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【冒険ファンタジー長編小説】『地下世界シャンバラ』20

三、交渉

 ラパタ城の東門は開いている。
 東門はラパタ城の正門であり、その前には広場があって広場の周りは田畑が広がっている。
 朝、その門前の広場の門から距離を取ったところに四十人の山賊が立っていた。無論、グルドの一味だ。山の中を隠れて移動し、城の東側に回り込んだのだ。初めからこのコースを取っていればラパタ城で足止めされることなく東のマール国へ抜けることができたことがいまさらわかった。しかし、今では状況が違う。キトが囚われているのだ。グルドは大音声だいおんじょうで言った。
「交渉したい!」
「何者だ?」
東門を守る衛兵は言った。グルドは答えた。
「囚われの娘、キトの父親、グルドだ。俺の身柄と娘の身柄を交換したい」
伝令が玉座の間のアガドに報告した。アガドはニヤリとして顎を撫でた。
「ほう、父親が娘の身代わりに?それはどんな意味があるのかな?」
伝令は言った。
「秘宝のありかを教えるとのことです」
「そうか、わかった。そのために娘を公開拷問していたのだ。よし、娘の縄を解け。門の前に連れ出せ。私も行く」
地下牢にいたキトは連れ出された。
牢を出るときに、また、キトが拷問されると思っていた王妃が言った。
「しっかりね。必ずあなたのお父様やお友達が助けに来てくれるわ」
 キトは服を着せられ、表に出て拷問されていた広場を通り過ぎたので、「あれ?」と思った。そして、東門の外に出された。そこにはアガドがいた。
 アガドは言った。
「小娘、見ろ。おまえの父親がおまえとの身柄の交換を申し出てきたぞ。よかったな。おまえは自由だ。そして、父親が囚われるのだ」
グルドは東門前の広場の距離を取ったところに山賊を引き連れ立っていた。キトは疲れていて声が出なかった。
アガドは言った。
「グルド、そちらから一人で歩いて来い。こちらから娘を歩かせる」
キトは解き放たれた。キトはグルドのほうにゆっくりと歩いて行った。グルドもゆっくりと歩いて東門に近づいた。山賊とアガド軍の対峙する間で親子は抱き合った。
 グルドは言った。
「情けねえな。山賊なのに。父親なんだよな」
キトは言った。
「ありがとう。親父」
グルドは言った。
「じゃ、俺はアガド軍のお縄につく。おまえはバドたちに守られて逃げろ」
グルドはアガドのほうにゆっくりと歩いた。キトは後ろを振り返りつつ山賊たちが立つほうへ歩いた。
 グルドはアガドの手下によって捕縛された。
 そのとき、城の西のほうで爆発音がした。
「なんだ?」
アガドは城の中を振り返った。そこに縛られたグルドは体当りをした。アガドと共に地面に倒れたが、周りの兵士に取り押さえられた。グルドは地面に押し付けられた。
「ちっ」
アガドは立ち上がってグルドの顎を蹴った。
「この、山賊が!くだらん真似をしおって」
グルドは何度も蹴られた。すると、山賊たちが攻めてきた。
「親分を蹴るなぁー」
親分が人質になっているというのに感情的になると攻めてしまうところがグルドの子分たちだった。
 キトはその間に数名の山賊に守られてその場を去った。
 キトは言った。
「みんな、ありがとう。あたしも戦えればいいのに」
「その傷では無理だ。どこかの民家に隠れて治療しましょう」
キトはもっともだと思い、山に近い森の中にある民家に隠れることになった。その民家の住人は山賊を受け入れてくれた。アガドは住民に嫌われている。
さて、東門の前では山賊がアガド軍と矢の応酬のあと入り乱れて戦った。
アガドは捕縛されたグルドを連れて城の中へ急いだ。
アガドは訊いた。
「なんの爆発音だ?」
兵士が言った。
「何者かが、西門から侵入しました」
アガドは言った。
「その数は?」
兵士が言った。
「わかりません」
「わからない?そんなに多いのか?」
「いえ、少ないのです。ひとりという報告もあれば、ふたりという報告もあります」
「たったそれだけでこんなに大騒ぎなのか?」
「敵は奇妙な技を使います」
アガドは理解した。
「闘林寺の者か?」
「は、もしかしたらそうかと」
「殺せ!」
西門で暴れているのはライだけだった。レンは敵の陣形を崩すと、城の中へ走り込み、追っ手を倒しながら地下への階段を探した。牢屋は地下にあるというのが、ルミカからの情報だった。手薄な城内を守るアガド軍兵士を倒してその鎧を奪って自ら着てアガド軍兵士に成りすまし、城の地下へ侵入した。
 ライは震空波を撃ちまくった。石を積んで建てられた城壁の西側はメチャクチャに壊れた。アガド軍の兵士たちはじりじりと城内に退却した。ライは矢の的にならぬよう俊敏に動いた。武装したアガド軍兵士に対して黄色の武道着を着ただけの素手のライが優勢に戦いを進めた。十一年間の闘林寺での修業が存分に生かされた。槍を躱し相手の懐に入って拳で顎をぶん殴る。刀を躱して飛び蹴りを喰らわす。槍を奪うとぶん回して敵を寄せ付けない。跳び上がって兵士たちの頭を踏んで飛び石を渡るようにピョンピョンと越えていく。波動拳で兵士たちをぶっ飛ばして道を開けると、城の西側から北側へ進む。そこは城が城壁内の北西寄りに建っているので建物のない石壁に囲まれた通路となっている。アガド軍の守備は手薄で、北側から応援部隊が押し寄せてくる。ライはたったひとりでアガド軍を蹴散らす。
 変装したレンは地下牢に侵入した。
 途中、見張りの兵士に呼び止められるとレンはこう言った。
「アガド将軍からラパタ国王への秘密の言伝ことづてを預かっている」
看守はまさかアガド軍の鎧を着た男が不審者であるとは思わず、独裁的なアガド将軍ならこのような秘密のやり取りもあるのだろうと考え、その言葉を信じて、レンをラパタ国王のいる牢へ案内した。暗い地下牢には松明が灯っている。
 レンは他の兵士の眼がない場所まで来ると、自分の前を歩く看守の背部を突然殴り気絶させた。倒れた看守の腰から牢の鍵を奪いラパタ国王一家の牢を開けた。
 国王は言った。
「君はレンだね?ルミカは?」
「シャンバラにいます」
「助けに来てくれたのか?」
「ええ、城から出ましょう。外ではライが暴れています。山賊も東門で合戦しているようです。城内は混乱しています。陛下たちはとにかく安全な場所へ移動しましょう」
「うむ、わかった」
 
 
 捕縛されたグルドは玉座の間にしょっ引かれた。アガドは言った。
「おい、グルド、シャンバラの秘宝はどこにある?そのありかを言え」
「言ってたまるかよ」
アガドは鞭でグルドの顔を打った。
「貴様、死にたいか?」
グルドは言った。
「世界を支配するというあの石をおまえが手に入れたらどうせ俺を殺すんだろ?俺だけじゃない、マール国王だって・・・」
「黙れ!」
アガドは鞭でグルドを打った。グルドは床に顔から倒れた。こめかみから血が流れている。
 グルドは言った。
「俺が死んでもいいのか?俺が死んだらおまえの夢は消えるんだ」
「うるさい!」
またアガドは鞭で打った。グルドの左まぶたは切れて流血した。
 そこへ、国王一家を連れたレンが現れた。地下牢からは玉座の間を通って北門に行くのが外への近道だったからだ。
レンはグルドを見た。
「グルド!」
グルドはレンの姿を認めた。
「レン!」
アガドは振り返った。
「なんだ、小僧・・・は、国王か?」
グルドは言った。
「レン、シャンバラへの入り口を閉ざせ!」
グルドは後ろ手を縛られたままアガドに体当たりした。アガドはグルドもろとも倒れた。グルドは倒れたまま言った。
「レン、キトには俺の心配はするなと伝えてくれ。娘の幸せが父親の幸せだと」
アガドは立ち上がり床に転がるグルドを蹴飛ばして言った。
「なにが父親だ、娘の幸せだ、この薄汚い山賊が!」
そして、兵士たちに号令を出した。
「国王一家を逃すな!」
レンは国王一家を玉座の間の西側の壁に寄せた。兵士たちはレンに向かって行った。レンは波動拳を撃った。先頭の兵士が吹っ飛んだ。レンは叫んだ。
「邪魔だ!雑魚ども!道を開けろ!アガドの言いなりの奴隷ども!志のないイエスマン。おまえらに歴史を動かす資格はない!」
 敵の多勢のため、レンは国王たちを守りながらではグルドを助けることはできず、国王一家三人だけを導いて城の北側から外へ出た。そこに兵士たちと格闘しているライがいた。レンはライに声を掛けた。
「ライ、国王一家を連れて来たぞ」
ライは戦いながら、レンを見て笑顔になった。
 ふたりは協力してアガド軍兵士たちを蹴散らし、閉ざされている北門の木製の扉を震空波で破壊した。そして、レンが先頭で兵士を蹴散らしながら北門から城壁の外へ出て、国王たちがそれに続き、ライが殿しんがりを勤め波動拳で追っ手を阻んだ。
 そのニュースを聞いたラパタ国の一万人の国民のうち体力のある戦える者は武器を持って立ち上がった。城を占拠したアガド軍に対して城外の国民が玉座の間へ攻め込もうと戦いを挑む、城の内外が反転した形になった。
 レンたちは国王らと共に北側の森深い山の中へ逃げ込んだ。そして、山伝いに東に歩いて、森の中の民家に降りた。その民家ではキトがグルドの子分により手当てを受けていた。
ライはキトに言った。
「キト。大丈夫か?」
「ライ、来てくれた、ありがとう」
キトは泣いた。
 レンは言った。
「キト、僕たちはシャンバラへの入り口を閉ざしに行く。これ以上、あの世界に混乱を持ち込むことはできない」
「親父は?」
「今、アガドから拷問を受けている」
「親父を助けないのか?」
「助けたい。だが、グルドが言ったんだ。シャンバラへの入り口を閉ざせ、と。それからグルドはこうも言った。娘の幸せが父親の幸せだと」
「親父が・・・?」
「それにグルドは秘宝の隠し場所を教えなければ殺される心配はない」
「本当か?」
「ああ、アガドの野望はシャンバラの秘宝の魔力で世界の帝王になることだ。その秘宝のありかをグルドが吐かない限り、アガドはグルドを殺せない。だから、山賊とラパタ国民がグルドを救出する可能性は大いにある。それにグルドが盗んだ秘宝は偽物だ。本物はまだシャンバラにある。それがわかればアガドは再びシャンバラを目指すだろう。だから、すぐにでも、シャンバラへの入り口は閉ざさなければならない。グルドが囚われたことを無駄にはできない。彼が拷問を受けて時間稼ぎをしている間にシャンバラへの入り口を閉ざすんだ」
キトは言った。
「親父は拷問で口を割るようなやわな男じゃない。親父のことは山賊の仲間に任せて、あたしもシャンバラへの入り口を閉ざす旅に行く」
レンは言った。
「その傷では無理だ」
キトは言った。
「ライも行くんだろ?あたしはライの花嫁だ」
ライはキトと目が合った。レンは黙った。そして言った。
「わかった。三人で行こう。そして、ルミカを連れて戻って来よう」



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