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【冒険ファンタジー長編小説】『地下世界シャンバラ』19

二、山賊グルドとライとレン

 グルド率いる山賊たちはラパタ城の西の山の中に隠れていた。岩肌の露出した山だが、岩がごつごつしていて、隠れる場所には事欠かなかった。ラパタ国を通らねば東のマール国には行けない。ラパタ国を占領しているアガド軍がグルドたちを足止めしていた。
 隠れているグルドたちの所に城よりスネルが情報を持って来た。
「『山賊グルドの娘キトがラパタ城に囚われ、拷問を受けている。グルドはシャンバラの秘宝を持って、ラパタ城に来い。そうすれば娘は釈放する』と触れが出されています。実際、キトが十字架に縛られ鞭打たれています。まったく残忍な男です。アガドという男は」
グルドは言った。
「なに?キトが?鞭打たれている?我が娘が?」
片眼の剣士バドは言った。
「スネル。おまえはシャンバラに行ったとき姿が見えなかったがどこにいた?」
スネルは言った。
「女を漁っていました」
「ふ」
グルドは笑った。
「スネルよ。どうしたらキトを助けられると思う?」
「シャンバラの秘宝ともども財宝をここに隠して、ラパタ城に行くのです。親分の身柄とキトの身柄を交換します」
「うむ、それならキトは助かるな。だが俺が危ない」
「財宝のありかを教える代わりに釈放させるのです」
「なるほど、だが、もっと安全なやり方はないのか?」
「相手は七百人の軍隊です。四十人の山賊ではどうしても策略を使うしかありません」
と、スネルが言うと、剣士バドは言った。
「山賊がかしらを人質に差し出すのか?」
グルドはしばらく考えた。そして頷いた。
「ここに財宝は隠して置こう。みんな、ラパタ城に行くぞ。俺は投降する。キトの身柄と交換だ。みんなにはキトを守って欲しい」
片眼の剣士バドは言った。
「父親だな」
 グルドは四十人の山賊を引き連れ、谷底の道に降りた。スネルは独り財宝の隠し場所に残り、冷笑を口元に浮かべて谷底のグルドたちを見下ろしていた。谷底の道はラパタ国からシャンバラの入り口ツォツェ村を繋ぐ道だ。そこで、グルドたちはライとレンに出くわした。
 ライは言った。
「グルド!なぜ、おまえがここにいる?」
グルドは言った。
「それはこっちのセリフだ。なぜ、おまえらがここにいる?」
「キトを助けるためだ」
「なに?娘を?おまえたち、それは本当か?」
「嘘を言ってどうなるんだよ。キトは俺たちの仲間だ」
「キトは俺の娘だ。俺も娘を助けに行こうとしている」
キトを救出するという目的が一致した。
 レンが言った。
「じゃあ、協定を結ばないか?僕たちはキトを救いたい。グルドもキトを救いたい。キトを救出するまで僕たちは味方だ」
「む」
グルドは言葉に詰まった。
「俺は今から投降し、キトと俺の身を交換することになっている。シャンバラの宝は隠してある。だからアガドと取引ができる」
レンは言った。
「シャンバラの秘宝か?」
「そうだ、黄金のダイヤだ」
「あれには世界を支配する魔力があることを知っているか?」
グルドは驚いた。
「なに?知らない。そうか、それでアガドはあんな物に執着するのか?」
「しかも、おまえが盗んだ物は偽物だ。本物はまだシャンバラにある」
「なに?」
レンは言った。
「あれは黄金に輝くガラスの玉だ。地面に叩きつければ簡単に割れる」
「マジか?」
「マジだ」
グルドは言った。
「だが、それはアガドには知られていないんだろ?」
「たぶんそうだ」
「じゃあ、取引の材料にはなるな。偽物ならばこちらが有利だ」
「僕たちはキトを救出したらシャンバラに向かう。ルミカを連れて来てシャンバラへの入り口を閉ざす」
ライは驚いてレンの顔を見た。
「え?レン、シャンバラでの修業は諦めるのか?」
レンは言った。
「僕には真実よりも大切なものができた。ルミカだ」
ライは笑顔になった。
「レン、おまえ・・・」
グルドは言った。
「入り口を閉ざす?どうやって」
レンは言った。
「震空波だ」
「そうか、俺が闘林寺で会得できなかった奥技だ」
「閉ざしてしまえば百年は開けることはできない。つまり、アガドは本物の秘宝を取りに行くことができない」
グルドは言った。
「それも取引の材料になりそうだな」
「あくまで取引か?武力は使わないのか?」
と、ライが言うと、グルドは言った。
「こっちの手勢は四十人だ。相手は七百人、勝ち目はない」
ライは言った。
「俺たちは震空波を使える。実際、ツォツェ村で脅しに使ってみたら効果はあった。百人の兵士が道を開けたぞ」
グルドは言った。
「娘が人質になっているんだ」
ライは下を向いた。
「キト・・・」
グルドは言った。
「暴れるのは俺とキトが人質として交換されてからだ。だが、俺の考えでは秘宝を取引に使える。しかも偽物の秘宝だ。暴れる必要はない」
レンは言った。
「僕たちの仲間、ルミカの両親と弟が拘束されていると聞いた。助け出したい」
グルドは言った。
「じゃあ、俺が取引をしている間に国王夫婦と息子を救出したらどうだ?キトは俺が交渉で取り戻す」
レンは言った。
「わかった。僕たちとグルドは手を組まない。別行動だ。あとはなるようになれだ」
グルドは笑った。
「そのほうがいい」



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