自分の仕事を成し遂げたいという思いが強くなっているからだ。
そもそも高級ブランドに身を包んだり、高級車に乗ったりしたいのは自分を価値ある者として示したいからで、自分には価値がないという恐れへの裏返しでもあるだろう。
大人になり四十を過ぎてもまだ自分の高学歴を自慢したり、勤めている会社の大きさや価値を自慢するのは自分に自信がないからかも知れない。
大人ならば自分の生き様に自信を持つのが本当の価値ある生き方であると思う。
最後に建築家の話に戻るが、スペインの有名な建築家でガウディがいる。あのサグラダ・ファミリアの建築家だ。彼は晩年身なりに気を遣わなかったため、交通事故で死んだとき浮浪者と間違えられたという。
作品をどう着飾るかに関心を注ぐ者は、自分が着飾ることには関心を示さないのかも知れない。

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